「黒タイツって、タイツが黒いだけでしょ?」なんて軽く見てはいけない。その黒色の深さ、透け感、そして傍目には見えない機能まで、どんどん進化する黒タイツ。ストッキングづくりのパイオニア企業であるアツギに取材した「黒の変遷」シリーズの後編は、現在、同社が“黒の最終形”と位置づける商品に注目する。2015年発売、女性の脚を一層美しく見せる“ヒミツ”を隠したタイツだ。業界のフロントランナーと目される30代男性の企画担当者が手がけ、特許出願中という新規の着想から生まれた。一体どんな仕掛けなのか?
ストッキングの経験値を上げる女性に向け、“ワンランク上の美意識”を提案
前編で紹介したように、日本では2010年の秋冬、タイツ人気の潮目が変わった。冬場のタイツのトレンド最前線が、マット(透けない)からシアー(透ける)へ移行したのだ。高感度の若い女性たちが透け感のある黒いシアータイツに注目し、その後、秋冬に限らず黒いタイツをはくニーズも広がりをみせた。
国内市場を振り返れば、90年代からのナマ脚ブームとパンツスタイルの定着でストッキング需要の減少が続いている。アツギは2011年春夏、「プレーンストッキングの逆襲。」と銘打ち、プレーン(無地)ストッキングの主力ブランド「ASTIGU/アスティーグ」を発売。これは、ちょうどそのころ新モノとして出始めたタトゥー柄ストッキングへの注目や、K-POP(韓国ポップス)の女性アイドルグループが先導する“美脚ブーム”と時期が重なり、需要を伸ばした。市場で「ストッキングの復権」をリードする商品と評価された同ブランド、その1つが前編で詳述した黒のシアータイツ【黒】だ。
広報担当の山先 薫さんによると、アスティーグは発売以降、5年連続で2ケタの伸びを記録。業界全体も活況を呈し、この5年間に女性たちはストッキングの経験値を上げたとみる。そのなかで「メーカーとしてさらに1つ上の美意識を提案した」と自負するのが、今回取り上げる2015年発売の「アスティーグ【羨】(せん)」。ご覧のように、黒へのこだわりを暗示する黒基調のパッケージには別クラス感がただよう。
黒いストッキングをはいた女性の脚というのは、形にもよるが、美しいものだ。【羨】は、2011年に「黒のシアータイツ」として発売した25デニールの【黒】よりさらに美しく見えることを目指した“進化版”との位置づけという。
ストッキングに込めた“ワンランク上の美意識”について、アツギでは「進化の原点となる【黒】を含め、そもそも黒いストッキングをはいた経験がないと【羨】の良さは分かりづらいのでは」と当初は心配する声が上がったらしい。価格は1200円と、1足売りの平均的価格500円の倍以上もする。「商品に自信はあってもどれだけ売れるかは未知数だった」(山先さん)というが、発売初年度の2015年、販売見込を大幅に上回った。「それだけ女性にとって脚をきれいに見せるのは大きな願い。黒のストッキングが美しくキマった“透ける美脚”は憧れなのだと思います。【羨】なら叶いそう、との期待を予想以上にいただけた」(同)結果と分析する。