※昨年放映されたアニメの方では無く、もっと古いバージョンの方
「ジョジョの奇妙な冒険」、やっぱりベタだけど、「第三部(スターダストクルセイダース)」が好きだった。
魅力的なキャラが満載で、中でも花京院がお気に入りだ。
ディオという「ラスボス」を倒すための旅で、イギーもアブドゥルも、他人のために死んでいった。
更に花京院も、ディオとの戦いに敗れ、最後の命が尽きる瞬間に、ディオの弱点(厳密には「弱点」ではないけど、「スタンド」と書くと説明が面倒なので)を解明し、それを告げて、散った。
「最後の…メッセージです。これが…精一杯です。ジョスターさん、受け取って下さい」
ヒトはどうせ、いつかは死ぬ。ならば、あんな死に方ができたら、ヒトのために死ねたら…幸せかも…
所詮、マンガに過ぎない。荒木飛呂彦さんが創った虚構に過ぎないのだが、「第三部」のキャラは、荒木さんの手を離れて、それぞれが独自の命を吹き込まれたかのような活躍ぶりだ。
第三部の最終回、確か空港だったかな。承太郎とジョセフ・ジョスター、ポルナレフが「元気でな」と言って、三人三様、歩き出す。
全く後ろを振り向かず、別れを惜しむことなく、前だけを向いて歩き出す。
そのシーンで終わるけど、「別れはこうでなくっちゃな」…強く共感した。
前回の続きを書く。
初めて借りたアパートで、初めて迎えた夜も、何事も無く過ぎ、朝、目が覚めた。
駅の立ち食いそばでお腹を満たし、紳士服量販店等でスーツや靴等を買った。
痛い出費だったけど、建設業以外の仕事をする以上、
「スーツ位は必要だよなぁ」
と アパートに戻り、着替えて、履歴書用のスピード写真を撮りに行き、スーパーのフードコートで買ってきた「日刊アルバイトニュース」を眺めながら履歴書を作成した。
それにしても、自分の住所を持つということは非常に喜ばしいことだ。
得意満面に履歴書の「現住所」欄に、昨日入居したばっかりのアパート名と部屋番号を記載した。
しかし、アルバイトニュースを眺めるも、「これは?」という求人は無かった。
飲食業で求められるのはみんな18歳以上だった。
「さすがに履歴書にウソの生年月日を書くのはマズイだろう」
そのような自制心が働き、飲食業の求人とマッチングしなかったのだ。
「まぁ、焦ることはない。職業安定所とかでも仕事を探せるしな…」
タネ銭はまだ30万円あった。
節約すれば、蓄えを取り崩すにしても、最低4箇月は生活できるだろう。
「焦ることはないや。そう言えばお腹が空いたな」
「牛丼」と書かれていたひなびたお店があったので、そこに入り、大盛牛丼を注文した。お店は結構な混み具合だ。
「これが牛丼っていうやつかぁ…美味しいではないか~」
と初めての牛丼に舌づつみを打ちながら、お店の本棚に並べてあった「包丁人味平」のマンガを読んだ。
カレー戦争編を読んだところで、
「お腹も満腹になったし、さて、お店を出ようか」
とズボンの後ろポケットに手をやると、思わず、
「ゾクッ」
とした。
無いのである。全財産を入れた財布が無いのである。
マンガを読むのに夢中になってて、盗まれてしまった。
もう、悔しさと情けなさで目眩がした。
「お金を貸しては返してもらえなかったり、蛾次郎に盗まれたりしたけど、最後はこれかよ」
頭の中が真っ白になった。思わず叫びそうになった。
「取り敢えず、ここの代金は何とかしなければ」
しかし、一銭も無いので、はめていた腕時計を外して、
「スイマセン、お金を盗まれたので、これを置いていきます。いつか、支払いますので、担保として持っていて下さい」
店主は表情を変えず「あぁ、そうかい」と言いながら腕時計を受け取った。
「一体誰が盗んだんだろう。斜め前に座ったオヤジかな。それとも店主かな…」
色々と考えを巡らせたが、判っていることは、
「30万円は戻ってこない」
そのことのみであった。
考えてみれば、蛾次郎で3000円、千葉くんで3万円、そして見知らぬヒトで30万円ロスしたことになる。
「次にロスするとしたら300万円かな?」
そんなどうでもいいことを考えながら、夢遊病のように歩いて、アパートに着いた。
もう、俺の気持ちは折れていた。
さすがにアウトだ。白旗だ。アパートに入居したばっかりだけど、引き払おう。そしたら、敷金16000円は戻ってくる。
そのお金で、自宅に帰ろう…もう疲れた…
大家さんに事情を話すと、いたく同情され、敷金は返してくれた。併せて、食事を食べさせてくれた。ヒトの善意と悪意に翻弄され、涙を貯めながら大家さんが出してくれた食事を食べ、お礼を言って、駅に向かった。
「電車賃、正規料金を支払っても1万円位は残るだろう」
自宅の最寄り駅までのキップを買い、車中のヒトとなった。
ただ、今となっては思う。誰が盗んだか判らないが、盗人さんが俺から全財産を盗んでくれたので、俺は自宅に戻り、生活をリセットすることができたのだ。
盗人さんが居なければ、多分、商業高校中退のまま、肉体労働、日雇い労働に身を費やしていたかもしれない。
もちろん、実業界に進んで、莫大な財を成すヒトになってたかもしれないが、金を盗まれたりする人間が、実業界で成功する可能性は極めてゼロに近い。
従って、リセットする機会を与えてくれたという意味では盗人さんに、今は感謝している。
因みに、お金の失敗はその後も数えきれない位、しでかしたが、ショボい金額ばかりであり、300万円のジンクスは今の処、無い(笑)。