特定秘密保護法施行までになにを考えるか

公益通報者を保護できていない

 

江川 すでに決まってしまったわけですから、これからなにをすればいいのかを考えないといけませんよね。廃止しろって声もありますが、それは現実的でないと私は思います。

 

三木 はい、そこにエネルギーを割く時間はありません。

 

江川 まず考えたいのは、特定秘密の隠れ蓑の中で違法な行為などがあった場合、それを告発する公益通報者をどのように保護するかという点です。例えば、2004年に起きた自衛官のいじめ自殺事件は、いじめがあったことを示す内部文書の存在を告発した人が関連文書のコピーを自宅で保管していたことは規律違反だとして懲戒処分手続きが開始されたという報道がありましたね。とんでもない話ですよ。公益通報者を保護する仕組みが全然できていない。

 

三木 今回、非常に残念だったのは、外の話ばかりされていたことなんですね。情報は送り手と受け手がいないと流通しません。外部に対して配慮されていても、内部で縛られていたら社会にとって必要な情報はでてこないんです。

 

公益通報者保護法って対象範囲がすごく狭いんですよ。もともとこの法律は、イギリスの公益開示法を参考にしているんですけど、これは刑事罰違反はもちろん、法律義務違反、不正行為、環境問題、裁判の判決が誤っているとか、そういう事実が隠ぺいされているとか、それらも対象になっているんです。

 

あと日本の公益通報者保護法って、なぜか消費者保護法制のなかで検討がはじまっているんですよ(笑)。いまでも消費者庁の所管なんです。

 

江川 えー! どうしてですか?

 

三木 雪印の牛肉偽装事件の内部告発とか、消費者の不利益に関するところで、最初に検討が始まっているんです。まずは通報者を保護する法律を作らないといけない。その際に不正行為まで範囲を広げてしまうと、通報される側が、なにが不正なのかわからず通報を予見できないので、範囲を限定してしまったんです。社会的な不利益に関する通報を保護しようとするイギリスの考え方と全然違う。

 

民主党政権下で見直しの検討もされたのですが、事例がでてこないから検討しようがないんです。通報対象が特種ですし、関連する裁判もあまりない。事例があっても、通報者の保護を考えると世の中に出しにくい。運用の見えにくい仕組みなんですね。結局、法律を改正しないといけないような立法事実はないということで終わってしまいました。

 

江川 情報が閉じられるのは早いのに、開くのは難しいんですね。

 

三木 はい、政府の健全性を保つためにも、社会にとって必要な情報の流通を妨げない仕組みを作らなくてはいけないんですね。いろいろと法律はできても、社会に必要な範囲の情報が結局出てきていない。

 

 

photo2

 

 

特定秘密保護法を含む一連の流れは、なぜ、いま

 

江川 司法の場面でもそうですよね。刑事裁判の記録は誰でも見られるようになっていたはずが、刑事確定訴訟記録法で例外規定ができてから、原則と例外が入れ替わり、そのうえ個人情報の保護やらなんやらで、もはや見られないのがデフォルトになってしまっていて、後から裁判を検証することができなくなっている。

 

三木 被疑者にされた人の権利も擁護されず、政治犯を生みやすいようにした上、罰則を強化している。可視化も中途半端ですよね。

 

本当は、それぞれの制度がどのような繋がりをもっているのか、大きな絵を描かないといけないと思うんです。情報公開についても、特定秘密であれば、指定や解除に関する仕組み、刑事司法であれば、当事者の権利を守るための情報記録と開示の仕組み、公益通報者保護の仕組み、公文書管理の仕組み、様々な問題が絡み合っているんですね。それにもかかわらず、特定秘密保護法を反対して、ディティールの指摘のみに終始するのは、むしろ政府を利しているだけになってしまうかもしれません。

 

江川 まず社会に必要な情報の流通を妨げないために、なにが必要なのかという大きな絵柄を考える必要があるでしょう。さらに気になるのは、秘密保護の強化が単体で出てきたわけではない、ということです。これと同時に、国家安全保障会議を立ち上げ、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認めようという動きがあり、歴史認識や愛国心など関して教育に政治が介入する動きも同時に起きています。

 

そうしたことについても、長いタイムスパンで考え、未来から現代を見つめるような歴史的な視点で考えることが重要でしょうね。それこそ、私たちが昭和10年代をみて、なぜ戦争を止められなかったのか考えるように、70年後の人たちが私たちをどのように見るのか考えないといけないのだと思います。

 

三木 時間はありませんが、いまの動きが安倍政権という政治勢力によって生まれているのか、それとももっと根深いところから生まれているのかも含めて、きちんと考えていかないと思っています。

 

江川 今日はとても勉強になりました。これからもよろしくお願いします。

 

(2013年12月24日 新宿にて)

 

 

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