特定秘密保護法施行までになにを考えるか

“情報公開請求をすれば”でてくる情報

 

江川 先ほどお話になっていた沖縄での米軍墜落事件のとき、「秘密の壁」を感じたことはありますか?

 

三木 あの事件の場合、ヘリの残骸など米軍関係のものが散らばっていると、そこは米軍管轄下になってしまうんですよね(苦笑)。政務官が現場に立ち入ろうとしたら拒否されていたり。こんな状態で地域住民の安全が守られるのかという疑問は当然ありますよね。

 

あのときは情報公開請求をすれば、表面的なものならかなり出てきたんですよ。ただし公開請求をしなければ、記者クラブに張り出したチラシですら提供してくれなかった。

 

江川 えー! チラシですら!

 

……そういえば前に万引きに関する統計を記者発表したときに使われていたペーパーを見せて欲しいと頼んだら「情報公開請求してください」と言われたことがありますね。

 

三木 (苦笑)。そうなんですよ、請求しなくちゃ出てこない。

 

ただ、表面的なものしかでてこないから、事故が起きた理由とか事故処理についてだとか、核心にあたる情報はまったく手に入らないんですね。対照的だったのは、消防や警察は、むしろ自分たちがどんなことをしていたか積極的に出してくれたこと。彼らもなにが起きたのか知りたいんですよね。

 

 

「裁判所は身内じゃないから……」

 

江川 情報公開請求に対して拒否されるのは、どういった場合なのでしょうか?

 

三木 情報公開法には、六つの非公開規定があります。個人情報、法人、外交防衛、治安維持、意思形成過程、そして事務事業情報です。不開示決定の際には、どのカテゴリにあたるのか必ず明示されるので、米軍ヘリ墜落事件の場合は、外交防衛に関するために主たる情報は非公開となったわけです。

 

特定秘密保護法も同じなのですが、外交防衛と治安維持に関する非公開規定は、行政の裁量幅が非常に大きいんですね。それらは高度な専門性がないと公になるリスクが判断できないという建前です。もちろんそういう側面はあると思うのですが、だからといって行政機関の長の判断に正当性があれば非公開でよいというのは、裁量幅が広すぎる。

 

江川 しかもその判断を裁判官など、外部の人間がチェックすることはできないわけですよね。

 

三木 裁判官はチェックできませんね。情報開示請求等の審査を行う情報公開・個人情報審査会は、実際に中身をみることができるものの、例えば「この情報だけをみるとリスクはないように思えますが、全体像を把握するとリスクが高いんです」と言われてしまったら、審査会の委員は公開するべきとは言えなくなってしまう。というのも、情報公開請求によって手に入る文章は、請求した範囲の情報だけで、周辺情報や全体像はわからないんですね。それを乗り越えてまでとなると……(苦笑)。

 

しかも審査会の事務局は、各省庁からの出向者が多いんです。審査会には五つの部会があるのですが、外交防衛、治安維持に関してはそのうち特定の二つの部会がもっぱら取り扱っている。つまり外交防衛、治安維持の案件がかかる部会が特定されているわけですから、外務省や防衛省はそこに出向者を出せばいい。実際にいるんです。出向者がいれば調整はしやすいと思いますが、判断や決定について、トップからの意向を無視できるかというと疑問ですよね。

 

民主党政権時代に、行政透明化検討チームができて情報公開法改正の検討をしていたんですね。私もそのメンバーでしたが、外務省と防衛省、警察庁からヒアリングをすると、やはり彼らは情報公開請求の手続きが変わることに抵抗感を覚えていました。その三つの省庁に、「情報公開・個人情報保護審査会のインカメラ審査は認めるのに、裁判所によるインカメラ審査は何が違うのか」と質問したことがあるんですね。非常に素直な返答で「審査会は同じ行政組織なので、自分たちの事情もよくわかってくれるけど、裁判所は裁判官に守秘義務がないし安心できない」と(苦笑)。

 

江川 はあ……。

 

三木 審査会は仲間内感覚があるようですね。

 

 

photo1

 

 

アメリカの猿真似

 

江川 今回の特定秘密保護法でも、「重層的なしくみ」と言っていましたが、同じような感覚のチェック機関がいくつもできたって意味がないですよね。

 

三木 そうなんですよね。修正協議の際に、日本維新の会が「アメリカを参考にしてチェック機関をつくるべきだ」と指摘したことを受けて、保全監視委員会や情報保全観察室をつくることになったわけですが、アメリカとは全然違う性質になっています。

 

アメリカの場合、大統領と副大統領、連邦政府の機関の長が、秘密指定権限を持っているのですが、それ以外にも、秘密指定の権限を持つ人が、トップシークレットで約900人、その次のシークレットも1400人程度、最も軽いコンフィデンシャルで数十人いる。非常に幅広い上級職員が指定権限を持っているわけです。

 

アメリカは、それをいかに監視監察していくかが大きな問題なわけですよね。だからこそ、機密指定や解除に関するガイドラインを設け、それが実行されているかチェックする機能を情報保全監察局が行っている。ようはたくさんの人が権限を持っているがために、ちゃんと監視監察しないと機密指定制度がコントロールできなくなってしまうわけですね。

 

さらにアメリカには、省庁間機密指定審査委員会といって、不適切な機密指定について異議を申し立てる仕組みがあります。異議申し立てが認められなかった場合は、委員会に不服申し立てできますし、機密指定の解除についても、自動的な解除、請求による解除など、解除のガイドラインが複数ある。委員会の中に、不服申し立てを受ける機能と秘密指定の解除などを審査する機能があるんですね。各省庁の幹部職員がやることで、相互の抑止効果を働かせようとしているわけです。

 

日本はそれを参考にすると言っていますが、日本の場合は行政機関の長にしか秘密指定も解除権限がないので……。

 

江川 トップが決めたことを、事務次官がチェックできるかというと……。

 

三木 変な話ですよね。

 

江川 まわりがうるさいから、とにかく監視機関を作ってみたって感じですね。

 

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