高さ2m以下の擁壁に多い“手抜き”とは

2014年7月2日
ケンプラッツ 2014/07/01
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20140630/668969/
 
「高さ2m以下の擁壁に、意外にトラブルが多い」──。こう指摘するのは、不動産と擁壁の専門家である宮澤豊久さん(宮澤建設代表取締役)。「工作物の確認申請の手続きが不要だからと、自分流につくってしまう“手抜き工事”が多いためではないか」と分析する。連載「不適格擁壁でトラブル」の最終回は、高さ2m以下の擁壁に多いトラブルを解説する。(日経ホームビルダー編集部)
 
 建築基準法では、2mを超える擁壁には技術的基準への適合を求めている(2014年2月号の連載第1回を参照)。この場合、設計や施工の段階で審査を受け、「検査済み証」を得る。

一方、高さ2m以下の擁壁は、こうした行政手続きが不要になるため、性能がつくる側の自己判断にゆだねられてしまう。本来、高さに関わらず必要な性能を満たさなければならない。だが、過度なコストダウンや、十分な技術的知見がないことが原因で、必要な性能に満たない“手抜き工事”になってしまうこともある。代表的な“手抜き”の例を示した。

(1)鉄筋量を減らす。(2)底版幅が狭い。(3)柔らかい地盤の上につくる。(4)規格外のブロックで施工する。なお、(4)については、擁壁を塀と誤解しているケースもある。塀と擁壁の違いについては、下の図を参照して判断してほしい。

 

鉄筋量を減らす。ダブル配筋が必要な箇所をシングル配筋にするなどが原因。ひび割れが現れることで発覚する(資料:宮澤建設)

鉄筋量を減らす。ダブル配筋が必要な箇所をシングル配筋にするなどが原因。ひび割れが現れることで発覚する(資料:宮澤建設)

 

 

底版幅が狭い。擁壁が傾くなどの問題が発生する。工事範囲を狭くできるのでコストを削減するためにやってしまう(資料:宮澤建設)

底版幅が狭い。擁壁が傾くなどの問題が発生する。工事範囲を狭くできるのでコストを削減するためにやってしまう(資料:宮澤建設)

 

 

柔らかい地盤の上につくる。擁壁が沈下するなど、深刻なトラブルが発生する。事前に、地盤調査や地盤改良工事を実施していないためと考えられる(資料:宮澤建設)

柔らかい地盤の上につくる。擁壁が沈下するなど、深刻なトラブルが発生する。事前に、地盤調査や地盤改良工事を実施していないためと考えられる(資料:宮澤建設)

 

 

規格外ブロックで施工する。建築用の空洞コンクリートブロックを擁壁に用いるのはご法度。擁壁なのに塀だと誤解しているケースもある(資料:宮澤建設)

規格外ブロックで施工する。建築用の空洞コンクリートブロックを擁壁に用いるのはご法度。擁壁なのに塀だと誤解しているケースもある(資料:宮澤建設)

 

 

正規のRC擁壁。建築確認の手続きが不要な高さ2m以下の擁壁であっても、しっかりした地盤の上に、構造計算や技術基準に適合した擁壁をつくらなければならない(資料:宮澤建設)

正規のRC擁壁。建築確認の手続きが不要な高さ2m以下の擁壁であっても、しっかりした地盤の上に、構造計算や技術基準に適合した擁壁をつくらなければならない(資料:宮澤建設)

 

 

擁壁と塀の違いは、土圧を受けていれば擁壁、受けていなければ塀、というのが原則。とはいえ、既存の一般的な宅地なら多少の高低差はつきもの。「建築用コンクリートブロックでもきちんと施工すれば、50cm程度の高低差なら構造的な問題はない」と宮澤さんは語る(資料:宮澤建設)

擁壁と塀の違いは、土圧を受けていれば擁壁、受けていなければ塀、というのが原則。とはいえ、既存の一般的な宅地なら多少の高低差はつきもの。「建築用コンクリートブロックでもきちんと施工すれば、50cm程度の高低差なら構造的な問題はない」と宮澤さんは語る(資料:宮澤建設)

 

施工者に求める3項目

周囲に不適格擁壁がある敷地の購入はできれば避けたい。だが、どうしても購入したいという顧客はいる。そんな場合、不適格擁壁をつくり替える予算の有無や近隣合意の可否を事前に確認しておきたいと宮澤さんは助言する。

その上で、擁壁を施工する工事会社には以下の項目を求める。(1)工事の見積書、図面(構造図や平面図)、構造計算書の提出。(2)不具合に対応する保証期間。(3)以上の項目が分かる工事契約書の作成。また、完成後に図面通りにつくられていることを確認できる、写真や書類などの提出を求めたい。

今国会で、宅地建物取引業法が改正され、「宅地建物取引士」が生まれることが決まった。仲介事業者の専門性が深まったことを受けた改正だ。今後ますます、専門家の責任は重くなっていく。擁壁についても、顧客に対して積極的に情報提供することが求められる。

「擁壁が古くなって倒壊しそうだ」という相談を受けてつくり替えた事例。既存の擁壁は建築用コンクリートブロックを用いていた。古くからある既存の住宅地ではよく見かけるパターンだ。つくり替えに際しては、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックを用いて対応した(資料:宮澤建設)

「擁壁が古くなって倒壊しそうだ」という相談を受けてつくり替えた事例。既存の擁壁は建築用コンクリートブロックを用いていた。古くからある既存の住宅地ではよく見かけるパターンだ。つくり替えに際しては、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックを用いて対応した(資料:宮澤建設)
家を新築するにあたって、既存の不適格擁壁をつくり替えてほしいと依頼があった事例。既存の擁壁は大谷石を用いたものだった。つくり替えに用いたのは、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックだ。擁壁の上には金属製のフェンスを取り付けている(資料:宮澤建設)

家を新築するにあたって、既存の不適格擁壁をつくり替えてほしいと依頼があった事例。既存の擁壁は大谷石を用いたものだった。つくり替えに用いたのは、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックだ。擁壁の上には金属製のフェンスを取り付けている(資料:宮澤建設)
写真手前の敷地にアパ―トを建てるということで、不適格擁壁をつくり替える依頼を受けた。左写真のように、擁壁に用いてはならない建築用コンクリートブロックを用いた土留めがあった。これを取り壊して、間知ブロックを用いた石積み擁壁につくり替えた(資料:宮澤建設)

写真手前の敷地にアパ―トを建てるということで、不適格擁壁をつくり替える依頼を受けた。左写真のように、擁壁に用いてはならない建築用コンクリートブロックを用いた土留めがあった。これを取り壊して、間知ブロックを用いた石積み擁壁につくり替えた(資料:宮澤建設)

 

家が建っている状態で、鉄筋コンクリート造の擁壁をつくった例。既存の擁壁は大谷石を積んだものだった。これを鉄筋コンクリート造のL型擁壁につくり替えた。打設したコンクリートの表面に変化を付ける化粧型枠を用いている。風致地区であったため、美観に配慮した(資料:宮澤建設)

家が建っている状態で、鉄筋コンクリート造の擁壁をつくった例。既存の擁壁は大谷石を積んだものだった。これを鉄筋コンクリート造のL型擁壁につくり替えた。打設したコンクリートの表面に変化を付ける化粧型枠を用いている。風致地区であったため、美観に配慮した(資料:宮澤建設)

 

 

宮澤豊久(みやざわ とよひさ)

監修者:宮澤豊久(みやざわ とよひさ)

宮澤建設代表取締役1964年横浜市生まれ。総合建設会社勤務を経て、86年に宮澤建設を設立。不動産コンサルティング技能登録者の資格も持つ