高さ2m以下の擁壁に多い“手抜き”とは
一方、高さ2m以下の擁壁は、こうした行政手続きが不要になるため、性能がつくる側の自己判断にゆだねられてしまう。本来、高さに関わらず必要な性能を満たさなければならない。だが、過度なコストダウンや、十分な技術的知見がないことが原因で、必要な性能に満たない“手抜き工事”になってしまうこともある。代表的な“手抜き”の例を示した。
(1)鉄筋量を減らす。(2)底版幅が狭い。(3)柔らかい地盤の上につくる。(4)規格外のブロックで施工する。なお、(4)については、擁壁を塀と誤解しているケースもある。塀と擁壁の違いについては、下の図を参照して判断してほしい。
施工者に求める3項目
周囲に不適格擁壁がある敷地の購入はできれば避けたい。だが、どうしても購入したいという顧客はいる。そんな場合、不適格擁壁をつくり替える予算の有無や近隣合意の可否を事前に確認しておきたいと宮澤さんは助言する。
その上で、擁壁を施工する工事会社には以下の項目を求める。(1)工事の見積書、図面(構造図や平面図)、構造計算書の提出。(2)不具合に対応する保証期間。(3)以上の項目が分かる工事契約書の作成。また、完成後に図面通りにつくられていることを確認できる、写真や書類などの提出を求めたい。
今国会で、宅地建物取引業法が改正され、「宅地建物取引士」が生まれることが決まった。仲介事業者の専門性が深まったことを受けた改正だ。今後ますます、専門家の責任は重くなっていく。擁壁についても、顧客に対して積極的に情報提供することが求められる。
「擁壁が古くなって倒壊しそうだ」という相談を受けてつくり替えた事例。既存の擁壁は建築用コンクリートブロックを用いていた。古くからある既存の住宅地ではよく見かけるパターンだ。つくり替えに際しては、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックを用いて対応した(資料:宮澤建設)
家を新築するにあたって、既存の不適格擁壁をつくり替えてほしいと依頼があった事例。既存の擁壁は大谷石を用いたものだった。つくり替えに用いたのは、擁壁として利用できる認定を受けた型枠ブロックだ。擁壁の上には金属製のフェンスを取り付けている(資料:宮澤建設)
写真手前の敷地にアパ―トを建てるということで、不適格擁壁をつくり替える依頼を受けた。左写真のように、擁壁に用いてはならない建築用コンクリートブロックを用いた土留めがあった。これを取り壊して、間知ブロックを用いた石積み擁壁につくり替えた(資料:宮澤建設)
家が建っている状態で、鉄筋コンクリート造の擁壁をつくった例。既存の擁壁は大谷石を積んだものだった。これを鉄筋コンクリート造のL型擁壁につくり替えた。打設したコンクリートの表面に変化を付ける化粧型枠を用いている。風致地区であったため、美観に配慮した(資料:宮澤建設)
監修者:宮澤豊久(みやざわ とよひさ)
宮澤建設代表取締役1964年横浜市生まれ。総合建設会社勤務を経て、86年に宮澤建設を設立。不動産コンサルティング技能登録者の資格も持つ