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Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

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クリエイターの創造性を殺すには

Product Manager

ポール・グレアムはスタートアップの攻略に最も長けた人物であるが、同時に自身のエッセイを綴ることに多くの精力を注ぎたいと公言している。いわばブロガーだ。
彼は昔ながらのデザインの「Paul Graham.com」に、今でも月に数回の頻度でエッセイをポストしており、そのエッセイがポストされるたびに多くの人の反響を呼ぶ。

業界外の人には彼のことを著名なVCではなくすげー良い文章を書くブロガーとして認識している人も多いらしい。内容はプログラミングから経営、女性へのモテ方まで多岐にわたり、僕もRSSリーダーに入れてチェックしてる。

彼のエッセイをまとめた「ハッカーと画家」という本もある。これは「創造」を体系化した文章になっており、これは読むたびに、

  • プログラマー、クリエイターになりたいという願望
  • 何かを始めたいという挑戦心

が強くくすぐられる。僕のような非クリエイター/マネジメントの人間こそ読むべき本だと思う。

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち

またポールのエッセイは人気なため、かならず翻訳記事が出る。本記事の引用は以下のブログからお借りした。

らいおんの隠れ家*1

クリエイターのスケジュール

「Paul Graham.com」に2009年に書かれた Maker's Schedule, Manager's Schedule というエッセイがある。
これはプログラマやデザイナー、それに準ずるクリエイターにとっての時間の使い方が、経営者やマネージャーのそれと違い、いかに特異かを記したエッセイだ。

結論として、3つのことが言える。

  • クリエイターは12時間単位で仕事を進める生き物だ。
  • かれらのスケジュールを1時間単位で刻むことは、彼らの創造性を殺すことにほかならない。
  • それを理解しないとマネジメントはクリエイターとの間に大きな溝を作ってしまうことを理解しなくてはいけない。*2

クリエイターのスケジュール

エッセイのなかでポール・グレアムが指摘するクリエイターのスケジュールについて詳しく見てみよう。

スケジュールには2種類あり、「クリエイターのスケジュール」と「経営者のスケジュール」と呼ぶことにしよう。経営者のスケジュールは上司用だ。1日を1時間ごとに区切った昔ながらのスケジュール表で示される。必要ならばある1つの仕事で数時間を埋めてかまわないが、仕事は毎時間、変わるのが基本だ。

とある。更に要約すると、

  • 経営者のスケジュールとは、普通のビジネスマンを含めた普通のスケジュール。それは1時間おきに進行し、空き時間には漠然としたコーヒーミーティングを入れることも可能だ。
  • しかしクリエイターのスケジュールは半日単位で進行する。20行のコードや、1枚のラフスケッチはクリエイターの創造性からもたらされる。
  • クリエイターにとって、午後一に入れられる会議は午後すべてを潰されることと同じだ。

僕はコードもろくに描けないし、デザインもできない。ただしそれぞれ少しだけかじっていて、Product Managerという職業柄、四六時中クリエイターと一緒に働いている。そんな僕から見ると上の指摘はどれも納得感がある。

たしかに自分自身、sketch3で簡単なデザインを作っていたり、プロダクトのrequirementを創るための集中しているとき、インターラプトされることで創造性を失する瞬間に出くわすことはある。

僕でそうなのだから、プロのクリエイターにとってはいかほどだろうか。

一度失った創造性を取り戻すには

it changes the mode in which you work.

一度インターラプトされると、再度モードをチェンジする必要があり、それは大きなエネルギーを使う

クリエイターの創造性を殺すにはどうしたらよいか?

それは彼らを会議室に引っ張りだし、ひたすらslackでメンションを付けて話しかければ良い。でも誰もそんなこと望まないだろう。

驚くほどの集中から真の創造は生まれる。だからこそ、クリエイターに集中を保つための12時間をどうやって確保するか。僕らのようなマネージャーが強く認識しておかないといけないだろう。

クリエイターでありマネージャーであること

少し話は変わるがポール・グレアムはプログラマーというクリエイターであり、経営者であった。彼はどのように自身のスケジュールをマネジメントしていたのだろうか?

私は、1日を区切る別の方法を開発した。夜中には誰も邪魔されないから、私はかつて毎日、夕食後から午前3時頃までプログラムをしていた。そうして午前11時頃まで眠り、夕食までに私が「ビジネス物」と呼んでいた仕事に取り組んだ。こういった用語で考えたことはぜんぜんなかったが、実際には私は毎日、経営者のスケジュールとクリエイターのスケジュールという、2つの仕事日を持っていたことになる。

答えはシンプルで、モードのちがう時間帯を作ること、のようだ。彼は投資先の起業家にもこのことを勧め、起業家と会う「オフィスアワー」はすべて一日の最後にセットする。

しかし、この「モードの違う時間を意図的に分断する」というプラクティスは、あっさり書いているけど自分でコントロールするのはとても難しい。

現代で言うと、クリエイターのマネジメントであるVP of EngineeringやVP of Designなどはまさにこの苦労が多いよね、と聞く。

さらに余談だが、これはプロ野球界における「プレイングマネージャー」がなかなか生まれない要因とも同様だと感じる。*3

選手兼監督の限界

日本ではよく「プレイングマネージャー」という言葉で、現場とマネジメントを行き来するダブルロールな役割を指す。

キーワード自体がもてはやされるようになったのはプロ野球元・ヤクルトスワローズの古田敦也選手兼監督の影響が大きかったと記憶している。彼は

  • バッターやキャッチャーとして日々鍛錬を積み、創造性を発揮してボールを打ち返したり投手を攻略する「古田選手」
  • 選手のコンディションやモチベーションを管理し、ゲーム全体の流れを読みながらサインや交代など数分単位で意志決定に思いを巡らす「古田監督」

という2つの役割をこなせる2000年代唯一の選手として、非常に注目を浴びていた。

しかしながら、この2つの共存がどれほど難しいかは結果が物語っている。

監督として70勝73敗3分、勝率.490でリーグ3位の成績を残したが、選手としては36試合の出場にとどまり、シーズン成績も自己最低に終わった。

2005年、2006年と「選手兼監督」を務めた古田選手は、2年目に意図的に出場機会を抑え、監督業に集中してチームの成績を高めた。しかし、両立出来たかという問いには客観的にNOだったように思える。

「選手兼監督」を務めたプロ野球選手は歴史上30名強と多くはなく、その特異さ、困難さがその理由の一つであることは間違いない。

ちなみに自身も「選手兼監督」を務めたあのノムさんでさえ、「選手兼監督は無理ゲー」と発言している。


【野村克也トーク】ノムさんが『選手兼監督は常識的にムリ』と発言!その理由は??

逆説的だが、それだけ難易度の高い両立を求められる「クリエイター兼マネジメント」の存在とは世界的に稀有な存在なのだと思う。創造を基幹とするスタートアップのような企業にとって最も重要な人的資産であることを肝に銘じたほうが良さそうだ。もちろん、僕も。

*1:このブログ自体は2012年以降は不定期更新みたい。

*2:僕自身の自戒も込めて

*3:最近では中日谷繁選手兼監督がいる