文/岡本亮輔(北海道大学准教授)
「特徴のなさ」が特徴の世界文化遺産
沖縄県南城市に「斎場御嶽(せーふぁうたき)」という場所がある。御嶽とは琉球の宗教伝統で「聖地」を指す言葉だ。斎場御嶽は歴代の王が巡礼した琉球王国最高の聖地である。2000年11月には沖縄県内の首里城などの城跡と共に世界文化遺産に登録された。
斎場御嶽があるのは、那覇から車で40分ほどかかる南城市だ。決して行きやすい場所ではないが、観光客が増えたため、現在では500メートルほど離れた地域物産館に駐車場が整備された。観光客は物産館にある券売機で200円払ってチケットを購入する。
さて、駐車場から10分ほど歩けば御嶽に着くが、すぐに入場というわけにはいかない。南城市観光協会のスタッフにうながされ、御嶽の入口に作られた建物で、すべての観光客が御嶽の歴史と観光にあたっての注意点をまとめた短いビデオを見せられる。
御嶽は聖地と言ったが、本土にある神社や寺のイメージとは大きく異なる。高野山や日光東照宮のように、分かりやすく聖域であることを示す建築物はない。御嶽の根底にあるのは、自然そのものに神が宿るという信仰だ。神が宿るとされる樹木や岩がある御嶽もあるが、特徴的なものは何ひとつない御嶽もある。空き地のような空間そのものが聖域とされているのだ。
斎場御嶽の場合、いくつか聖所があるが、最も神聖な場所である「三庫理(さんぐーい)」には、大きな岩が作る三角形の空間があるだけだ。そこに置いてあるのは香炉くらいで、他に目立つものはない。最奥部からは、神の島とされる久高島を遥拝できるようになっている。
ビデオでは、御嶽の「特徴のなさ」が特徴だとが説明される。各所に置かれた香炉も、一見は四角い石にしか見えない。そうしたものに触ったり、間違えてその上に乗ったりしないようにといったことが注意される。
ビデオを見終わった観光客は、「これより聖地です」と書かれた扉を抜けて、御嶽の中に入っていく。斎場御嶽の規模は大きく、一番奥の三庫理までは、ちょっとした山道を10分ほど歩く。
ところで、今月、筆者が行った時には、ビデオ上映が終わって御嶽の中に向かおうとすると、スタッフが面白い誘い文句を発した。
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