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太陽光発電は CO2 を排出しないと思われている。しかし実際には、太陽光発電は CO2 を排出する。
こう書くと、「そんな馬鹿な!」と思う人が多いだろう。しかし、本当によく見れば、「排出する」とわかる。
私がしばしば語る「ペテンのトリック」を思い出そう。左手にあるコインを、右手に移す。ここで、右手だけを見ると、「コインがなかったのに、コインが増えた」というふうに見せかけることができる。「コインが増えました。無から有を生み出しました」というわけだ。こういうペテンがある。
同様に、左手にあるコインを、右手に移す。ここで、左手だけを見ると、「コインがあったのに、コインがなくなった」というふうに見せかけることができる。「コインがなくなりました。有を無にしました」というわけだ。こういうペテンがある。
以上の二つに共通することは、こうだ。
「全体を見れば、増えてもいないし、減ってもいない。しかし片方だけを見ると、増えたとか減ったとか、誤認する」
太陽光発電のペテンも、これと同じだ。全体を見れば、増えてもいないし減ってもいない。しかし、片側だけを見れば、減ったように見える。こうして、「太陽光発電は CO2 を排出しない」という論理ペテンを成立させるのだ。
以上が、論理ペテンの原理だ。
以下では、具体的に述べよう。
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太陽光発電は CO2 を排出しないと思われている。
だが、太陽光発電には、致命的欠点がある。それは、「晴れた日の昼間しか発電しない」ということだ。夜間や雨の日には、発電量がゼロ同然となってしまう。これではまったく使い物にならない。
だから、われわれが「太陽光発電」と思っているものは、それ単独では成立しないものだ。必ず、バックアップ電力とペアになって成立する。
つまり、我々には、次の二つの選択肢がある。
・ 太陽光発電 + バックアップ電力
・ 他の発電 (例。LNG、石油、石炭、原子力)
他の発電というのは、実際には何通りもあるのだが、ここではとりあえず一つにまとめておこう。
ともあれ、ここでは、「太陽光発電」という単独の選択肢は成立しない。(そんなものを選択すれば、たちまち停電だらけになる。)太陽光発電を選択したければ、必ず、バックアップ電力とペアであることが必要だ。
つまり、われわれが「太陽光発電」と思っているものは、実は、「太陽光発電」単独ではなくて、「太陽光発電 + バックアップ電力」なのである。この事実を認識しよう。
さて。ここで、「バックアップ電力」とは何か? それが問題となる。
ここで、いきなり解答を言えば、こうだ。
「バックアップ電力とは、電力会社の発電設備のうちでも、効率の悪いもののことだ」
その理由は、こうだ。
「電力会社の発電設備のうち、効率の良いものは、常時稼働させる。一方、効率の悪いものは、なるべく稼働させない。どうしても電力が足りなくなりそうなときに限って、効率の良いものから順に少しずつ駆り出される」
つまり、相対的に効率の悪いものが、バックアップ電力となるのだ。
さらに、相対的に効率が悪いだけでなく、絶対的にも効率が悪くなる理由がある。こうだ。
「効率が悪い発電設備を更新したいと思うことがある。しかしながら、更新しても、更新後の稼働率が低ければ、更新にかかった設備投資の費用を回収できない。ゆえに、効率が悪い発電設備を更新するためには、稼働率が高いことが必要条件となる。ところが、太陽光発電のバックアップ電力としての役割を負わされれば、自動的に稼働率は低くなる。(雨の日と夜間にしか稼働しないからだ。)かくて、稼働率が低いので、更新されなくなる。つまり、効率が悪いままとなる」
これはどういうことか?
効率が悪い発電設備は、できればさっさと更新したい。定期点検の手間などがかかる古い設備は、いつまでも使いたくない。こんな金食い虫は、さっさとスクラップにしてしまいたい。
しかしながら、これをスクラップにして、新しい設備を導入しても、その役割が「バックアップ電力」としての役割であるなら、稼働率が低くて、巨額の投資を回収できない。
ゆえに、こういうふうに「稼働率の低い設備」については、「運用コストが高くても、設備投資の費用がかからないもの」というのが、最善なのだ。逆に、「運用コストが低いが、設備投資に多大な費用がかかる」というものは、「稼働率の低い設備」については不適切なのだ。
このことは、次の本に詳しく書いてある。
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
( ※ なお、現実には、設備を更新したら、更新後の新規設備は、常時稼働させる。かわりに、二番目ぐらいに効率の悪い設備を稼働させる。……しかし、こういうことをしても、新規設備の投資には巨大な金額が必要となる。それよりは、効率の悪い旧設備を、たまにちょっとだけ稼働させる方が、ずっとコスト安で済むのだ。だから実際に、真夏の猛暑時には、効率の悪いポンコツ設備が駆り出される。たまに使うだけなら、ポンコツ設備で十分なのだ。)
以上のことから、こう言える。
「太陽光発電は、それ単独では CO2 を排出しない。ただしそのことが成立するのは、晴れた日の昼間だけである。雨の日や夜間には、太陽光発電は発電しないので、かわりにバックアップ電力が発電する。しかも、そのバックアップ電力は、効率の低い旧式の発電設備なので、大量の CO2 を排出する。両者を合わせれば、無視できない量の CO2 を排出する」
では、無視できない量とは、どのくらいか? それを計算してみよう。
──
まず、太陽光発電の発電量は、次のグラフでわかる。
夏の電力使用量は、次のページにある。
→ 東電の電力状況(2011年)
いっぱいあるが、一つだけあげれば、これがある。
以上の両者を比較すると、こう言える。
「太陽光発電の最大発電電力を 100とすると、その発電量を出せるのは、昼の正午ごろだけである。朝や夕方は、晴れていても、発電量はゼロに近い。また、夜間はずっと太陽光がないので、もともと発電しない。一方で、電力需要は、深夜から未明でも半分ぐらいの需要があり、他の時間ではピーク量に近い需要がある」
このことから、次のように結論できる。
「太陽光発電の発電量に対して、バックアップ電力の発電量は、1倍〜2倍ぐらいの発電量がある」
これが、二つのグラフを対比して、わかることだ。
さらに、次のグラフがある。発電方式ごとの効率の差だ。
出典
ここからわかるように、石油や石炭を使う旧式な火力発電は、最新型の LNG 発電に比べて、倍ぐらいの CO2 排出がある。
──
以上のすべてをひっくるめて計算すれば、次のように言える。
「太陽光発電は、正午のころには、 CO2 を排出しない。しかし、正午以外の時刻には、足りない分をバックアップ電力が発電する。特に、夜間にはバックアップ電力だけが発電する。総合的には、太陽光発電の発電量に対して、1〜2倍の量の電力をバックアップ電力が発電する。しかも、その発電効率は低いので、バックアップ電力は、最新型 LNG に対して2倍の CO2 を排出する。したがって、太陽光発電によって削減した CO2 の量よりも、バックアップ電力で増加した CO2 の量の方が、多くなる」
要するに、一言でいえば、こうだ。
「 太陽光発電は、それ単独では CO2 を排出しない。しかしながら、太陽光発電とバックアップ電力とのセットで考えると、それは、最新型の LNG発電よりも、 CO2 の排出量が多い」
ここから得られる結論は、こうだ。
「 CO2 の排出量を減らしたいのであれば、太陽光発電を増やすよりも、旧式の火力発電を、最新型の LNG 発電に置き換える方がいい」
要するに、馬鹿高い金をかけて太陽光発電を推進するよりも、ちょっとだけの金をかけて、最新型の LNG 発電を導入し、その分、旧式の火力発電を廃止すればいいのだ。これが最も賢明で、最も有効な方法なのだ。
「左手だけを見ず、右手と左手を合わせて見る」という認識方法をすれば、物事の真実が見えてくる。
【 追記 】
本項で比較対象となっている「火力発電」とは、既存の火力発電ではなくて、新規増設の分(具体的には「最新型 LNG」のこと)です。
どうせ増設するのであれば、太陽光発電を増設するより、LNG を増設した方がいい、という趣旨です。
このことは、コメント欄の 2016年02月17日 21:43 の箇所で説明しています。
電気自動車やハイブリッド車も同じじゃないでしょうか。
まず、何が悪いかというと、太陽電池そのものが悪いのではなく、それへの補助金が悪いわけです。
電気自動車は? 生産台数がとても少ないので、補助金の総額はたいしたことはありません。今の段階ではめくじらを立てるほどではありません。
ハイブリッドは? 実は、補助金はゼロです。昔はあったが、今はない。だから問題なし。
一方、エコ減税というのがあって、ちょっと燃費のいいガソリン車やディーゼル車は多額の減税を得ています。これはものすごい巨額。排ガスをたっぷりと出す自動車が逆にたっぷりと減税してもらう、というナンセンス。
どうせなら、エコ減税は、ハイブリッド車ぐらいに限った方がいい。ハイブリッド車だけに減税して、ちょっと燃費がいいだけのガソリン車やディーゼル車のエコ減税は廃止した方がいい。これなら、巨額の補助金(減税)が浮きます。
徐々に下がったので、Panasonicの生産停止に繋がったのでしょう。
計算方法の詳細がよく分かりませんが、おそらく仮定されている計算条件のもとでも、”全く太陽光発電が無い場合”と比較してCO2排出量は減少するのではないかと思います。
おそらく太陽光発電がない場合、「晴れた昼間」においても、「効率の悪い」石炭火力等で電力を供給することになるでしょうから。
・ 太陽光発電を増設するか。
・ かわりに LNG 発電を増設するか。
という対比です。
したがって、
> 太陽光発電がない場合、「晴れた昼間」においても、「効率の悪い」石炭火力等で電力を供給することになる
ということはなく、
「太陽光発電がない場合、常に最新の LNG 発電で発電するので、夜も昼間も、大幅に炭酸ガスが減少する」
となります。
つまり、
・ 太陽光発電に巨額の金をかける。
・ その数分の一の金をかけて LNG 発電にする。
という二者択一です。
費用を何もかけないで現状維持、という選択肢は含んでいません。「何もしないのがベストである」とは主張していません。
( ※ 何もしないのは最悪の選択肢であり、そんなものは初めから可能な選択肢に含まれません。最善と次善のどちらがいいか、というテーマにおいて、「最悪」という選択肢はもともと含まれていません。「次善は最悪よりも優れているから、最善よりも次善の方がいい」という理屈も成立しません。)
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よく考えたら、冒頭の1行がまぎらわしかったですね。既存の火力か、新規増設の火力か、表現上できちんと区別してなかった。
読めばわかるとはいえ、混同しやすい文章でした。このコメントで注釈しておくことにします。
実際には、そのような極端な「二者択一」に限定するのは非合理的な選択と存じます。他の再エネや、デマンドレスポンス等の技術も合わせて使うべきものですので。
それなのに現在の日本においては太陽光に出費が偏りすぎており、また太陽光発電のコストも(既に平均的な火力並みになっている)諸外国のコストに照らして高すぎる、というご趣旨でしたら、その点につきましては同意いたします。
http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/pdf/020_01_00.pdf
本来ならば十分実用的なコストに出来るはずなのに、相場より大幅に高い価格で買い上げた事が、ご懸念のような状況を招いたのではないかと推察いたします。
それは平均発電単価であって、バックアップ電力のことを考慮していません。都合のいいところの虫食い状態。まともに計算するなら、夕方や雨天時のためのバックアップ電力のコストも含めて考えるべきでしょう。机上の計算にしたがっていたら、現実には夕方や雨天時に停電します。
コスト計算は単独で計算して、現実にはバックアップ発電も使う、なんてのは、二重基準。二枚舌。
> 他国に比べて倍ぐらい高い
これも私はおかしいと思うが、わかっているなら政府が買い取り価格を大幅に下げるべき。つまり、次の二者択一。
・ 外国並みに買い取り価格を下げる。
・ 高コストを認めて、買い取り価格を高くするが、買い取り量を大幅縮小する。
一方、「買い取りのときは高コストを認めて、量のときは外国並みの低コストを前提として大幅な量を買い取る」なんていう現実の方針は、ダメです。二重基準。二枚舌。
> 相場より大幅に高い価格で買い上げた事
これは仕方ないのかもしれない。非効率や高い人件費などがあるから。実際、業者はボロ儲けしているわけじゃないし、太陽光発電の会社は大幅赤字だ。
ただ、価格が高いのならば、導入量は少なくすべき。ここで、導入量を、欧州並みに大幅に増やしたのが、根本的な間違い。二重基準。二枚舌。
太陽光発電の推進は、こういうペテンばかり。
http://www.nedo.go.jp/content/100643823.pdf
日本においても、具体的な検討が行われております。
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/006/pdf/006_05.pdf
買い取り価格や導入ペースにつきましても、ようやく削減する方向の議論になっているものと存じます。
(事故の影響が強かった)今の全量買取制度が開始した時点ですら年2〜3GW程度の予定でしたものが、年10GWなんてペースになってしまってますので…。
それはそうですが、その制約があるので、太陽光発電は1割程度しか導入できない、というのが、日本では将来的な見通しとなっています。これを越えると、バックアップ発電が新規増設必要となって、費用負担の必要が生じるからです。
現在の太陽光発電は、自立したものではなくて、あくまで他の発電にカバーしてもらうことを前提としています。費用負担も免除してもらっています。普通の経済計算ではあり得ないような、ただ乗り。寄生しているようなもの。
まあ、可能かどうかといえば、可能ですが、ペテンみたいなインチキみたいなことをして、本来の負担を免れているわけ。
ただ「他の発電にカバーしてもらう」必要があるという事は、どの電源にも言えます。理論的にはどの電源でも(それこそ太陽光にバカみたいな量の蓄電池組み合わせたり、原発で負荷追従しまくったりして)単一電源で全ての需要を賄うことは可能ですけど、実際にはそれは損ですから。
その一方で、昨今の国際的なコストや各国での実績から、本来ならば、太陽光もある程度混ぜた方が結局は安上がりにできるはず、化石燃料を節減できてCO2排出量も減らせるはず、と言えます。また普及費用や系統安定化費用を含めても、ドイツ等のように国全体の経済にもプラスに出来るはず、ということも言えます。
またその過程では、取り上げておられるガス火力のようなフレキシブルな電源も、もっと活用されるべきであると、例えば先出のIEAの報告書でも指摘されております。
それどころか、日本でも、原発事故前から包括的な普及シミュレーションをやって、例えばそれぞれの技術にこれだけの費用をかけてこんなペースで対策を進めれば、CO2も減らしながら国の経済にもプラスにできるはず、って指摘されてきたんです。下記は初期のものの一例です。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/com05_h20a.html
もちろん、現在よりずっと控えめな導入ペースが想定されてました、、。
まさか。たとえば、日本中の火力発電所がいっせいに停止する、ということはあり得ません。太陽光ならば、常に「夜間や雨天では日本中でいっせいに停止」ですが、火力発電ならば、そんなことはない。
火力発電所がどこか一つ停止しても、他の火力発電所でカバーできるので、火力発電所の内部で安定しています。
いっせいに停止するとしたら、大地震で緊急停止した原発とか、戦争で発電所が全部爆撃されたとか、そういう特別な場合だけです。毎晩必ず停止する太陽光発電とは違います。
・どの電源も万能ではなく、なにがしかの長所と短所を持っています。このため多かれ少なかれ、単一の電源に頼るのは損です。そのような極端な条件だけで比較するのは、参考になることはあっても、最終的な評価を下すには、得てして不十分と存じます。
・改めて指摘しておきますが、適切に用いさえすれば、太陽光や風力のような変動性の再エネ電源(VRE)であっても、火力発電の燃料の節減ができますし、また少なくともVREのシェアが3〜4割程度までは、「バックアップ」等の系統安定化のコストも実用的な範囲に収められる、というのが一般的な結論です。先のIEAの報告書等で、改めてご確認頂ければ幸いです。
http://www.nedo.go.jp/content/100643823.pdf
・先に指摘しましたが、太陽光単独での火力との比較も、非合理的です。実際には太陽光と風力はある程度の相関性(天気が悪い時は風が強い場合が多い、等)があり、セットで普及が進められます。このため普及が進むにつれ、太陽光と風力の両方の出力がゼロという日は少なくなります。
例えばドイツの実データが下記で公開されておりますが、P24でそれが端的に確認できます。
https://www.ise.fraunhofer.de/en/downloads-englisch/pdf-files-englisch/data-nivc-/electricity-production-from-solar-and-wind-in-germany-2014.pdf
簡単な想像だけで排出量削減にならないと断定しておられますが、実際の評価にはこのような実際の気象データや需要の変化、他電源の状況まで含めた統計データやシミュレーションが必要になりますことを、指摘申し上げます。
・比較条件として「ガスのみ」と「太陽光のみ」の極端な2条件のみを仮定しておられますが、「ガスと太陽光の両方を使う」のが最もCO2排出量が低くなるのに、その選択肢を入れないまま、評価を下しておられます。
自ら「右手と左手を合わせて…」とおっしゃっているにも関わらず、どちらか片方だけを見ておられます。
ご自身が「ペテン」等と表現される行為に該当するように思えるのですが、如何でしょうか。