奈良でプロポーズして来た。
長かった学生生活で学んだことはただ一つ「孤独は人を殺す」ということで、もう独り暮らしは嫌だと、彼女に頼み込んで春から同棲することになったのだけれど、「婚約しなければ娘はやれない」ということで、プロポーズの準備を進めていた。
この一年は遠距離恋愛していたけれど、彼女の出身大学が奈良で、お互いに学生だった頃は、奈良市内、明日香、斑鳩など奈良の各地でデートした。
告白したのも彼女の行きつけの「まめすず」という小さなカフェだった。
何よりも奈良には奈良ホテルがある。一度泊まってみたかった。この機会を利用しない手はない。
事前にホテルに相談したところ、花束を用意すること、そして何とチャペルを開放することが可能だというのだ。
メインダイニングルーム「三笠」でフレンチの夕食を食べた後(すごい美味しかった)、館内ツアーという名目で、フロントの方にホテルを一通り案内して貰って、その終りに、
「今なら外にあるチャペルをお見せすることが出来るのですけれど、いかがでしょうか」
「お、いいですね。○○も見たいよね」
「え、う、うん(察し)」
翌朝撮影した聖ラファエル教会
ということで、チャペル(聖ラファエル教会)に案内して貰ったのだけれど、辺りが暗い中、海外の教会から移植したという美しすぎるステンドグラスがキラキラ光っていて、二人で「わー、綺麗だねー」とうっとりと見入った。扉の前まで案内して貰って後は二人っきりでという段取りだった。中に入ると、内装にふんだんに使われた吉野杉の香りが充満していて「いい匂いだね」などと言い合う。中央奥のテーブルに花束が置いてあった。余りにも露骨に置いてあるので見つめ合って笑ってしまう。赤系統を指定して頼んだものだ。
一通り彼女と教会の装飾を見て周って、奥まで辿り着いて、花束を持ち上げて、ポケットから書いて来た手紙を取り出して花束に添えた。彼女と見つめ合うと、微妙な間が生まれてしまった。プロポーズの台詞は20回くらい練習して来たのだけれど、出て来ない。はにかみながら、
「この二年間付き合って来てすごい楽しかったし、一緒にいるだけでいつも自然と心が温かくなるような、そんな気がして、すごくいい関係だと思うし、これからもずっと大切にしたい。だから」
というような主旨のことを言って、跪いて、
「結婚してください」
と、花束と手紙を差し出した。
受け取る彼女。顔がほんのりと赤くなっていて、ぼやーっとして、心ここにあらずという感じだ。返事がない。
「へ、返事は」
「は、はい」
お互いすごくぎこちなかったけれど、OKということで、軽く抱き合って、それから教会の外に出た。
親の金で買った指輪でプロポーズするのは如何なものかということで、手紙しか用意できなかったけれど、「○○と共に幸せな将来を築いてゆけると確信している」という書き出しから始まるロマンティックフィルター全開の文章は気に入って貰えたようで良かった。
ブラックな職場の彼女に休みを取って貰うために、今日はプロポーズの為の大事な日なんだと元々告げてあって、春から一緒に住む部屋も既に借りてあるので断られるということも絶対になかったのだけれど、奈良ホテルのお蔭でサプライズ感が出せて、彼女も大満足の様子だった。
彼女が激務の中、遠距離恋愛ということで、この一年間危機的な局面もいくつかあったのだけれど、常に丁寧に話をして乗り切ってきた。一緒にいていつも楽しくて、ヤバいときはちゃんと話し合える。お互いに得意な分野が大きく異なるので相補性もある。得難い関係だと思う。私にとって初めての恋愛だったけれど、いきなり最高のパートナーに出会えた。これからも末永くこの関係を育めたらと思う。