中野晃
2016年2月17日16時34分
原爆のむごさと平和の大切さが描かれ、国内外で広く読まれてきた漫画「はだしのゲン」。その翻訳を手がけてきた人たちが18日、被爆地・広島に集う。地球上から核兵器がなくならないまま迎える被爆71年。様々な言語に訳したきっかけや苦労を語りあい、非核・非戦への思いを伝えていく気持ちを新たにする。
■翻訳サポート、昨年で活動20年に
集うのはアラビア語、英語、シンハラ語(スリランカ)、朝鮮語、中国語、ベトナム語、ロシア語に訳した国内外の十数人。「はだしのゲン」を描いた漫画家の故・中沢啓治さん(2012年に73歳で死去)の妻ミサヨさん(73)らもゲストとして加わる。
ロシア語版と英語版を翻訳・出版し、その他の翻訳活動をサポートしてきたグループ「プロジェクト・ゲン」が昨年で活動開始から20年を迎えたことを記念して企画された。一般には公開されない。参加者は原爆の惨禍を訳す際の苦労やエピソードをお互いに披露し合い、ゲンをさらに世界へ広める取り組みについて意見を交わす。
参加を予定しているカイロ大学教授のマーヒル・エルシリビーニーさん(56)は昨年1月、アラビア語に訳した第1巻をエジプトで出版した。文豪・夏目漱石の小説などを翻訳したことがあり、「次は子ども向けの作品を」と題材を探している時、知人に「はだしのゲン」を勧められた。
全巻の翻訳に集中したい――。マーヒルさんは昨年5月に来日し、広島大特任教授として講義を受け持ちながら翻訳を進める。「はだしのゲンは平和の聖典。せりふの意味を深く考え、子どもにわかりやすい言葉で訳しています」。広島大の施設に寝泊まりし、作業に没頭する日々が続く。かつての広島留学時は「はだしのゲン」を知らず、原爆ドームは「壊れた建物」という認識だった。今は被爆後の惨状に思いをはせるようになったという。
中東では紛争やテロが絶えない。マーヒルさんには「いつか核が使われるのではないか」という懸念がある。だからこそ「はだしのゲン」を通じ、アラビア語圏の子どもたちに伝えたいと思う。「核兵器とはなにか。それは無差別に人を殺害し、生き残った人を70年たっても苦しめる、絶対使ってはいけない兵器なんです」と。
■ロシア語版からスタート
集いを企画した「プロジェクト・ゲン」は、代表の浅妻南海江(なみえ)さん(73)=金沢市=が1995年に立ち上げた。知り合いのロシア人と会話をする中で「被爆の実態が知られていない」と感じ、ロシア語への翻訳を決意。生前の中沢さんも「ゲンのためなら、自由にやってください」と後押ししてくれたという。6年ほどかけて全10巻のロシア語版を完成させた。
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