北朝鮮・朝鮮人民軍の李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長が今月初め「分派活動」および「派閥勢力・不正」の容疑で処刑されていたことが分かった。李永吉氏は2013年、韓国軍の合同参謀議長に相当する総参謀長に突如抜てきされ、注目を集めた人物として知られている。李永吉氏の処刑が金正恩氏によって進められる核・ミサイル開発路線に反対したためなのか、あるいは朝鮮人民軍内部の権力争いに敗れたためなのかは今のところはっきりしない。ただ処刑が4回目の核実験直後、長距離弾道ミサイル発射の直前に行われたことから推測すると、北朝鮮の権力内部で深刻な対立があった可能性も当然排除できない。
昨年12月には朝鮮労働党の金養健(キム・ヤンゴン)統一戦線部長が交通事故で死亡したが、これも通常では考えられない異常な出来事だった。金養健氏はそれまで北朝鮮で対韓国政策を総括してきた穏健派に分類される人物だった。北朝鮮は金養健氏の死後、しばらく哀悼の雰囲気を出したのは事実だが、その一方で彼をけん制する強硬派が、未明の交通事故に見せ掛けて葬り去った可能性も根強く指摘されてきた。金養健氏の死去から5日後、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は4回目の核実験を命ずる文書にサインし、金養健氏の後任には2010年の哨戒艦「天安」攻撃を指揮した金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長が就任したとうわさされている。これらはいずれも金養健氏殺害説を裏付けるものとも考えられるだろう。
金正恩政権に入ってから北朝鮮で政府幹部が処刑されたのは、李英浩(リ・ヨンホ)総参謀長、張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防省長官に相当)に続いて今回の李永吉氏が4人目だ。ただこれらのいずれのケースにおいても、金正恩氏の周辺には常に強硬派がいた点に注目しなければならない。金養健氏の後任とみられる金英哲氏は、前述のように哨戒艦「天安」攻撃や延坪島砲撃を引き起こした朝鮮人民軍強硬派の第一人者だ。金正恩氏が核実験や長距離弾道ミサイル発射を続ける一つの要因として、このように強硬派からの強い後押しがあるという見方にもそれなりの説得力がある。そのため韓国政府は核問題への対応に当たると同時に、北朝鮮の権力内部で何が起こっているかについても、常に正確に把握しておかねばならない。