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永元千尋の右往左往な文筆業生活

BWインディーズは個人出版にひそむ「甘え」を許さない

文筆業関連

 ちょいと刺激的なタイトルをつけてみましたが、まあいつも通り煽り気味にふっかけておいてPV数を稼ごうという姑息な手段……かどうかは、本記事の読了後に各自でご判断下さい。フフフ。

 


 今回は、個人出版界隈でにわかにアツい〔BWインディーズ〕さんにまつわるお話。
 母体となるのは、電子書籍のストアとしては古参と言ってもいい、言わずと知れたKADOKAWA系列の直営ストア〔BOOK☆WALKER〕です。昨年秋から個人出版者向けのサービスを開始したばかりですが、Amazon KDPやKoboなど他のストアと明確に違うきめ細やかなサービスを行っていて、界隈でも話題になっていました。

 たとえば、従来は商業出版の作品のみで行われていた〔BOOK☆WALKER大賞〕には、去年(2015年)からインディーズ出版部門が創設されました。インディーズ部門の大賞に選ばれたgurgur717さんは盾と賞状をいただいたそうで、これだけでもBWインディーズさんの姿勢が伝わってきますよね。ひょっとしたら今年2016年は、このブログをご覧のアナタが栄冠を手にしているのかも?
 また、BOOK☆WALKERさんは割と頻繁に販促キャンペーンを行うことでも知られていまして、その一部門であるBWインディーズにおいても基本的には同じ姿勢のようです。たとえば今年1月の上旬に行われた〔はじめてのBWインディーズ・キャッシュバックキャンペーン〕ですが、これに拙作〔コヲロコヲロ〕も取り上げられました。実質的に割引販売されてたんですけど、僕の手元に入ってくる売上金額は全く変わってません。要するにBWインディーズさんが自腹を切って我々の本を宣伝してくれたということ。こんなストア他に聞いたことないです。
 んでんで、前回の記事でもちょっと触れましたが、拙著〔コヲロコヲロ〕の分冊版を販売停止にしたという話。実はBWインディーズさんだけがちょっと例外で、あと一ヶ月ほど、厳密には2016年3月17日木曜日23時59分まで販売が続きます。

 「ずいぶん詳細なデータだな、まさかソレもBWインディーズが教えてくれたの?」

 と思った方がいらっしゃるかどうかはわかりませんが、ええ、その通りでございます。
 分冊版の販売停止を申し入れた他のストアが機械的かつ事務的に受理してストアのページを消去したのとは対照的に、BWインディーズさんだけは「待った」をかけてきたのです。こちらが事情を説明して販売停止されることにはなったのですが、担当の方曰く――。

調査の結果、分冊版を途中まで購入された方が何人かいらっしゃるようなので、その方たちに分冊版の販売停止予告を個別に伝え、分冊版をすべて入手できる機会を設けたいと思います。
その上で、販売停止予告の1カ月後に販売停止を実行する、という手筈にしたいと思います。

 
 どうですか。片手で数えて足りるほどしか売れていない分冊版に対してこの神対応。尋常ではありません。BWインディーズは化け物か。


 以下はもう、永元個人の心証に近いのですが……。
 BWインディーズからは全体的に、

〔著者からお預かりした本は財産である。ただ棚に並べるだけが我々の仕事ではない。著者にも読者にも満足いくサービスを提供する。決して売りっぱなしにしない〕

 という強い意志をビンビン感じるのです。
 繰り返しになりますが、ストアとして個人出版にここまで肩入れしてくれるところを僕は他に知りません。KindleとKDPが米本国の出版文化をそのまま日本に持ち込んできた黒船であるとするなら、BOOKWALKERとBWインディーズは維新勢力そのもの。日本的価値観に根ざし旧来の出版文化を守りつつも、外圧に対抗すべく個人出版という新たな流れを組み入れようとしているんでしょうね。


 ――と、ここまで書いたところで。

 「おおスゲー、BWインディーズは至れり尽くせりじゃん」
 「どう考えてもkoboとかKDPよか断然イイよなwwwww」
 「よし、じゃあ俺も今後はそっちメインで!」

 なんつって短絡的に思った人、手を上げてみて。正直に。大丈夫、怒らないから。
 まー、けっこういらっしゃるでしょう。居ないワケないもん。

 短絡的に考えるなこのバカチンが!

 あるいは「やめとけ、BWインディーズはお前にゃピーキーすぎる」でも可。
 軽い気分でほいほいストアを乗り換えようとしてるなら後悔すっぞ。オラ忠告したからな?


 と、申しますのも。


 従前の経緯をよく読んでいただきたいのですが、BWインディーズ以外のストアはほぼ盲目的に販売停止申請を受理しました。それすなわち「ウチで本を売るかどうかは著者たるあなたが決めること。もうやめたって言うならその通りにしますよ」ってことです。欧米的ですね。ドライですね。わかりやすいですね。
 でも、BWインディーズさんは違います。

 僕が分冊版の販売停止を申請した直後。
 BWインディーズさんから、以下のようなメールが飛んできました。

マーケティング目的などの販売停止機能の濫用を避けるため、著者センターの販売停止は原則として以下の条件に合致する場合のみ受け付けております。

1. 著者センターを退会する場合
2. 本作品を配信する権利を消失した場合
3. 本作品の配信により他者の権利を侵害していた場合
4. 他社で独占販売する場合
5. その他、本作品に重大な瑕疵がある場合

今回の販売停止が上記のどれに該当するか、本メールにご返信いただけますようお願いいたします。


 いやもうびっくりしました。そんなん知らんがなと。
 慌てて規約を読みに行ったんですが、第15条をベースとして第18条から第19条でそのようなことが書かれています。ちょっとわかりにくいですけど、少なくとも「カジュアルな気分で販売やーめたって言ってきてもすぐ対応しますよ」とは一言も書かれておりません。

 つまりですね。

「ようし、ついに新作を書き上げたZE! 自分で言うのも何だがこれは傑作! これ以前の俺の作品はもうストアから削除しよう! 何の値打ちもないもんな!」

 とか思ったとしても、BWインディーズはそれを許さないのです。

「ふざけんなお前の作品がゴミかどうか決めるのは読者であってお前じゃねえんだよ! 少なくともストアに出した時は出すに値すると思ってたんだろうが恥を晒したくないとか甘えたことぬかしてんじゃねえだったら最初から本なんか書くな! たとえ作者であっても世間に公開した以上書籍ってのは公の性格を持つもんだし作者だからって何もかも好き勝手にしていいなんてそんな道理が通るかよ! 読者にとっては大切な一冊かもしれねえし来月の小遣いで買おうと思ってた人もいるかもしれんし俺たちはそういうお客と本を財産だと思って本気で必死で売ってんだ!
 いいか! お前だけ勝手にケツまくって逃げるなんて絶対許さん!!!!!


 とかBWインディーズさんが言ったワケではないのですが(当然だ)
 僕の解釈は極端に過ぎるとしても、論旨としてはそういうことなのだろうな、と。

 んで、ここで前段を振り返っていただきたいのですが、こそっと「日本的価値観に根ざし旧来の出版文化を守りつつ」という表現を差し込んでいたことにお気づきでしたでしょうか。
 ごめんやっぱこないだ配本した本売るのやめるわ下げてちょんまげ、とか出版社が言ってきたら、本屋さんだって「なんでやねんせっかく売り場に出したのに! 理由くらい教えれ!」って言いますよね。日本人的な考え方ならそりゃそうなる。
 BWインディーズさんが我々の本を手厚く扱って下さるのは、たとえ個人であっても同じ出版業に携わる仲間だから、つまりは取引先の出版社と同じなのだと、そう思って下さっているから……なの、かも、しれません。

 なもんで、僕は懇切丁寧に、極めて日本人的に、分冊版の販売停止を決断するに至った経緯を説明しました。決して衝動的に決めたことではないし、将来的には業者を通して販売委託なども考えているので同じ内容の本が複数あるとこちらの負担が増すばかりなので、申し訳ないのですが販売停止申請を受理していただけませんか、と。まァ前回のブログに書いた理由ほぼそのまんまですな。
 んで、その結果が「わかりました、では分冊版1を購入して続刊をお買い求めいただけていないお客様にアナウンスした上で、およそ一ヶ月後の2016年3月17日木曜日23時59分まで販売猶予期間を設け、そののち販売を停止しましょう」ということだったのです。
 最初に神対応なんて言いましたが、先方が僕を出版社も同然と思って下さっているのなら、丁寧で有り難いとは思いつつも「当然ではある」のかもしれません。どのみち「本来のサービス外、特例」なのは間違いなさそう。

 


 人によってはこれを窮屈だと感じるかもしれないし、著者の権利が制限されていると感じるかもしれません。
 でもまあ、それも考えようでしょう。僕個人としては、ひょっとしたらBWインディーズこそが、本当の意味で個人出版と商業出版を対等に扱ってくれる唯一の本屋さんなのかもしれないなと、わりと本気で思っていたりします。

 というか、今回の件で、ちょっと反省したんですよね。
 商業作品と一緒にストアへ並べてもらっているのに、よく考えたら「出版者(社)には一定の社会的責任があるはずだし、僕が預けた本はストアにとっても財産なんだよな、スタッフさんも一緒に商売してる仲間なんだよな」という視点を持ってなかったな……と。


 個人出版というもの、つきつめるとなかなか、考えさせられます。

 

 

bookwalker.jp