韓国政府、進出企業に工場移転先提供へ
韓国政府は10日、開城工業団地の稼働を全面中断することを決めたのに伴い、個別の企業が希望する場合、工場移転先として代替産業用地を提供することを検討していくと説明した。開城工業団地から撤収し、他の場所への工場移転を支援する趣旨だ。2013年に北朝鮮が一方的に通行制限を実施したことで開城工業団地の操業が一時中断した際にもそうした対策は示されなかった。今回の事態がかなり長期化するか、工業団地の完全閉鎖につながる可能性を示唆したものだ。
産業界周辺からは、開城工業団地が「第2の金剛山観光事業」になりかねないとの懸念が聞かれる。金剛山観光は08年に韓国人観光客が北朝鮮軍に射殺されたことで中断した。その後、北朝鮮は金剛山地区の韓国側資産を凍結・没収し、金剛山ホテル、温泉閣などの施設、車両、ホテル備品などの物資を無断で使用した。北朝鮮は同様に、韓国側の投資で造成された開城工業団地の資産も勝手に使うことがあり得る。
韓国政府当局者は、北朝鮮による資産無断使用を防ぐために施設を封印した上で撤収することに関しては、北朝鮮当局と協議する必要があるとした。進出企業は現地の製品、設備などを回収できない事態も想定される。
韓国政府は被害企業に南北協力基金の特別融資など財政支援を行い、経済協力保険金も支払う方針を打ち出した。企業が工場の処分権を政府に譲渡する見返りに受け取る保険金だ。しかし、進出企業は保険金では被害を回避できないと主張する。まず、零細業者が大きいため、南北経済協力保険に加入している企業は進出124社のうち76社にとどまっている。また、補償対象が保険金支払機関である韓国輸出入銀行に事前申告した投資額に限定されるため、取引先の喪失などによる被害を補填することは難しい。
韓国政府は13年にも北朝鮮による開城工業団地への通行制限措置を受け、進出企業に保険金を支払ったことがある。ただ、その後操業が再開されたため、いったん支払った保険金は企業から回収された。当時保険金を返納できなかった一部業者は延滞利息を請求された。
韓国政府はこのほか、雇用関連の支援策なども多角的に検討していくとしており、「対策を立てる上では、企業の意見を最大限反映していく」と説明した。政府は李錫駿(イ・ソクチュン)国務調整室長を中心とする政府合同対策班を設ける一方、支援案をまとめ、企業との意思疎通を担当する被害支援センターを運営することも決めた。