私、古谷あつみは観光関係の専門学校の鉄道学科で講師をしている。数年前までは、みどりの窓口で働いていた。その頃の話だ。
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仕事中にふと、なぜ「きっぷうりば」という案内板がひらがなで表記されているのかが気になった。駅には様々な案内表示があるが、他のものは漢字が使用されている。早速、先輩に聞いてみた。ところが、仕事のできる頼れる先輩から返ってきた言葉は、予想していたものと違った。「知らないよ。子供でも読めるようにじゃない? 気にしたことなかった」。
確かにそうかもしれない。でも、そうだとしたら「改札」等の表記も平仮名で良いではないか。さらに自動券売機では、何故か「きっぷ」だけがひらがな表記されている。「切符」よりも難しい漢字はいくらでも使われているのだ。何人かの先輩に聞いてみたが、皆「知らない」との事だった。逆に「なんでそんなこと気になるの?」と聞かれた。社内でも気になっている人はあまりいないようだ。
■ 単に「漢字かひらがなか」ではない
私の疑問は解決されないまま、次の日を迎えた。私は旅客営業制度を勉強するため、教科書を開いた。ここでも「きっぷ」はひらがな表記されていた。しかも、何故か「切符」という漢字が使われている箇所もある。
私の疑問はますます深まった。
気になって仕方なくなり、調べてみた。すると、そこには面白い理由があった。
なんと、旅客営業制度上では、「切符」と「きっぷ」は全く別物だったのだ。
私たちが日頃使っている「切符」は、正しくは「きっぷ」である。JRでは、この2つを明確に使い分けている。「きっぷ」は旅客営業制度上、正式には「乗車券類」という。「乗車券」や「急行券」「寝台券」「グリーン券」等のことをまとめて「乗車券類」というのだ。
では、「切符」とはいったい何なのか。実は、JRでは「切符」というものも存在する。それは、旅客関係以外で現金を収受する時や、内部帳票のようなものに使われる。
■ ペットは「切符」で電車に乗る
例えば、手回り品切符だ。車内へは、縦・横・高さの合計が250㎝以内で、重さが30㎏以内のものを2個までしか無料で持ち込めない。大きさや重さが、これを超えるものを持ち込みたい場合や、ペット同伴の場合は、手回り品切符を280円で購入すれば、車内へ持ち込める。
先日、私も購入したが、わが家のペットであるウサギの「まるこ」と電車に乗るためだった。しかも、手回り品切符はどこまで乗っても280円なので、まるこは私よりもはるかに安く旅ができるのだ。
そのほか、一時預かり品切符といって、駅で荷物の有料預かりをした場合に発行されるものや、諸料金切符という、文字通りケースバイケースで何らかの料金を支払った場合に発行されるものもある。
忘れ物をよくしてしまう私は、何度か見た事があるのだが、遺失物切符というものまである。これは、忘れ物の情報が書かれたもので、直接忘れ物にくくりつけ、駅や忘れ物センターに回送するための内部帳票のようなものだ。
忘れ物センターに届けられた自分の荷物に、遺失物切符がくくりつけられているのを見る度に、すぐにものを失くしてしまう自分が情けなくなり、その反面、失くした物が見つかった安堵感もあって複雑な気持ちになる。
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