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いま、学校で(3) 貧困が招く「10歳の壁」

2016年02月18日03時00分 (更新 02月18日 03時55分)
九州のある高校が実施する検定試験。小学生レベルの問題から始まる

九州のある高校が実施する検定試験。小学生レベルの問題から始まる

 〈次のひらがなをカタカナにしなさい〉
 
 (1)ばなな(2)あいすくりーむ(3)しゅーくりーむ…
 
 これは、九州北部の高校が、全校生徒を対象に実施する検定試験の実際の問題だ。この学校では高校の授業と同時に、小学1年~中学3年レベルの基礎的学力の埋め合わせを進める。

 きっかけは、10年前に行った学力調査。当時の3年生に小学校の問題を解かせたところ、6割の生徒が小学3~4年レベルでつまずいていることが判明した。

 「このレベルが解けない生徒は、基礎的学力を身に付ける時期に両親が離婚したり、家庭の経済状況が苦しかったりするなど、何らかの要因を抱えていることが多い」。同校教諭の加藤信介(60)は言う。

 加藤の言葉をデータが裏付ける。全校生徒の約4割がひとり親家庭。低所得のため税金が免除される非課税世帯は3割超に上る。

 加藤は今年、3年生が進学のため日本学生支援機構に奨学金を申請した書類を見て驚いた。

 〈生活保護世帯 父の年収0 中学生の姉妹あり〉〈母子家庭 母の年収30万円 兄弟2人〉〈母子家庭 母の年収85万円 小中学生の妹、弟あり〉

 行政関係者からは「こんな学生を進学させてどうするんですか」と言われた。進学しても学費を稼ぐためアルバイトに追われ、疲れ果てて中退する卒業生は少なくない。

       ‡

 「10歳の壁」。多くの教師がこう呼ぶ現象がある。

 子どもは幼少期、親や周囲の大人から話しかけられたり、本を読み聞かされたりしながら言葉を学ぶ。養育を放棄され、大人との関わりが極端に少ないと語彙(ごい)の習得が遅れ、抽象的な概念や複雑な問題を考える能力が育ちにくいとされる。

 文章の読解や分数などが登場し、学習内容が難しくなる小学3年、4年時に、こうした問題が表面化することが多いという。背景に、貧困が横たわることも少なくない。

 九州中部の公立中学校に通う3年生の浩輔(15)も、そんな一人だ。

 〈王はりこうになりたかった〉。浩輔は授業の音読で、「走れメロス」のこの一節をうまく読めなかった。「利口」という言葉を知らなかったからだ。

 浩輔が小学校に入って間もなく、両親は離婚。母子家庭になり、母は昼間は仕事、夜は飲み歩いた。浩輔と3歳下の妹は「公園や商業施設のフードコートで夜遅くまで過ごしていた」。小学校からの申し送りには、こう記されていた。

 「幼いころから積み上げるべき思考力が育っていない」と浩輔を見守ってきた教諭の田尻和夫(55)は思う。中学卒業を目前に「俺、どうせばかやけん」と口癖のように話し、生活すべてに投げやりになっているような姿が、何よりも気にかかる。

 専願で私立高校に合格した浩輔。「このまま行けば高校を中退してしまいかねない。何とか踏ん張って卒業し、安定した職に就いてほしい」。祈るような気持ちで送り出す。 (登場人物はいずれも仮名)

=2016/02/18付 西日本新聞朝刊=

九州のある高校が実施する検定試験。小学生レベルの問題から始まる
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