“てのひらを返したように”ということか。温暖化対策の国際交渉がヤマ場を越えたと思ったら、環境省も温室効果ガス排出源の石炭火力を一転容認へ。脱炭素社会へ向かう世界の目にはどう映る。
昨年夏、望月義夫前環境相は、山口県宇部市など三カ所の石炭火力発電所新規建設計画に対し、環境への影響面から「是認できない」との意見を相次いで表明した。それがあっさり翻された。
原発再稼働が思うようにいかないままに、電力小売りの自由化が迫る。燃料費が価格競争のハンディになる。だから、コストの安い石炭火力を増やしたい−。これが既存の電力事業者の危機感だ。
日本の火力は進化を遂げている。石炭を蒸し焼きにしてガス化してタービンを回転させ、その際の排熱で蒸気タービンも回すという超高効率の複合発電(IGCC)も実証段階だ。二酸化炭素(CO2)の分離・回収も視野にある。
原発の運転寿命が尽きる日が来るまでの“つなぎ”としては、技術を磨いていくべきだ。
とはいえ、世界の潮流は、脱炭素、脱石炭である。高効率といってもCO2の排出量は天然ガスの約二倍。温暖化対策を理由に、米国でも石炭火力の閉鎖が相次ぎ、英国やカナダでは段階的廃止を目指す。中国も石炭火力の大気汚染には手を焼いている。
昨年末、パリのCOP21で結ばれた温暖化対策の新ルール(パリ協定)では、すべての国が力を合わせ、今世紀後半には排出をゼロにするという。
国内ではエネルギー消費に伴うCO2排出量の四割を電力業界が占めている。大量排出元の電力業界も、より高い削減目標を掲げるべき局面なのだ。
それなのにCOP21が終わるや、経済産業省と手を携えるようにして石炭容認に転じた環境省を、世界はどのように見るだろう。
石炭容認の前提として、両省は発電部門の温暖化対策を公表した。効率の悪い火力発電所の建設や運転を抑制し、再生可能エネルギーや原発などの非化石電源を44%以上にするという。
温暖化対策を名目に、原発再稼働も後押しするとも読めないか。
脱炭素社会の実現にはまだしばらく時間がかかる。だが大きな流れは、石炭でも石油でも、もちろん原発でもあり得ない。太陽や風、再生可能エネルギーなのである。環境省を名乗るなら、率先してその流れに棹(さお)さすべきだ。
この記事を印刷する