(2016年2月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
多くのヘッジファンドが人民元安に賭けている〔AFPBB News〕
映画「マネー・ショート:華麗なる大逆転」は、住宅バブルの資金供給に使われた債務証券の値下がりに賭けるヘッジファンド・マネジャーを中心に展開する物語だ。その主人公が抱えるジレンマが、香港の同業者の心の琴線に触れている。
2008年の世界金融危機に至った実際の出来事をベースにしたこの映画に、中国の人民元が今後数カ月でどこまで下落するかを予測しているヘッジファンド・マネジャーたちが共感を覚えているのだ。
2月初めにゴールドマン・サックスが開いたマクロ・コンファレンスの会場の片隅で、顧客であるヘッジファンドの社員とゴールドマンのトレーダーたちが人民元相場について意見交換をしていた。現在は1ドル=約6.57人民元だが、これが同8人民元に下がるまでどれぐらい時間がかかりそうか、というテーマだ。
また、多くのプライベート・エクイティ会社幹部が人民元のヘッジを始めている。以前は、投資先の中国企業の人民元建て売上高をわざわざヘッジしたりはしなかったが、今日では高いコストを払ってでもやろうとしているのだ。
オルタナティブ投資の運用責任者はほぼ全員、中国の経済と株式市場の今後について容赦ないほどに弱気である。人民元については、それに輪をかけて悲観的だ。しかし彼らは、最高に優れたファンダメンタル分析を手にした投資家であっても、売買のタイミングを間違えれば破産しかねないということも承知している。
中国人民銀行の意図は何か?
ゴールドマンのコンファレンスにおける会話の大半は、中国人民銀行の意図についてのものだった。投資家の間では、輸出業者は比較的早い時期にオフショアのドル建ての売り上げを国内に持ち込まざるを得なくなるとの予想が非常に多い。中国の貿易黒字は膨らみ続けているが、その一方で外貨準備高は減ってきており、輸出業者は明らかにドルを外国で蓄えているからだ。
中国の銀行は法人顧客に対し、顧客が今年受け取るドルは前年よりも減る見通しだと伝えている。金利がいよいよ高くなるドル建ての借り入れを返済するためのドルについても同様だという。
中国の外貨準備高は1月だけで995億ドル減少した。2014年6月のピークから累計で7700億ドル減った計算だ。昨年12月の実績と合わせれば、2カ月間で2074億ドルが流出したことになる。