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【社説】

老人施設転落死 初動捜査が甘すぎた

 川崎市の老人ホームで入所者が転落死した事件で、元職員が殺人の疑いで逮捕された。亡くなったのは三人で、いずれも二〇一四年の出来事だった。警察の初動捜査に問題がなかったか疑問は残る。

 事件が起きたのは、川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」だ。入所者の八十七歳の男性が一四年十一月の深夜に四階のベランダから転落した。投げ落とされたと神奈川県警はみて元職員を逮捕した。この元職員も「殺そうと思ってやった」と認めているとされる。

 同年十二月にも八十六歳の女性が四階のベランダから、九十六歳の女性も六階のベランダから転落死している。この二人についても、元職員は関与を認めているようだ。なぜ殺人に至ったのか、動機などの徹底解明が求められる。

 そもそも三人の入所者が相次いで転落死するという異常事態に警察の対応が十分だったのだろうか。当初は単なる事故死とみてはいなかっただろうか。警察は死因特定のための司法解剖もしていなかった。二件目の段階で、所轄の警察署は事件性を疑ったが、県警本部にまで伝えていなかった。もし事件性があると考えて捜査していれば、三件目の事件が防げた可能性もあり、悔いが残る。

 三人の転落死ではいずれの時間帯も、逮捕された元職員が当直の夜勤中だった。三件のうち二件では第一発見者でもあった。どう考えても不自然だ。高齢者施設での事件では虐待などがないか、警察は丁寧な捜査が求められる。

 とくに高齢者施設での虐待は激増している現状がある。厚生労働省がまとめた一四年度の調査では、特別養護老人ホームなど、介護施設の職員による虐待は過去最多の三百件にのぼった。〇六年度と比べ、約五・六倍だ。

 被害者は認知症の人が約80%を占めている。複数回答の統計では、身体的虐待が最多の63・8%にのぼり、暴言や無視などの心理的虐待が43・1%、貯金使い込みなど経済的虐待が16・9%ある。介護放棄は8・5%、性的虐待も2・6%あった。

 老人福祉法で義務付けられた都道府県などへの届け出をしていない有料老人ホームも急増している。ここでは入居者をベルトでベッドに固定するなど虐待と認定されたケースもある。

 介護施設は密室化しやすい。外部からチェックを働かせる仕組みを築かないと、高齢者の悲劇は後を絶たない。

 

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