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人を組み替える

2016.02.10

小さなチーム育成論(4)──デザインチームにおけるリーダーの人選

別府 俊幸

チーム作りのデザインエンジニアリング

ものづくり リーダー 教育

リーダーの人選

ロボコンに限らず、チームにおいて問題となるのがリーダーの人選でしょう。

松江高専では、学生有志が集まってロボコンチームを組みます。「来る者は拒まず、去る者は追わず」がモットーの“やる気”集団です。ブラックバイトも真っ青なほどの時間を、土日も夏休みも潰し、デートもバイトもしないでロボコンにつぎ込むのですから、生半可なやる気では続きません。

しかし、やる気があってもデザインの“やり方”を分かっているわけではありません。そしてメンバーを育てると同時に、リーダーを育てることも指導者の仕事となります。メンバーの指導は、基本的に研究指導と同じやり方です。課題を示し、それに対するアプローチの方法を教え、学生の検討や実験の結果を講評し、次の方針を示します。

例えば、「ボールを打ち出すユニットの開発」を担当させるのであれば、最初に打ち出すためのアイデアを出させ、そのアイデアが可能かどうかを実験させます。その実験結果から可能性が見えれば、メカの設計、試作へと進めます。さらに試作ができれば、その性能を評価します。たいがいの場合、この時点では着弾点が定まらない、照準が合わないなどの問題が山積みとなります。ですので、さらに改良方法を議論して、修正試作を繰り返してもらいます。慣れてくれば教員の指示を待つことなく、自身で問題点をチェックして改善策を考案できるようになります。

一方、リーダーの育成についてです。まず、誰がリーダーを務めるかの選出は、指名をせずに学生に任せています。任せるといっても選挙するわけではありません。自然とチームの中心となる学生が現れますので、彼または彼女に任せます。ただ、その人物が技術的にもっとも優れているとは限りません。

技術的に優れているのは概して、職人タイプとでもいうような黙々と取り組む学生です。リーダーに向いているのは、それよりも面倒見の良い、調整能力に長けるタイプです。しかし、リーダーが技術的な調整もしなければなりませんから、それだけの知識と技術は必要になります。「ここは分からないから、よろしく」と他人に任せるのは良いのですが、その部分も勉強してカバーする努力家タイプでないと、チームは回りません。

リーダーは他のメンバーをマネジメントします。例えば、メカ部分ができあがってからエレキの回路デザインを始めていては、「メカの担当者かエレキの担当者か、どちらかが常にヒマ」という状況ができてしまいます。これでは時間が無駄に費やされるだけでなく、チームとして一つのモノを作りあげようとの意識が強まりません。

ですので、リーダーにはチーム全体の開発状況を把握し、全体の作業プランを計画し、遅れている部分をテコ入れするなど、マネジメントのやり方を教示します。ところが、リーダー自身も自分の担当を抱えて作業しています。自分自身の担当を進めつつ、その上で他のメンバーの進捗に気を配れるようになるには、修練を要します。

リーダーのレベル

ロボコンでは、先輩・後輩といっても体育会系ほどの上下関係はありません。しかし技術的には、経験がものをいうところがあります。もっぱら上級生同士がチームを組み、その中の1人がリーダーとなり、下級生は上級生の手伝いがメインとなります。

ときにはリーダーの能力を上回る下級生が現れます。先輩といっても、わずか1、2年の経験差ですので、学校においてはこういうケースがあります。すると、後輩のアイデアの優れているところがリーダーに理解できない、ということが起こるのです。

人は、自身の持つ“ものさし”の範囲内ではレベルを測定できますが、それを超えると測ることができません。たとえばSTAP細胞の議論を聞いたところで、私には“すごいこと”としか分かりませんが、その分野の研究者であれば、研究が適切に行われたか、新たな知見が認められたかと、研究論文の査読(※)もできます。

自らの“ものさし”を超えるレベルに出会ったとき、ヒトの対応は二つに分かれます。超えることそのものを“認識できない”あるいは“否定する”か、“認める”かです。幼児が全力で兄や姉にぶつかっていく状態と、もう少し成長してかなわないと理解する状態に例えてもよいでしょう。

経験則6 リーダーには、自らを上回るレベルを認識できる能力が必要である

優秀なメンバーがいれば「しめしめ」と楽隠居を決められるのですが、経験の浅い学生には、なかなかそのような対応ができません。そもそも、下級生が自分を超えるとは思いもつかないのかもしれません。

あるケースでは、リーダーの指示に後輩は納得せず、開発を進められない状況でした。先輩としてのメンツもプライドもあるでしょうし、デザイン能力はスポーツのように誰にでも見えるものではありませんので、上級生をさしおいて下級生をリーダーに抜擢するのも難しいところです。出来上がった作品があり、それが優れていると分かるのなら誰もが力を認めるでしょう。ところが、作品ができる前に能力を見抜けるのは、経験豊富な同業者だけでしょう。かといって、そのまま傍観していたのでは後輩のやる気が削がれてしまいます。

このときは、下級生が力を発揮できるように独立した業務を与えるようリーダーに指示し、一方の後輩に対しては「リーダーが担当しているセクションではないから、詳しい君が……」と直接にアドバイスしました。事実上は後輩のアイデアによる開発となったのですが、うまく動いたのですからリーダーにも不満はありません(それよりも自分の担当箇所で手一杯でした)。

また、同じような状況で、先輩としてうまく対応した学生リーダーもいました。リーダーは後輩に「ここはどうしたら良いと思う」と尋ね、「じゃあ、こうしてよ」と要求仕様を伝えて任せてしまいます。彼は後輩の力を認めた上で任せ、そして必要なところは相談していました。

私が対応をアドバイスしたわけではありません。リーダーの“認識力”というよりも“調整力”が、うまくチームを動かしていました。

経験則7 リーダーには技術力も必要だが、それ以上に調整力が求められる

いかにチームを動かすか。指導者の経験を伝えることが、リーダーの成長につながります。

※「査読」──科学技術研究の成果として認められるかどうかを判断する、論文誌における審査。科学技術においては、この審査を通らないと学術論文とは認められない。小保方氏のSTAP論文も査読を通って専門誌に掲載されたが、その論文に対して疑念が呈されたために撤回された。ただし、査読は研究が科学的な方法論に基づいて実施され、その結果に新たな知見が含まれるかを判定するだけであって、STAP細胞の有無を判定するものではない。
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専ロボコンの参加チームは学校ですから、毎年学生が卒業し、新たなメンバーが加わります。その時々に参加した学生によってチームを組むわけですから、なかなかに個性溢れるチームができあがります。うまくいくチームとそうでもないチームがありますが、以下の傾向を感じます。

プロフィール

別府 俊幸 (べっぷ としゆき)

松江工業高等専門学校教授(電気工学科)。1961年鳥取県生まれ。専門分野は、エンジニアリング・デザイン教育、電子回路、制御工学。東京電機大大学院、東京女子医大日本心臓血圧研究所を経て現職。医学博士、工学博士。その他、オーディオ自作派ライターとしても活動中。著書に「オペアンプから始める電子回路入門」(森北出版)、『メカトロニクス電子回路』(コロナ社)など。『コミック エンジニア物語 未来を拓く高専のチカラ』(平凡社)では企画立案、編集長を担う。『OPアンプMUSESで作る高音質ヘッドホン・アンプ』(CQ出版社)