もう一つの挑戦(2)離島 小さな町の受験生は不利か
地方で暮らすことは受験にハンディを抱え、不利なのだろうか-。九州北部の小さな離島で、その問いに「ノー」と胸を張る高校がある。
五島列島の北端に浮かぶ小値賀(おぢか)島(長崎県小値賀町)。人口約2600人の町の中央に県立北松(ほくしょう)西高はある。今年の3年生は12人。島の子どもの大半がこの高校に進学するが、過疎と少子化のあおりで定員40人を毎年割り込んでいる。
いわゆる進学校ではない。今年は四年制大学などの進学志望が4人、就職や専門学校志望が8人。卒業後の進路も学習の習熟度もまったく異なる同級生が机を並べる。それでも毎年、九州大や熊本大、長崎大などの国公立大に合格者を輩出する。
島には大手予備校はもちろん、個人経営の学習塾も、自治体が開設する「無料塾」もない。それなのになぜ-。
1月中旬のある火曜日。センター試験直前の英語の授業では、リスニングの練習があった。
机に向かうのは進学志望の4人。がらんとした教室に、ラジカセの音声が響き渡る。スイッチを切ると教諭が質問を出し、4人が口々に答える。全員参加の双方向のやりとりで授業が作り上げられていく。
「生徒一人一人に目が届くのは、大規模校にはない利点」と、進路指導担当の江浦政則教諭(32)は話す。同程度の偏差値の生徒が集う本土の学校とは違い、生徒の学力はさまざまで「全員が満足できる授業をするのは難しい」。半面、生徒がつまずく点がよく分かり、きめ細かい指導ができるという。
始業前と放課後の補習、課題の添削、放課後の自習と指導…。勝幸八校長は「受験対策は他の学校と変わらない」と話す。
では、何が違うのか。
島外から着任して3年目の福田雅子教頭は「小中学校との連携効果が大きい」とみる。小中高は1校ずつしかなく一貫教育に取り組む。つなぎ目には教諭が相互に乗り入れ、ギャップ解消に努めている。課題を全員が必ず提出するなど「素直さ」も、島っ子の特色だという。
江浦教諭は「正直言って、これまで生徒が理解できない点を塾に頼っていた部分もあった。でも、ここでは学校の教育がすべて。責任が重い分、やりがいも大きい」。島ならではの少人数と一貫型教育が生徒と学校の信頼関係を生み、学力の積み上げにつながっているようだ。
生徒はどう受け止めているのだろう。
「島には競争がないので、大勢の中でもまれたいと思ったこともあった」。推薦入試で長崎大教育学部に進学が決まった男子生徒(18)は3年前を振り返る。実は中学時代、佐世保市の進学校に行くことも考えた。下宿生活にかかる家計への負担は大きく、地元での進学を選択したという。
顔なじみの同級生と過ごす高校生活は居心地が良かったが、夏が終わり受験ムードが漂い始める中、インターネットで大手進学塾の授業の様子を見てドキッとした。午後10時でも集団で机に向かう受験生たち。「このままで大丈夫かな」と、少し不安になったという。
ただ、志望校合格に向けて自分のため対策を練ってくれる先生と、いつでも分からないところを質問できる環境に、今は「恵まれている」と感じる。教員という将来の夢を持つようになったのも、身近な先生たちのおかげだという。
この生徒を含め、今年は2人が既に国立大に推薦入試で合格を果たした。勝校長は言う。
「ここで学べば将来が開けることを示し続けることが大事。一人でも多く、18歳まで島に残ってもらうために」
島の高校にとって進学実績は、島の未来にもつながる大きな意味があるようだ。
■少人数学級 高校標準法で高校は1クラス40人を定数としてきたが、2001年の法改正で都道府県や市町村の判断で弾力的な運用ができるようになった。九州では佐賀県が11年度に初めて県立2校で研究を始め、生徒指導や学力の向上を目指し、15年度は5校で実施している。
一方、小中学校では義務教育標準法でクラスの上限人数が決められており、1980年に40人に。11年には小学1年生に限り、35人に引き下げられた。少人数学級導入に伴い、学力向上や生徒指導につながるという考え方がある半面、否定的な見方もあり、研究者の間でも評価が分かれている。
=2016/02/14付 西日本新聞朝刊=