トップページニュース特設 マイナス金利の影響広がる
ニュース特設
マイナス金利の影響広がる
日銀は、金融機関から預かっている当座預金の一部にマイナス金利を適用する新たな金融政策を始めました。マイナス金利の導入で、金融市場や私たちの暮らしにさまざまな影響が及び始めています。銀行の間では、普通預金や定期預金や住宅ローンの金利を引き下げる動きが出ている一方、円相場と株価が乱高下するなど、日銀の思惑とは逆の形にもなっています。
初のマイナス金利導入
日銀は、1月29日、日本で初めてマイナス金利政策の導入を発表。2月16日から実際に導入しました。マイナス金利は、金融機関から日銀の当座預金で預かっている一部の資金につけている金利をマイナスに引き下げる政策です。
金融機関は、預金をきっちり預金者に支払うことができるよう日銀の当座預金に預金することが法律で義務づけられています。しかし、大規模な金融緩和のもとで、金融機関は、余った大量の資金を日銀に預けていて、この部分に日銀は0.1%という金利を付けていました。今回の措置では、当座預金の一部の金利について、2月16日からマイナス0.1%に下げることを決定しました。
銀行が日銀の当座預金に余分にお金を預けるとペナルティーとして「手数料」をとるというもので、銀行のお金を貸し出しや投資に回すよう促し、経済の活性化やデフレ脱却につなげようというねらいがあります。
コール市場でマイナス金利取引成立
金融機関どうしが資金を融通しあうコール市場では、17日、約10年ぶりにマイナス金利での取り引きが成立しました。
コール市場と呼ばれる短期の金融市場では、金融機関どうしが日々の資金を融通しあっています。ここで決まる金利があらゆる金利の起点となり、日銀もその動向を注視しています。
17日の市場で、本来なら金利を受け取るはずの貸し手の金融機関が別の金融機関にわざわざ金利を支払ってお金を貸すというマイナス金利での取り引きが成立しました。日銀によりますと、マイナス金利の幅は最大で0.05%だったということです。
コール市場でマイナス金利が成立したのは日銀が量的緩和政策を解除する直前の2006年2月以来、約10年ぶりです。日銀が16日からマイナス金利の適用を始めたことで、貸し手の金融機関が日銀に資金を預けたままではマイナス0.1%の金利がついて実質的に手数料をとられてしまうため、わざわざ金利を支払ってでもお金を貸し出したほうが負担が少ないという判断があったものとみられています。
市場は乱高下
マイナス金利の導入で、日銀としては円安・株高の方向にもっていく思惑もありました。世界経済の先行きへの不安が高まったこともあって、円相場、株価とも円高・株安の方向に大きく動くなど、日銀の思惑とは逆の形となっています。
決定当初こそ円安が進み、1ドル=121円台になりましたが、11日のロンドン外国為替市場では約1年3か月ぶりに110円台に値上がりしました。一方、日経平均株価も1万8000円近くまで値上がりしましたが、その後、大きく値下がりし、12日には、おととし10月以来、約1年4か月ぶりに1万5000円を割り込みました。
円高は輸出に関わる企業の業績を悪化させるおそれがあり、株安は消費を冷え込ませるおそれがあります。
長期金利 初のマイナスに
国債の市場では、9日、長期金利の代表的な指標になっている満期までの期間が10年の国債の利回りは一時、マイナス0.035%まで低下しました。長期金利がマイナスとなるのは国内では初めてです。
背景には日銀の「マイナス金利」
背景には、ここに来て世界経済の先行きへの懸念が強まっていることに加え、日銀が導入を決めたマイナス金利があります。
積極的に企業や個人に貸し出してもらおうとするマイナス金利政策ですが、金融機関からすると、どんな相手でもかまわずお金を貸すというわけにはいかないので、まずは国債を買おうという動きが出ているのです。
また、金融機関にしてみれば、例えば金利がマイナス0.01%の国債を購入した方が、日銀に預けてより高い0.1%の手数料を支払うよりは損が少なくなるという考え方もあります。
さらに国債は、自分が買った値段より高く買ってくれる人がいれば、利益を得られる可能性があり、国債の買いにつながっています。このように金利がマイナスでも国債を買うメリットが上回るとして、国債は買われ続け、長期金利はマイナスになったのです。
長期金利がマイナスになるとは
国債の利回りがマイナスになる仕組みについて、投資の経験のない一般の人にも話を分かりやすくするため、満期までの期間が1年の架空の国債で考えてみます。
例えば、額面の価格が100円で、年1円の利子がつく国債があったとします。この国債の利回りは年1%で、1年間持ち続けると1円もらえ、最終的に101円が手に入ることになります。この国債の人気が高まって買う人が増えれば国債の市場での価格は値上がりします。
仮に、この国債の市場での価格が105円まで値上がりしたとします。投資家がこの国債を105円で買い、満期まで1年間保有した場合、得られるのは、1年間の利子1円と額面の100円、合わせて101円です。105円投資したのに合わせて101円しか得られず、4円の損失が出る計算です。 つまり、投資に対して損失が出て利回りがマイナスになります。これが国債の利回りがマイナスになるということです。
個人への影響は
国債を個人で買って持っている人は満期まで保有していれば金利がマイナスになることはありません。
定期預金・住宅ローン金利 引き下げの動き
長期金利の代表的な指標とされる満期までの期間が10年の国債の利回りは、企業が設備投資のための資金を銀行から借りる際の金利や住宅ローンなどの金利に大きな影響を及ぼします。
銀行は、日銀がマイナス金利の導入を決めたことをきっかけに長期金利など金利全般が急低下したことからすでに定期預金や住宅ローンの金利を相次いで引き下げています。
普通預金 金利0.001%も
三井住友銀行は、普通預金の金利を現在の0.02%から、17日以降、過去最低と並ぶ0.001%まで引き下げるとしています。これは、利用者が10万円を1年間預けた場合、単純計算で利子が1円しかつかないことになります。
大手銀行の「みずほ銀行」は満期まで2年以上の定期預金の金利を10日からの預け入れについて一律で0.025%に引き下げたほか、「三菱東京UFJ銀行」や「三井住友銀行」も満期まで2年から10年までの定期預金の金利を引き下げています。また、「ゆうちょ銀行」も9日から「通常貯金」の金利を今の0.03%から0.02%に引き下げたほか、「定額貯金」や「定期貯金」は、9日からの預け入れについて引き下げています。
こうした動きは、地方銀行でも相次いでいて、「横浜銀行」や「東京都民銀行」がすでに定期預金の金利を引き下げたほか、「北洋銀行」も12日の預け入れ分から定期預金の金利を引き下げます。
住宅ローン金利 引き下げ
「新生銀行」は、9日から、10年間、固定金利を適用する住宅ローンの金利を1.25%から過去最低の1.15%に引き下げるなど、多くの種類の住宅ローンで金利を引き下げました。大手銀行は、すでに、10年間、固定金利を適用する住宅ローンの金利をいずれも過去最低の0.7%から1.05%まで引き下げています。
今後については、長期金利の水準を見ながらさらに金利を引き下げるかどうか検討することにしています。
企業向け金利 引き下げ
みずほ銀行は、大企業向けの融資の基準となる金利「長期プライムレート」を10日から過去最低となる1%に引き下げると発表し、個人だけではなく企業に対する金利の低下も広がることが予想されます。
個人向けの金利「マイナスにならない」
今回、長期金利がマイナスになったことで、世の中の金利は全般的に一段と下がることが見込まれますが、預金金利や住宅ローン金利がただちにマイナスになるわけではありません。
日銀の黒田総裁は、4日の衆議院予算委員会で「銀行の個人向けの預金にマイナスの金利がつくことはない」と述べています。各大手銀行も、現時点で、預金金利や住宅ローン金利をマイナスにすることはないとしています。
MMF初の繰り上げ償還
資産運用大手の「日興アセットマネジメント」は、投資信託の商品=MMFについて日銀がマイナス金利を導入する前日の2月15日に個人投資家などから集めた資金を全額、繰り上げ償還すると発表しました。
MMFは、リスクの高い株式を避け、比較的安全とされる国債や社債などで運用するのが特徴で、「日興アセットマネジメント」が運用するMMFの純資産総額は、8日時点でおよそ235億円に上ります。しかし、日銀がマイナス金利の導入を決めた後、主な運用資産である国債の利回りが過去最低の水準まで急速に低下するなどして投資環境が厳しくなったとして繰り上げ償還することを決めたものです。
MMFを巡っては、国内11社のすべてが事実上、受け付けを停止することになり、個人の資産運用にも影響が出始めています。
今後の見通しは
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、長期金利がマイナスになった背景について「世界経済の失速への警戒感が非常に強く、投資家がリスクを避けようとする流れが東京市場にも押し寄せた。今、日本国内は運用難でお金を持っていく先が少なく、やむを得ずマイナス金利でもリスクの小さい資産にお金を配分しなければいけない投資家が国債を買っている」と指摘します。
今後の見通しについては、「日銀がさらに金利のマイナス幅を拡大する可能性もまだ十分残っているので、そういう期待があるうちは金利がプラス方向に大きく戻る可能性は低いのではないか」と話しています。
生活への影響については、「住宅ローン金利はすでに低下が顕著になっていて、ローンを組む人にはプラスということになる。マイナス面では、預金金利はゼロに近い状態が続いていくということや、生命保険や年金の運用が厳しくなるので、将来、何かのときのための保険とか、老後の年金の受け取りに影響が出てくることが考えられる」と話しています。
先行するヨーロッパでは
ヨーロッパでは、ユーロ圏やスイス、デンマーク、それにスウェーデンですでにマイナス金利が導入されていて債券市場では、各国の国債の利回りが低下しています。
スイスでは、償還までの期間が10年の国債の利回りがマイナスになっています。また、ドイツやフランス、フィンランドなど、ユーロ圏各国でも償還期間の短い国債を中心に利回りがマイナスになっていて、今ではユーロ圏の国債の3分の1近くがマイナス金利となっています。
ヨーロッパ中央銀行は、マイナス金利の幅が大きな国債を、量的緩和の買い入れ対象にしていません。このためマイナス金利の国債が増えれば、量的緩和の制約につながるのではないかという見方も出ています。一方、金融機関の間からは、中央銀行にお金を預けると、いわば手数料を取られることになるため、収益が圧迫されるという懸念が出ています。
スイスでは、預金者に負担を求めるとして、先月から預金金利をマイナスにする銀行が現れたほか、住宅ローンについても金融機関にかかるコスト負担を借り手に転嫁しようと金利を引き上げるところがでてきています。
デンマークでは、市場に合わせて変動するタイプの住宅ローンの金利をマイナスにするところも出てきています。これは、借り手の金利負担を金融機関が肩代わりすることになり、金融機関の負担が増すことになるほか、金利の低下が住宅価格の上昇も招いていて、バブルの懸念も出始めています。