ブラック企業の勤務実態~固定残業代によるサービス残業~

近年、ニュースを見ていてもブラック企業やブラックバイトに関する報道を目にする機会が増えてきました。連日のサービス残業や毎週の休日出勤、ひどい話では退勤の6分後に出勤という事例もありました。
こういったブラック企業やブラックバイトを続けた末のうつ病や最悪の場合は過労死という、文字通り『死ぬまで働く』悲惨なニュースはなぜなくならないのでしょうか?
今回はそんなブラック企業・ブラックバイトの実態に迫るべく、ブラック企業でのアルバイトから正社員になった山田さん(仮称・34歳)にその勤務実態を語ってもらいました。山田さんの働く企業では残業代があらかじめいくらと固定されている、いわゆる『固定残業代』が激務の原因になっているようです。
山田さん(仮称・34歳)
大学卒業後から9年間勤めていた出版会社が2012年に倒産。
その後就職活動をするもなかなか採用が貰えず、短期のアルバイトをしながら生計を立てていたところ、アルバイト先の家庭教師斡旋会社から正社員として誘われ入社、現在に至る。
月の残業時間は100時間を軽く超えているが、5歳になる子どもと奥さんを養うために辞めたくても辞められないジレンマの中、日々身を削る想いで働いているそうです。
▽勤務実態:2015年12月の休日は3日間

今の会社では営業職として働いています。もともと以前勤めていた会社と取引があった会社で、前の会社の倒産後はポスティングとテレアポのアルバイトをさせてもらっていました。他にもいくつかのアルバイトをしながら業界は絞らずに1年弱就職活動をしていたのですが、30歳過ぎだからかなかなか満足いく採用がもらえませんでした。そんな時、テレアポでの成績も悪くなかったので正社員として働かないか?と声をかけられてそのまま入社しました。
正直後悔もしていますが、明かりの見えない就職活動がいつまで続くのかと思ったら選ぶ余裕はなかったので仕方のない選択だったとも思っています。
業務内容としては、地域の家庭へのポスティングと訪問営業、業者からか購入したリストへのテレアポです。一応表向きの就業時間は9時~18時で休日は土日祝です。あと年末年始やGWなども一応3~5日の休みにはなっています。
実際の労働時間は日によりますが、8時~23時が標準です。標準的な一日の流れとしては
8時:出社、ポスティングエリアの確認、移動
8時半:ポスティング開始
12時:1時間休憩(昼食後は全員昼寝をします)
13時:テレアポ開始
16時:訪問営業開始
21時半:営業終了
22時:報告・反省会+ちょっとした事務作業
です。
23時頃から、行く奴はご飯に食べに行ったり飲みに行ったりです。僕はたまに付き合いで行きますが、基本的には妻が晩御飯を用意しているのでだいたい家に帰ります。
この勤務スケジュールでわかると思いますけど、定時が18時までというのは完全に表向きです。
笑っちゃう話ですけど夕方から夜にかけても訪問営業が義務付けられていますから。各家庭の保護者に営業しますが、夕方以降しかいない家庭もありますからね。そして夕方以降しか保護者がいない家庭があるように、土日しか保護者がいない家庭もありますから、当然土日も営業です。一応、休日の出勤は自由ということにはなっているのですが、自発的に出勤することを前提に話が進んでいます。
12月は免許の更新の日と娘の幼稚園の発表会の日と大晦日以外出勤しました。ちなみに娘の発表会の日は、親族の結婚式と嘘をついて招待状まで偽造して休みました。それでもだいぶ渋られましたが。基本的に些細な事情では休ませてもらえません、休日出勤なのに。免許の更新も期限ギリギリまで行かせてもらえませんでした。
▽深夜手当と業務手当が残業手当の代わり

これが12月の給与明細です。モザイクの手当はいわゆる『歩合』ですが、ネーミングが独特なので隠させてください。
詳しくはわかりませんが各手当はほとんど定額なので総支給額は毎月だいたいこんなもんです。
たぶんかなりのブラック企業だと思いますが福利厚生だけは意外とまともでした。ネットで見ると社会保険がない会社もあるみたいですし、自分は年2回ボーナスももらえていていわゆるワーキングプアと呼ばれる人たちよりはもらっていると思うので、そういった点ではまだ自分はマシなほうだと感じるようになりました。

一応12月の出勤日は20日間になっています。土日祝と年末を除いた表向きの平日の出勤日です。
で、さらに休日出勤を8日間したことも正しく記載されています。
しかし、出勤時間は224時間とありますが、これは28日間の日数に8時間をかけただけで、実際の労働時間が反映されているわけではありません。
ここに記載の休日出勤だけで残業64時間ですが、毎日あと5時間くらい働いているので合計で200時間弱のサービス残業じゃないでしょうか。

そして残業手当、一切つきません。深夜手当と業務手当という名目で実質固定の残業代を支給されています。
正社員になる前はポスティングとテレアポしかやっていなかったので、こんなひどい勤務実態だったとは知りませんでした。そもそも正社員になる前は、訪問営業は基本的に別の社員が担当で、せいぜいたまにヘルプで入るくらいと聞かされていました。
いざ入社してびっくり、毎日ヘルプしています。

ちなみにほかの社員は高卒や専門卒や大卒の若いスタッフが比較的多く、ほぼ毎晩キャバクラに行って楽しんでいるその日暮しみたいな連中です。親会社の別の事業部で採用して、うちの営業に回されているみたいです。ある若手社員は格安の社宅に入っていますが、給料日前は部長にお金を借りているみたいなので、恐らくみんな貯金はないと思われます。
▽ブラックだと分かっていても辞められない現実

妻や友人からは転職を勧められます。
『もっといい仕事はある』『体壊すぞ』と散々言われてきましたが、踏み出せずにいます。
約1年間就職活動をしましたが、あの惨めで辛い経験をもう一度するのになんとなく抵抗があるのと、無事再就職できる自信もないので。
仕事は大変ですが、自分の稼ぎと妻のパートで何とか黒字ではありますし、就職活動がうまくいかなかった場合は今より生活が苦しくなるので、身動きが取れません。辞めたくても辞められないのが現実です。
あと、まだ入社して3年も経っていませんからまだ見習いだとも思って受け入れています。
幸い体は丈夫な方ですし、昔から根性はあると思っていますので、今はやるしかないです。
ちなみに30歳過ぎの中途の社員はだいたい僕と同じような状況でみんな辞めたくても辞められない状態だと思います。
20代前半の社員は比較的入れ替わりも多く、もしかしたら会社も使い捨て感覚なのかもしれません。
▽生涯続けられるのか?

一応、会社の言い分としては『労働環境の改善をしようと努力はしている』そうです。
アルバイトをいれて社員の負担を減らそうと求人も出していますし、営業職の残業に手当を付けられるように外部のコンサルに相談をしながら労務面の改善を検討しているらしいです。
また、チームリーダー以上になれば労働時間に余裕が出ますし給与も良くなるので、なんとか数年以内にそういった役職に就きたいですね。
だから今はそういう役職を目指して頑張るしかないです。
ちなみに妻の実家が農家で、跡取りもいないので今のところ義父の代で終わらせるつもりらしいですが、最悪それですね。甘いかもしれませんが、保険だとは思っています。
この日、山田さんは午後からの休日出勤だそうで、取材後そのまま職場へ向かいました。
以上、山田さんの勤務するブラック企業の実態でしたが、山田さんのようになかなか再就職に踏み切れない方はブラック企業と分かっていても辞められない背景があり、そういった社員を狙ったブラック企業は増加しているといいます。
しかし無理な労働を続ければ最悪の場合死に至るケースもありますので、職場での改善が見られないようであれば勇気を出して再就職の道を選ばなければならないのかもしれません。
▽付録:固定残業代とは?

残業代があらかじめいくらと決められている給与体系を言う。雇用契約書に「基本給与○万円、残業手当○円」などと記載されており、固定の手当として決められている例が多い。本件の場合は、深夜手当と業務手当として実質固定の残業手当が支給がなされていた。