2014年、神奈川県川崎市の有料老人ホームに入居していた高齢者3名が相次いでベランダから転落死するという衝撃の事件が報道された。そして昨日(2016年2月16日)、同施設で働いていた23歳の男性介護職員が逮捕され、殺害の容疑を認めた。
ほかにも、介護施設内で起こる殺傷事件や虐待のニュースは後を絶たない。来たる高齢化社会に向け、国がテコ入れしたはずの福祉事業の現場で、なぜこんなにも痛ましい事件が頻発しているのだろうか?
ノンフィクションライターの中村淳彦氏は、以前に自身が運営していた介護施設内で起きたトラブルを経験し、その「崩壊」の様子を目の当たりにした。「介護施設」という閉じた空間の中でいま起きているのか? 現場からの渾身のレポート。
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(文/中村淳彦)
常軌を逸した介護職員の態度
「このやろう、おとなしく座ってやがれ!」
午後のレクリエーションの最中、40代の男性介護職員Aがフロアを徘徊する70代の認知症男性高齢者に怒鳴った。怒りで目を血走らせて高齢者男性を突き飛ばし、さらに羽交い絞めにして暴行を加えようとしている。完全な虐待だ。
Aはいくら言っても徘徊を繰り返す認知症男性高齢者の行動にキレて、理性が効かなくなり突発的に手を上げたのだ。ちなみに “徘徊” は、認知症高齢者にとってごく一般的な行動である。
私と他の職員が慌てて止めに入った。Aは、一応ヘルパー2級の資格を持つ介護職なので、さすがに“虐待はまずい”ことはすぐに理解した。
もともとAは、自制の効かないキレやすいタイプだった。高校を中退後、職を転々とし、41歳の時にハローワークの職業訓練でヘルパー講座を受講して介護職になった。のちに知ったのだが、前職の広告代理店では社内でトラブルを起こし解雇されていた。
その後もAは、食事介助で認知症高齢者の口に食べ物を詰め込んだり、高齢者を威圧するような高圧的な言葉を使うなど、虐待紛いの問題行動を繰り返した。私や他の職員が注意をしても、一貫して聞く耳を持たなかった。
2000年に介護保険制度が施行されて以降、介護は延々とした深刻な人手不足が続き、このような問題ある人物にも頼らざるを得なくなった。Aがいなくなれば現場は平穏になるが、人手が足りなくなり業務がまわらなくなる。Aもその実情を知っているので、どんなに横暴な態度をとっても解雇されることはないと分かっているのだ。
介護は人と人とが密になる仕事だ。人に対する態度は知識や経験以前に、人格の問題である。若者ならともかく、中年から人格を矯正できるワケがない。私や他の職員がAに注意や意見をすれば、「おい、俺を怒らせたらどうなるかわかっているのか!」と逆にキレて脅してくる。
事業者にとって最悪なケースは、職員が虐待事件を起こすことだ。このまま放置すれば大きな事件に発展するのは時間の問題だった。だいぶ悩んだが、人員不足で現場が混乱することを覚悟で、私はAを解雇した。
クビを告げられたAは「てめえ、このままで終わると思うなよ」と恫喝して施設から出て行き、なんとその日から、私と私の家族のストーカーになった。
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