リンパ腫を患った2人のゴールキーパー
2009年、ワシントン大学女子サッカー部に所属する2人の女性ゴールキーパーが、「非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma)」の診断を受けました。
非ホジキンリンパ腫は 悪性リンパ腫の一種で、リンパ節が腫大して腫瘤が出来ますが、初期症状は無痛性のため誤診を受けることも多く、きちんとした診断が出る頃には大幅に進行しているという特徴があります。
基本的には進行の遅い「インドレントリンパ腫」と言われる低悪性型の罹患率が高いものですが、中には週単位で進行する「高度アグレッシブリンパ腫」なども含まれる恐ろしいガンです。
同大学サッカー部キャプテンだったエイミー・グリフィンは、病院で化学療法を受ける彼女らを見舞いに行った際、看護師にこんなことを言われたそうです。
彼女たち、もしやゴールキーパーでは?実は今週、ゴールキーパーが4人目も入院してきました
患者自身も「自分がゴールキーパーだということと、身体に出てきた黒い斑点には何か関係があると思っていた」と彼女に告白しました。
ゴールキーパーには、リンパ腫や白血病など予後の悪いガンも
アメリカでは、巨大複合スタジアムから公立高校のグラウンドに至るまで人工芝が当たり前になっていますが、実際触れたことのある人なら誰でも、人工芝から古タイヤがちぎれたような、極小の黒いゴム屑が出ているのを認識しているでしょう。これは、選手の服や髪の毛にも付着します。特にゴールキーパーは、いかなる場合でも人工芝に接していないといけませんから危険性はより高くなります。
実際のゲーム以外のトレーニングでも、何百回となく人工芝にダイブせねばなりませんし、そのたびに黒いゴム屑が空中に飛散、微粒は口、切傷、擦傷を通して選手の器官に侵入します。
グリフィンは、この黒い屑は発ガン性の化学物質に違いないと考えました。
私の27年のコーチ人生、最初の15年はこんなことはなかった。でもある時突如として、子どもたちが発症し始めた
その時からグリフィンは、選手に関する詳細な記録をつけ始めました。
38件の記録のうち、実に34件がゴールキーパーで、すべてがガンと診断されました。血液性のガンであるリンパ腫や、白血病がリストに並びました。
NBCの独自取材で議論沸騰
残念ながらグリフィンの録った記録、そのものは人工芝とガンの因果関係の化学的な証明にはなり得ないものでしたが、国中の公園やスタジアム、学校のグラウンドに使われている人工芝は「安全なのか?」それを関係機関に問題提起するには十分でした。
そもそも合成繊維や、廃タイヤから作られるこの素材に関しては、すでに国中から疑問の声が上がっていました。
原材料には、ベンゼン、カーボンブラック、鉛などが使用されています。ベンゼンは発ガン性物質のリスク評価を行っているIARCの分類によると、グループ3。
カーボンブラックはグループ2、鉛はグループ2Bです。
グループ3は人への発癌性は未分類ですが、グループ2なら発癌性ありです。
しかしこの時、例えばゴム屑を口腔摂取したらどうなるかなど、危険性に関するレポートはほとんどありませんでした。
大手メディアのNBCが、科学者や関連企業の専門家に対して行った独自調査では、アスリートへの人工芝の悪影響に対して同意する者がいなかっただけでなく、十分な安全性テストが行われているという確証も得られませんでした。
人工芝委員会(The Synthetic Turf Council)は、人工芝が身体に何の影響もないという証拠が、近々科学的に証明されると言い切りました。
健康被害のエビエンスがない…米政府、安全性リスク検証に動き出す
しかし後日。
「ゴム屑を吸い込んだり、口腔摂取したり、皮膚に触れたりすることの身体への有毒性に関するレポートが、過去20年で60件以上ありました。ガンに関するレポートも同様です」と、人工芝委員会が発表。
同日、同委員会の代表は連邦有害物質疾病登録局(the federal Agency for Toxic Substances and Disease Registry)に、アスリートにどんな影響が出るのかを公的に調べるよう要請しました。
その後、NBCはガンに罹患した元サッカー選手(女性)のインタビューを放送。
彼女は練習や試合の際、耳や鼻からゴム屑と思われる極小の黒い物質を吸い込んでいたと証言しました。
この放送は、市の芝を人工芝に変えるかどうかに関する市民投票が、近々行われる予定だったニュージャージー州グレンロック市の選挙に影響を与えました。
実は、昨年3月に放送された全国ネットの長寿報道番組『USA Today』は、何千校もの運動場や、託児所などにある人工芝は、子どもたちの健康に与えるリスクが十分に高いことが報告されていると報道。
にも関わらず、2つの連邦政府関連団体が「人工芝は安全」という方向で議論を進めようとしました。
ゴム屑でできた層を含む人工芝は全米に拡がっており、これがアスリートに傷を作りやすく、皮膚感染を起こしやすく、ガンに罹患しやすくさせていることは確かにせよ、現在全米にある11,000箇所の人工芝グラウンドの芝をすべて取り替えるとなると100万ドル以上かかってしまいます。
それから約1年経過した現在、USA Todayは「NBCのシリーズ報道により、人工芝のゴム屑の安全性に関する議論が国中で白熱しているにも関わらず、それを規制しなければならないはずの連邦機関側が沈黙している」と批判。
今月初旬、合衆国環境保護庁(Environmental Protection Agency)のスポークスマンは会見の場で、「国中にある子どもが遊ぶ人工芝は本当に安全なのか」という記者の質問を無視しました。
NBCの取材に対し、米国下院エネルギーおよび商業対策委員会(House Energy and Commerce Committee)は環境保護庁官に対し、現在安全性回答に向けて調査中であると通知。返答期限は昨年11月6日でしたが、未回答でした。
明らかに現在、政府は人工芝の安全性リスクを重大視しています。
ロイター通信によりますと、少量の古タイヤを原材料に使っている運動場や競技場は子供たちを危険物質に曝しているのではないかとして、近く3つの政府機関による連携調査が行われます。
その政府機関とは環境保護庁、消費者製品安全委員会(Consumer Product Safety Commission)、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)で、間もなく「人工芝のリスク評価」が明らかにされるものと思われます。
日本の芝はどうなっている?
ちなみに、野球では、日本の多くの球場では人工芝を使用するのがほとんどになったそうです。
アメリカでは野球は土のグラウンドが主流のようで、メジャーに移籍した日本人選手はまずその感触の違いに最初は苦しむようですね。
そんな事より、彼らの健康は大丈夫なのでしょうか。
また、日本サッカー協会(JFA)は、あくまで”Players First!”の視点に立った良質なプレー環境の供給のため、天然芝ピッチを補完する目的においてのみ人工芝ピッチの導入を容認するという立場から、2003 年に人工芝ピッチの確保とレベルの維持を目的とした「JFA ロングパイル人工芝公認規程」を制定。
ロングパイルは、クッション性に優れており天然芝に近いとされていますが、成分まではわかりません。
JFAでは、ラボテスト(製品検査)と、フィールドテスト(現地検査)を実施していますが、これはボールの垂直反発高さや転がり距離、耐久性などを検査するもので、人工芝の危険性そものものを検証するテストではないようです。
「子どもたちが安全に遊べるよう、庭を人工芝に…」と思われているご家族も多いと思いますが、危険性は高いようですね(5:05)
【参照】
- Government Finally To Look Into Possible Link Between Artificial Turf And Cancer-forbes.com
- NBC News Looks Into Possible Link Between Artificial Turf And Cancer-forbes.com
- How Safe Is the Artificial Turf Your Child Plays On?-nbcnews.com
- JFA ロングパイル人工芝ピッチ公認 ガイドブック(PDF/875KB)
- JFA ロングパイル人工芝ピッチ公認 検査実施マニュアル(PDF/1,33MB)
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