こんにちはピーター・メロスです。
早いもので、今年も既に1割強が終わってしまいました。学生の皆さんは就職活動が佳境を迎えている頃でしょうか。
僕はネクタイの結い方を覚えられなかったので学生時代に就職活動をすることが出来ませんでした。その結果として今の僕は、「ゲスの極み社長」こと、ティンカー・ゲスのもとでゲスい記事を書かされている日々です。なので皆さんネクタイぐらいは結べるようになっておきましょうね。
時は2012年。リーマンショックに端を発する未曾有の就職難が続いていて「就職氷河期」とか「超氷河期」とか呼ばれていた時代。そこに近藤佑子さんというひとりの就活生が居ました。
当時、就職活動が思うように進んでいなかった彼女は、何を思ったのか、「近藤さんが、企業からの求人にて、エントリーする、一般的な就活の方法」に見切りをつけ、「企業の側から、近藤さんに対して、エントリーしてもらう、いうなれば『逆採用』のやり方」で就職を目指す、といったやり方に舵を切りました。
その際に彼女が、「自己PR兼、企業から近藤さんへのエントリーフォーム」として制作した「メチャクチャにやばい就活生・近藤佑子を採用しませんか」というWEBサイトはネット上で大きな話題になり、彼女は一躍時のひとに。
そんな近藤さんについて先日。我らが社長ティンカー・ゲスはこう話していました。
「そういえば昔、近藤佑子って居たじゃん? あのひと今どうしてるんだろうな。就活っていうのは100社でも200社でもエントリーして手書きの履歴書を書いて圧迫面接にも耐えてっていうのが当たり前だし、みんなもそうやってるんだからさ。あんなサイト作ってどうにかなるなんて思ってた奴はきっと今頃、刺し身の上にタンポポを乗せるだけの仕事でもしているに違いないと思うよ。なんかゲスい記事になりそうな気がするからお前ちょっと取材行ってこいよ。書けなかったらクビね」
そんな相変わらずのパワハラじみた業務命令を受け、近藤佑子さんに取材を申し込んだところ、受けてもらえることに。当日は近藤さんからの提案があり、新宿の居酒屋でお酒を飲みながらのインタビューということになりました。かつての「メチャクチャにヤバイ就活生」は四年の歳月を経て、一体どんな日々を過ごしているのでしょうか…。
「わたし結構出来るのになぁ」という思いがあった
メロス:近藤さんは今なにをやってるひとですか?
近藤 :WEBメディアの編集者をやってますよ。
メロス:あら。じゃあ僕と似たような感じなんですかね。
近藤 :そうですね。わたしの方はエンジニア向けに特化したものなんだけれど、似てますね。入社してから2年目になります。
メロス:近藤さんはちょっと変わった就職活動をしていたひとだと聞きました。
近藤 :もうずいぶん昔のことですよ。自分が就活するためのPRサイトを作って「逆就活」のようなことをやっていたんです。普通の就活っていうのは学生の側が企業に対してエントリーするんだけど、そうではなく、企業の側からわたしに対してエントリーしてもらう、という感じで。やりはじめたのは2012年の5月。4年前ですね。
メロス:NAVERまとめにも載っていましたね。
近藤 :サイトを作る前は、今思えばすごく適当な感じで就活してたんですよ。リクルートスーツだって着たり着なかったりって感じで。そんなんでも、京大を出て、東大の院に行って、学歴はあったし、どっかで決まるだろうなと思っていたんだけど、結局決まらなくて。「わたし結構出来るのになぁ」という思いがあったんです。だから「自分にはこういうことが出来る」ということを具体的に示したくて、ああいうサイトを作った。
メロス:そのサイトを通じて今の会社に?
近藤 :それがそうではなくて。ただ今の会社は、あのサイトをある程度は評価してくれたというか、面白がってくれたから決まった。というのはあるんですけど。
メロス:結果的にサイトを作った効果はあったんですね。
近藤 :今でも結構、当時のことでわたしを知ってるという方は多いですね。ただあのサイト自体が、今はサーバーのトラブルか何かで閲覧できない状態になってしまっているから、直さなきゃなぁ。
メロス:ぜひ見てみたいです。スクリーンショットはネット上に残っていたんですけど、それでも全部は読めなかったので。(※取材後、近藤さんの方で修正して、閲覧出来る状態になったそうです)
近藤 :だけど今はもう「あの時のわたしはなんだったんだ」ってぐらい、本当に過去のことに感じる。だから今日も「当時こう思っていたよ」という話をすることは、まぁ、出来るんですけど、じゃあ、それで何? っていう感じでもあります。それくらい過去のことになってしまいました。なんだろうなぁ。会社員として2年目になったんですけど、正直なところ、今、わたしのコンディションってあんまり良くなくって。今までは学生時代なり、就活サイトを作ったことによる貯金みたいなものがあったんだけど、それがなくなってしまいつつあるな、と。どうしよう。
仕事に対する性欲のような衝動が失われてしまった
近藤 :仕事に対して。性欲が失われたひとみたいになってる。衝動が起きないんです。なにかちょっとのキッカケがあれば打開できそうな感じではあるんですけどね。キーパーソンと話をしてみるとか、頭の中がクリアになるような経験を経てみるとかして、「こうしたい」と思うようなことが生まれればワァーってやれるのに。そういうのが来ない。困った。困った。
メロス:性欲が失われたような状態っていう喩えはなんとなく分かります。衝動が起きないけど、衝動を起こさなければいけない、みたいな焦りが生まれちゃうんですよね。
近藤 :なんかね。そう「うしじまいい肉にっこり人生相談」って知ってます?
メロス:知らないです。
近藤 :うしじまいい肉さんは知ってる?
メロス:知ってます。コスプレとかのひとですよね。
近藤 :そうそう。そのうしじまさんが、ニコ生かなんかで色んなひとの相談に乗ってるんですけど、その中で「性欲がありすぎて困っている」という相談をしていたひとが居て。それに対してうしじまさんは「私は逆に性欲が湧かなくて辛いんだよ!」ということを言っていたんですよ。今の自分は仕事に対してそれに近い気持ちで居るなと思う。別にやる気がないわけではない。仕事を頑張りたい。だけど衝動が起こらなくて辛い。お金を使ってでも解決したいぐらいに思っている。だからといって何万もするセミナーに行くのもアホらしいんですけど。
メロス:過去に衝動があったのはどういう時期でした?
近藤 :いちばん強く衝動があったのは就活のサイトを作っていた頃。2012年の春に、当時エントリーしていた企業すべてから不採用をもらって、その時点で新しい就活の弾を仕込まなきゃいけないって状況になってしまったんですけど、でも普通に就活を続けるより、サイトを作る方が楽しいなと思って。その可能性に掛けて、ウオ~ってなってましたね。
メロス:それから衝動がなくなってしまったのは?
近藤 :入社して1年目の頃はまだ衝動が残っていたんですけどね。「社二病」って言葉があるんですよ。会社員2年目病。会社員2年目に患ってしまう病。社会人生活にもなんとなく慣れてきて、「また残業で辛いわ~」とか、社会なり会社なりを分かったつもりになって、世の中に対して痛々しいことを言いたくなってしまう、という病があるらしくて。そのせいなのかは分かんないんですけど、去年の今頃にはまだ感じていた「こんなことをやってやる!」とか「こんなことをやったら面白そう!」みたいなものが、なくなってしまった。4月に入社した後輩が先日、会社のブログで一冊の本を紹介して「いつかこういうものを作りたい」みたいな熱い思いを口にしていたんですよ。それを聞いて、ああ、今わたしそういうのなくてどうしよう、ということに気づいてしまった。
メロス:衝動があった頃と、衝動がない今とで、具体的に何が違いますか?
近藤 :仕事でいうなら、まだ衝動が残っていた去年の今頃は、結構夜の遅い時間まで会社に残って働いてましたね。時間だけじゃなくて、社内で仲の良い方に熱い思い語っていたりとか。自分の中に「何者かになりたい」という想いがずっとあって、それについては入社当時から今に至るまで変わってないんですけど、現実を見ればもう2年目なのに何も成せていない自分が居る。「何者かになりたい」という想いだけが宙に浮いてしまっている。何も出来ていない。酷いな。口に出してみると。
メロス:僕は小さい頃に水泳習ってたんですけど。25メートルがなかなか泳げなかったんですよ。25メートルって、地上で見る分にはすごく短くて、簡単に思えるのに、実際に泳ぎ出してみるとすごく長く感じて、全然前に進めないまま沈んでいってしまって「ああ自分はこんなに出来ないんだ」って無力感に苛まれたりしました。
近藤 :まぁ。それはそうだね。少なくとも1年前のわたしは今みたいなことを考えてはいなかったので、ある意味では成長したのかなとは思います。とはいえ。うん。どうしようね。なんか面白いこと考えなければと思う。
かつての「メチャクチャにヤバイ就活生」近藤佑子さん。就活を終えて企業に務めるようになった彼女は、今、壁にぶつかっていました。けれど近藤さんが件のWEBサイトを作ったのも、就職活動で行き詰まっていた時期。彼女が「メチャクチャにやばい会社員」として再び世間を驚かせる日も遠くはない……かもしれない。
今度また飲みに行きましょう。取材を終えた後、そう約束をして、新宿を後にしました。