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宇宙の謎に迫る衛星 きょう打ち上げ
2月17日 6時13分

宇宙の謎に迫る衛星 きょう打ち上げ
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ブラックホールなど宇宙の謎に迫る日本の新しい天体観測衛星、「アストロH」が17日午後、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケット30号機で打ち上げられます。
新しい天体観測衛星「アストロH」を載せたH2Aロケットの30号機は、17日午前5時すぎに種子島宇宙センターの組立棟から姿を現し、およそ500メートル離れた発射場に移されました。
「アストロH」は、宇宙の天文台とも言えるもので、地球上では大気に吸収されて観測できない「エックス線」を捉えることができ、その感度はこれまでの衛星より最大で100倍高くなっています。
宇宙から届くエックス線を捉えることで、光では直接の観測が難しいブラックホール周辺の状況などを調べることができ、宇宙の謎の解明につながると期待されています。
「アストロH」を載せたH2Aロケットの30号機は、午前9時ごろから燃料の注入が始まり、最終的な準備が進められることになっています。
打ち上げを行う三菱重工業によりますと、17日夕方の発射場周辺の天候は曇りと予想され、今のところ打ち上げに影響はない見込みだということです。「アストロH」を載せたH2Aロケットの30号機は、機体や天候に問題がないと判断されれば、17日午後5時45分に打ち上げられ、地球の上空およそ575キロを回る軌道に投入される予定です。

打ち上げ延期でも待ち続ける人たち

今回の「アストロH」は、当初今月12日に打ち上げが予定されていましたが、あいにくの天気で5日間、延期されました。
発射場からおよそ7キロの鹿児島県南種子町の高台にある公園には複数のテントが並び、その瞬間を待ち続けている人たちがいます。
このうち埼玉県から自転車で訪れた32歳の男性は、今月10日から種子島に滞在していて「きょうまでに6泊しています。どうしても打ち上げが見たいので、もし、さらに延期されたとしても一目見てから帰ります。無事に打ち上がってほしいです」と話していました。

エックス線望遠鏡 精度高めた技術

アストロHはブラックホールから届くエックス線を高性能の望遠鏡で観測します。通常の望遠鏡の鏡では、うまく反射せず観測できないエックス線を効率よく反射する特殊な鏡が使われています。
開発したのは名古屋大学現象解析研究センターの松本浩典准教授の研究グループです。直径45センチの望遠鏡の内側は薄いアルミニウムの筒を200層ほど、バウムクーヘンのように重ねた構造をしています。すべての層の内側に白金と炭素を交互に重ねた膜がはられています。
最も薄いところで1万分の1ミリほどというこの膜が鏡の役割を果たし、反射したエックス線が一点に集まる仕組みです。膜の表面が滑らかなほど、エックス線は効率よく反射し、画像は鮮明になります。
そこで研究グループは、表面が滑らかなガラスを使い、鏡を作る方法を考えました。筒の形をしたガラスをたくさん用意して、その中から特に表面が滑らかなものを選びます。これを大型のオーブンのような装置に入れ、白金や炭素を僅かに含んだ風を交互に吹きつけて表面に薄い膜を作ります。そこに接着剤を塗ったアルミニウムの板をはり付けて剥がすと、膜がシールのように写し取られ、板の表面が滑らかな膜で覆われます。
研究グループでは、およそ30年前からエックス線を効率よく反射する素材や薄い膜をつくる技術の研究に取り組んでいて、歴代、積み重ねてきた研究の成果がこの望遠鏡を完成させたということです。
松本准教授は、「リレーに例えると、私は最後のところでバトンをもらって駆け込んだみたいなもので、こつこつ続けてきた基礎研究が受け継がれてようやく形になった。この望遠鏡で、銀河の中心にある非常に巨大なブラックホールが出すエックス線を調べ、宇宙の中でまだよく分かっていないブラックホールの解明につなげてほしい」と話していました。

専門家「ブラックホールの成り立ち分かる可能性」

ブラックホールの研究に詳しい理化学研究所の牧島一夫研究顧問は新しい天体観測衛星「アストロH」について、「名古屋大学が、世界のどこにもないような精度のよい観測装置を開発してくれたので、新しい成果が出るのではないかと期待している」と話し、性能を高く評価しています。
そのうえで「さまざまな銀河の中心に太陽の100万倍もあるような巨大なブラックホールがあるとみられているが、どのようにしてできたか全く分かっていない。アストロHによる観測で、宇宙が生まれてまもない時期のブラックホールがどのように育っていたのか分かると、不思議なブラックホールの成り立ちが、これまでよりもはるかに詳しく分かる可能性がある」と話しています。

ブラックホールの解明 どう進む

ブラックホールは重力が極めて強い天体で、周辺にあるあらゆる物質を引き寄せ、光をも閉じ込めると考えられています。
ブラックホールそのものは、これまで直接観測されたことがありませんでしたが、アメリカを中心とした国際研究チームが今月11日、2つのブラックホールが合体するときに出た「重力波」を去年9月に観測したことを明らかにし、これが直接観測した初めての例となりました。
一方、ブラックホールの周辺の様子は電波望遠鏡などの観測から少しずつ明らかになってきています。
ブラックホールの周辺には、高温のガスが円盤状にうずをまくように存在し、中心に向かって引き寄せられていると考えられています。
さらに、上下の方向に「ジェット」と呼ばれる高温のガスが噴きだしているとみられています。
ただ、いったいどのような仕組みで誕生するのか、詳しくは分かっていないほか、極めて強い重力を持ちながら、なぜ高温のガスを噴き出すのかも分かっていません。
今回、打ち上げられる新しい天体観測衛星「アストロH」はブラックホールの周辺にある物質から届く僅かなエックス線をこれまでの衛星より最大で100倍高い感度で捉えることができ、高温のガスに含まれる物質の種類を特定することができるということです。
また、その物質が、どの方向にどのくらいのスピードで進んでいるかも分かるということです。
JAXA=宇宙航空研究開発機構は、「アストロH」による観測でブラックホールの周辺で何が起きているのか、メカニズムの解明につながる成果が期待できるとしています。
さらに、ブラックホールは、最近の研究で私たちの太陽系がある「天の川銀河」を含めて、多くの銀河の中心に存在しているとみられることが分かり、宇宙の銀河を形づくるうえで欠かせない存在になっている可能性も指摘されています。
このためJAXAは「アストロH」によってブラックホールの成り立ちについて手がかりが得られれば、銀河や宇宙の成り立ちにも迫ることができる可能性があるとしています。

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