現在、どこのニュースでも大騒ぎだ。
介護施設で3人の高齢者を4階~6階から落として、命を奪った「今井隼人」というクリーチャーに対する報道で。
被害者の方々が味わった恐怖、いかほどのものだったか…想像することなんてできない。
犯行を自供した以上、後の問題は「動機」だが、そこについては警察さんも難儀するんじゃないかな。
侵害された法益が大きければ、それだけ刑法39条(責任無能力)への対応が慎重にならざるを得ず、捜査側としては、どのような抗弁もできない程度に完璧な「動機」を固めることによって、このクリーチャーの責任能力を「揺るぎないもの」しようとするからだ。
それにしても、このクリーチャー、何を考えているのか全く想像できない。
介護業界のあり方については評論家の先生に任せるとして、どうしてこのような異常な犯罪が発生したのか…
どうにも、想像の範疇外だ…
さすがにこれは、怒り以外に形容する言葉、俺は持たない…
前回の続きを書く。
子羊4匹、肩寄せ合って過ごす日々も間もなく終わりを告げる。
明日から、通常モードの生活が始まるからだ。
飯場の管理人(食堂のおばちゃん)が戻ってきた。
各部屋の鍵を開ける。
「楽しかったです。みんな、ありがとうございました」と別れを告げ、自分の荷物を持って俺は、自分の部屋に戻った。
他のメンバーもばらばらになった。
「行く宛が無い」だけを共通項にした集合体、あっさりと解散だ。
今でも時々思い出す。あの3人は、そしてあの飯場のヒト達は、元気でやっているだろうか…
翌日からは普通に仕事が始まった。
久しぶりの飯、味噌汁、漬物の黄金セット、これはこれで美味いと思った。
新年早々の仕事は「佐藤さん」とペア、「ラッキー」とガッツポーズ。
オフィスビルの設備工事、いつもの小規模な現場だ。
いつも佐藤さんは「スキマ」みたいな小規模現場を担当し、着実に工期以内に終わらせる。
元請の評価も高い。佐藤さんが担当したスキマ仕事から、大きな工事へと発注されることが多く、ある意味、佐藤さんがこの会社の工事現場を開拓しているかのようだった。
性格も良いし、優しいし、偉ぶらないし、適度にかったるそうにしながらも、仕事だけはきっちりこなす。
弱点なのはイケメンじゃないこと位だけど(笑)、モデルじゃないんだから、仕事には関係ない。こんな上司の下で働きたい、そう思わせるようなヒトだった。
そんな佐藤さんとのペアの仕事が暫く続いた。
ある日の昼休み、佐藤さんが、珍しく深刻な顔をして、
「ゆう、ちょっといいか?」
と声を掛けてきた。
彼のただならぬ雰囲気に思わず身構えながら答えた。
「…いいっすよ」
気持ちを鎮めるため、タバコをくわえた。