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北朝鮮「水爆実験」 国際包囲網の再構築を

 北朝鮮による核危機が再び引き起こされた。北東アジアの安全保障環境を揺さぶる重大な事態である。

     北朝鮮は政府声明を通じて「初の水爆実験」が成功したと発表した。2006年以降、4回目の核実験だ。水爆だったかどうかは今後の分析を待つ必要がある。水爆だとすれば、破壊力が原爆の数百倍とされるだけに、脅威の水準は今までより格段に上がる。

     さらに北朝鮮は今回、中国に実験の事前通告をしなかった。過去になかったことだ。これまでは米国や韓国との対立状況の中で交渉力を強めるために挑発行為に及ぶというパターンがあったが、今回はそうした点からも唐突な印象が否めない。

    孤立深める無謀な行動

     11年末に死去した金正日(キムジョンイル)総書記の指導下にあった北朝鮮は、日米とは相いれない論理ではあっても一定の合理性を見せていた。それが金正恩(キムジョンウン)第1書記体制になってからは、予測が難しくなっている。

     北朝鮮のような閉鎖国家の行動が不確実性を増すことは、周辺国にとって大きな不安要因だ。とりわけ後ろ盾である中国への配慮すら欠いたことに留意しなければならない。

     金第1書記は先月、「水素爆弾の爆音を響かせることができる強大な核保有国になれた」と語っていた。5月に開く36年ぶりの朝鮮労働党大会を前に、新時代を切り開く強い指導者のイメージを作ろうと「水爆実験の成功」を国民に誇示したいのだろう。

     まったく見当違いの考えである。

     金第1書記は度重なる粛清などで権力基盤を強めてきた。一方で韓国銀行の推計によると、北朝鮮経済は一昨年まで4年連続のプラス成長を記録している。

     だが、国際社会から孤立したままでは経済成長にも限界がある。無謀な行動は結局、自らを苦しめることにしかならないと自覚すべきだ。

     北朝鮮は経済的苦境の中でも核・ミサイル開発には集中的に投資してきた。その結果が4回にわたる核実験であり、日本全土を射程に収める「ノドン」ミサイルの大量配備という現実だ。

     米本土への打撃をうかがう大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発も着実に進み、昨年には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験まで行われている。

     今回の実験が水爆でなかったとしても、金第1書記の発言を考えれば水爆開発を進めていることは確実だろう。北朝鮮の核兵器は、ほぼ3年おきに繰り返されてきた核実験のたびに能力を向上させてきた。脅威の水準は高まっている。

     北朝鮮の技術では不可能と思われていたことが、次々と現実になっているようだ。金正恩体制の北朝鮮は、核開発と経済建設を同時に追求すると宣言している。北朝鮮の能力への警戒を怠ってはならない。

     09年に発足した米国のオバマ政権では、北朝鮮が行動を改めるまで動かない「戦略的忍耐」などという受け身の姿勢が目立った。代わりに海洋進出を強める中国への対応が優先され、日本を含め、安全保障政策では中国に関心が集中しすぎて北朝鮮への警戒がおろそかになった面は否定しがたい。

    6カ国協議の再開探れ

     安倍晋三首相は「わが国の安全に対する重大な脅威であり、断じて容認できない」と非難した。日本は今月から国連安全保障理事会の非常任理事国になっている。国際社会の厳しい声を速やかに出せるよう各国との調整を急がねばならない。

     日本にとってはさらに日米韓3カ国の連携を強化することが重要だ。日韓関係にほころびが目立っていたが、昨年末の慰安婦問題に関する合意を契機に改善の糸口が見えてきた。この流れを3カ国連携の再確認につなげたい。

     その上で、中国の積極的関与を引き出さねばならない。中国は北朝鮮の体制崩壊を望んでいないが、核開発には明確に反対している。北朝鮮の核開発を阻止するという点では日米韓と一致できるはずだ。

     国際社会による制裁措置の実効性を担保するためにも中国の役割は大きい。

     北朝鮮の核問題に関する安全保障メカニズムである6カ国協議を再び活性化させることを考えるべきだろう。07年を最後に本会合が開かれていないが、議長国である中国に責任を果たしてもらうためにも有効な枠組みである。

     日米両国は、北朝鮮が核放棄へ向けた「意味のある措置」を取ることを協議再開の前提条件としている。北朝鮮は05年の協議で「すべての核兵器と既存の核計画の放棄」を約束しており、その後の行動を不問に付すことはできないからだ。

     その約束を守らせるためにも協議再開の道を探るべきではないか。北東アジアの利害関係国すべてが参加する6カ国協議以外で解決の道を見いだすことは難しい。

     北朝鮮による核開発を封じ込めることなしに北東アジアの平和と安全は実現しない。日本は、米韓両国との連携を改めて固めたうえで、中露などと協力して国際包囲網の再構築を図るべきである。

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