【ベルリン=赤川省吾】ポーランドやスロバキアなど中・東欧6カ国は欧州連合(EU)に難民政策の見直しを求めていく。15日の首脳会議で一致した。徹底的な取り締まりで難民を減らすことを提唱。その効果がない場合は中・東欧が国境を完全閉鎖し、「バルカンルート」と呼ばれる難民の流入経路を断ち切ると実質的に通告した。寛容な政策を掲げるドイツの孤立感は深まる。EUは18日開幕の加盟国全体による首脳会議から3月にかけ、難民政策を集中的に協議していく構えだ。
「難民の流れを止めないといけない」(ハンガリーのオルバン首相)
「意味のない難民引き受けは拒否する」(スロバキアのフィツォ首相)
チェコの首都プラハで開いた会談後の記者会見で、6カ国(EU未加盟のマケドニア含む)の首脳から漏れたのはEUの難民政策への不満だった。
EUは不法な経済移民は認めないものの、シリアなど戦火を逃れてきた難民は受け入れ、それを域内各国で均等に分担する構想を掲げてきた。それをフィツォ氏は拒む姿勢を見せた。「我々はプランB(EU構想の代替案)を話し合った」
2015年はドイツだけで100万人を超える難民が流れ込んだ。多くはトルコから海路でギリシャに渡り、そこから中・東欧諸国を通る「バルカンルート」で北部欧州に向かう。中・東欧は、その流入ルートの遮断を通告したに等しい。
難民抑制に奔走する中・東欧各国は外交攻勢にも余念がない。
ポーランドのシドゥウォ首相は12日にドイツを訪れ、メルケル独首相と会談。難民の分担は「受け入れられない」と伝えた。同日、チェコのゼマン大統領は隣国スロバキアで開かれた左派系集会に出席し、「EUは難民引き受けを押しつけるな」と気勢をあげた。
中・東欧が強硬姿勢を演じる背景には、各国の政治事情がある。スロバキアでは3月に議会選がある。票を集めたい目先の内向き志向がフィツォ首相を「反難民」のパフォーマンスに走らせる。
そんな身勝手さをEUやドイツは批判するが、「いまのポーランドの政権はドイツが欧州を主導することに懐疑的」(ポーランドの著名政治学者アントーニ・ドゥデック氏)。強いドイツや強大なEUに屈しない姿勢を有権者に見せることで国内で求心力を高めるのも中・東欧諸国の狙いだ。
中・東欧諸国にも温度差はある。「バルカンルート」の途中に位置するセルビアは15日の首脳会議への参加を見送った。まだEUに加盟していない同国は、EUに盾突けば加盟交渉で不利になると考えたフシがある。
ポーランドなど6カ国だけで本当にバルカンルートを封鎖できるのかどうかは微妙だ。国境閉鎖という実力行使に踏み切ればモノやヒトの移動がさらに滞る。欧州統合に逆行するだけでなく、経済的な損失も大きい。
政治的なメッセージの色彩が強いが、中・東欧の中核となる国がEUの難民政策に公然と反旗を翻した影響は大きい。
西欧のEU加盟国では英国のほかフランスも追加引き受けに慎重な立場に転じた。「受け入れ派」のドイツは域内で一段と孤立、メルケル氏は国内外で逆風にさらされる。ドイツの政局が不安定になる「政治リスク」がじわじわと台頭してきた。
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