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【真田丸】題材にこめられた「今の視聴者のニーズ」とは 制作統括・屋敷陽太郎氏が語る

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SANADA
時事通信社
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今の視聴者のニーズを意識した『真田丸』の制作

初回から好調な視聴率でスタートした16年のNHK大河ドラマ『真田丸』。戦国時代最後の武将・真田幸村(信繁)の生涯をその家族と共に描く。この題材に決めた理由を、「今の視聴者のニーズに合うのではないかと考えた」と、制作統括の屋敷陽太郎氏は語る。

■始めから英雄だったわけではない人物の歩みこそ今の時代に求められている

1月10日よりスタートしたNHK大河ドラマ『真田丸』。大河ドラマ第55作目となる今回は、三谷幸喜脚本で、戦国時代最後の戦い・大坂夏の陣で名を上げた真田幸村(信繁)の生涯を描く。

なぜ今、この題材だったのか。企画立案の経緯を制作統括の屋敷陽太郎氏はこう語る。

「僕は三谷さんと04年の大河ドラマ『新選組!』でご一緒したのですが、そのときのメンバーで、「もう1回大河ドラマを一緒に作りたいよね」と話したのがきっかけです。また「戦国時代でやるなら真田幸村がいいね」という話になり、三谷さんは従来から信繁を描きたいとおっしゃっていた。僕たちも、夏の陣で戦死する信繁の物語は、最終回に一番クライマックスがあるので、ドラマとしていいなと思いました」

真田幸村といえば、小説や漫画、ドラマ、ゲームでヒットを飛ばした『真田十勇士』をはじめ、近年は、ゲームを皮切りに、アニメや舞台、ドラマ、映画、漫画にもなり、歴女ブームのきっかけになったとも言われるアクションゲーム『戦国BASARA』シリーズの主人公としても人気のヒーロー。だが、実際は、亡くなる前の1年間以外、ほとんど表舞台に出ることなく過ごした人物で、大河でも主人公になるのは初めて。しかし、始めから英雄だったわけではない人物の、最期に至るまでの歩みこそが、「今の時代には求められている気がした」と屋敷氏は語る。

「昔の高度経済成長期のような、皆が右肩上がりの時代だったら、俺も信長みたいに、あるいは秀吉みたいにと思えたかもしれませんが、今の時代、天下を取りたいと思っている人はそんなにいないでしょう。それよりはまさに信繁的な、自分の与えられたポジションをいかにきちんと務めるかに重きを置いている方のほうが多いと思うので、信繁の人生を家族の視点を入れながら描いていくことが、今の視聴者のニーズに合うのではないかと考えました」

大河において、題材決定のもっとも大きな要素となるのは、「描く時代や主人公を通じて何かを伝えたいという制作者の思いより、視聴者はこういうものを求めているという時代の雰囲気」と屋敷氏は考える。近年、大河の主役に女性や天下を取っていない人物が増えてきたのも、それを求める時代の雰囲気があってこそと分析する。

■人気戦国ゲーム技術提供のマップなど若手のアイデアを起用した新たな試み

大河では、『龍馬伝』(10年)で初めてプログレッシブカメラを採用するなど新たな試みを行うことも多いが、今回、特筆すべきは3Dマップの採用。13年発売の歴史シミュレーションゲーム『信長の野望・創造』を手がけたコーエーテクモゲームスの技術提供を受け、同シリーズをプロデュースするシブサワ・コウ氏の監修により劇中の戦況説明などに活用している。

「若い方にも大河を観ていただきたいという気持ちを常に強く持っています。ですが、若い方の中には長州や薩摩がどこかを知らない人も多い。そのうえ今回の舞台となる信州、上州となると本当に難しいと思います。ですから、少しでもわかりやすくするために採用しました。うちのチームの若いスタッフからのアイデアです。僕はゲームを知らないし、僕にはまず思いつかない技術でした(笑)」

さらに、今回もう1つ若い世代のスタッフのアイデアにより初挑戦した企画がある。『ダメ田十勇士』というオリジナル・ショートムービーの配信だ。

「本編とはまったく関係のない内容なのですが、歴史ファンではない若者や、そもそも真田って何?という人たちに、まず真田のイメージをつかんでほしいという思いから、東京五輪招致PR映像などを手がけていらっしゃるCM界の奇才の江口カン氏に企画・脚本・監督をお願いして制作しました」

同作は1月10日時点のYAHOO!映像トピックスで41万アクセスを超え、話題作りに大いに役立った。ちなみに『真田丸』は、年末の『第66回紅白歌合戦』よりも早く、NHK初のInstagramをプロモーションに活用している。 

■大河ドラマのすごさ50話を作る醍醐味と覚悟

初回視聴率は19.9%、第2回は大河ドラマでは3年ぶりの20%超えと順調な船出となった『真田丸』だが、屋敷氏は「大河は怖いことばかり」と苦笑いする。

「昨年僕は土曜ドラマ『64(ロクヨン)』を手がけまして、おかげさまで「文化庁芸術祭 テレビ・ドラマ部門大賞」をいただくことができたのですが、それでも土曜ドラマではどんなに頑張ってもそこまで大きな話題になりません。でも、大河だと良いことも悪いこともすぐネタになる。このブランド力はすごいです。ありがたいことでもあり、怖いことでもあると思っています」

そんな大河ドラマでプロデューサーを務める醍醐味とは。

「1つは50回制作できるということです。でも、50回も1人の人間について描くというのはすごく大きなことで、覚悟も必要になります。また視聴者の中には、観始めると1年間観なければならず、そこがハードルだという方もいます。視聴者のその思いも、作る側にとっては覚悟になりますね。また、舞台となる地の自治体の職員やボランティアの方々が情報収集をはじめさまざまなことに協力してくださり、一緒に作ることができる楽しさも醍醐味の1つです。地元の皆さんの顔を思い浮かべながら作ることができるのは大河ならでは。物語の舞台となる場所にはできるだけ恩返ししたいとも思っています。関連番組等でゆかりの地をご紹介したりしていますが、今後も地元の活性化のお役に立ちたいと思っています」

最後に、1年間航海を続ける『真田丸』に懸ける思いを聞いた。

「新しいことに挑戦はしながらも、やはり一番は王道のドラマを45分間、ハラハラドキドキ観てもらい、翌週の放送を楽しみにしていただけることですので、ただただ、面白いドラマを作らなければと思っています。今はそこに99.9%の力を注いでいます」

(文/河上いつ子)

■プロフィール/NHK大河ドラマ『真田丸』制作統括 屋敷陽太郎氏(NHK制作局 第2制作センター ドラマ番組部 チーフ・プロデューサー)
1970年、富山県生まれ。93年NHKに入局し、ドラマ番組部に配属。00年から1年間、米・ロサンゼルスで映画制作実務を学ぶ。連続テレビ小説『私の青空』、『クライマーズ・ハイ』、大河ドラマ『新選組!』『篤姫』等を担当。制作統括としては土曜ドラマ『島の先生』(13年)、大河ドラマ『江~姫たちの戦国』(11年)、ドラマ10『ガラスの家』(13年)などを手がけた。15年、土曜ドラマ『64(ロクヨン)』で「平成27年度(第70回)文化庁芸術祭 テレビ・ド
ラマ部門大賞」を受賞。

(コンフィデンス 16年2月1日号掲載)

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