方向見失う債券トレーダー、リセッション予測する指標にひずみ (1)
2016/02/16 13:04 JST
(ブルームバーグ):以前なら、米経済が苦境に向かっているかどうかを見極めるのは簡単だった。債券市場を見るだけで良かったからだ。だが、今はそうではない。
長年のゼロ金利政策で債券市場にひずみが生じているため、ウォール街の大手債券ディーラー各社はそれぞれ大きく異なる結論を導き出し、別の指標を考え出そうとしている。
過去半世紀の全てのリセッション(景気後退)を予測してきたバンク・オブ・アメリ(BOA)のモデルは、米国債の長短金利が既に逆転しているべきであることを示唆し、向こう1年にリセッション入りする確率を64%と試算。バークレイズやTDセキュリティーズも利回り曲線(イールドカーブ)への注目を取りやめている。バークレイズのモデルではリセッション入りのリスクは20%、TDによれば約50%と示されているという。
金融市場の混乱が深まり、中央銀行による世界経済支援への信頼が弱まる中、そのリスクはこれ以上ないほど高まっている。投資家にとって最大の懸念は、次のリセッション入り時に計器飛行も同然の状況に陥ることだ。数十年頼りにしてきたモデルへの疑念はますます強まっており、市場に動揺が広がり債券と株式、通貨、商品のボラティリティ(変動性)は悪化の一途をたどる恐れがある。
セージ・アドバイザリー・サービシズの共同創業者、マーク・マックイーン氏は「全く新しい領域に入った」と述べ、「過去の利回り曲線と現状を比較するのは危険だ」と指摘した。
通常なら、長期金利が短期金利を上回る状況は投資家が経済成長を見込むことを示唆し、その結果、物価上昇に伴う利子収入目減りリスクを補完する上乗せ金利が求められる。
しかし、この関係が逆転して逆イールドカーブと呼ばれる状況になると通常、経済収縮の恐れを示すサインと受け止められる。ブルームバーグの集計データによれば、1970年代以降の7回のリセッションの前に毎回この現象が発生。平均で利回り曲線の逆転から1年弱でリセッションが始まっている。
世界経済の減速兆候を受け、米10年債利回りは年初以降に約0.5ポイント低下し1.75%を付けているが、3カ月物Tビルをなお1.46ポイント上回る水準だ。これは過去50年の平均である約1.5ポイントに近く、米経済の状況に警鐘が鳴る水準をはるかに上回っている。
ただ、短期金利が人為的に低い水準に置かれているだけに、債券市場に広がる安心感は誤った感覚だと受け止める投資家やアナリストは増加している。大きな理由は米金融当局による長期にわたる金利押し下げに関係しており、3カ月物Tビルは2008年末以降、平均て0.1%未満にとどまっている。
利回り曲線の状況についてファースト・パシフィック・アドバイザーズのマネーマネジャー、トーマス・アテベリー氏は、「投資家が対応を迫られるリスクと複雑さを新たなレベルに押し上げた」と述べ、「経済活動とリスクのレベルを見る伝統的な方法に影響を及ぼした」と指摘した。
BOAのラスラン・ビクボフ氏はこうしたひずみを米オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)を使って修正。同氏のモデルによると、直近では長期金利が短期金利を0.3ポイント下回る水準にあり、リセッションが確かに差し迫っていることを示唆するという。
TDのグローバル金利戦略責任者、プリヤ・ミスラ氏は市場のインフレ見通しやフェデラルファンド(FF)金利、金融状況の指数を利用。現在から5年後のインフレ期待が過去最低を付けた上、年内の利下げ確率が利上げ確率を先週上回ったことを考えると、楽観できないと話す同氏は「金利市場や金融状況は総じてリセッションのシグナルを送っている」と語った。
原題:Bond Traders Led Astray by This Can’t-Miss Recession Predictor(抜粋)
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更新日時: 2016/02/16 13:04 JST