福島第一原発事故への対応で、担当閣僚である丸川環境相の発言が波紋を広げている。

 国が追加被曝(ひばく)線量の長期目標として示した年間1ミリシーベルトについて、7日の講演で「『反放射能派』と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だという人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で、何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」などと発言した。翌日の信濃毎日新聞が報じた。

 放射性物質の除染や、追加被曝の抑制などは、安倍内閣の最重要課題の一つである。

 原発事故からまもなく5年。除染だけでは長期目標の達成が難しい地域がまだ残り、住民の帰還が進まない現状がある。

 長期目標は、国際放射線防護委員会が原発事故から復旧する際の参考値とする「年1~20ミリシーベルト」の最も厳しい水準だ。1ミリシーベルトに決まった背景には、安全や安心を求める地元福島の要望もあった。

 一日も早い帰還を願う住民の思いと、長期目標をどう整合させるか。さまざまな複雑な要素を考慮して決められ、いまなお試行錯誤が続く難題である。

 丸川氏がそうした経緯を知らなかったとすれば、不勉強と言われても仕方がない。それとも、経緯を知ったうえで、決定当時の民主党政権をおとしめるための発言だったのか。

 さらに深刻なのは発言が報じられて以降の二転三転ぶりだ。

 国会質問や取材に「こういう言い回しをした記憶は持っていない」などと答え続け、一転して「言ったと思う」と認めたのは12日朝、発言を撤回したのはその日夕方になってからだ。

 本当に発言内容を忘れたのか。記憶がないと言っていれば、いずれ国民が忘れてくれると思ったのか。いずれにせよ、閣僚としての適格性が疑われる発言というほかない。

 丸川氏だけではない。安倍内閣の言動の「軽さ」を印象づける場面は他にもある。

 島尻沖縄北方相は記者会見で、北方領土の一部である歯舞(はぼまい)群島の「歯舞」を読めず、秘書官に問う場面があった。

 安倍首相も、自民党のインターネット番組で、2014年に北朝鮮が拉致被害者らの再調査を約束した「ストックホルム合意」を、中東和平の「オスロ合意」と間違えた。

 確かに、言い間違いや思い違いは誰にでもある。ただ、原発事故対応や北方領土、拉致問題はいずれも安倍内閣が重要課題に掲げるテーマだ。閣僚の資質とともに、内閣としての姿勢が問われかねない。