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 埋め立て・架橋計画の策定から33年。瀬戸内海の景勝地「鞆(とも)の浦」(広島県福山市)をめぐる「景観訴訟」が15日、終結した。歴史的な街並みとどう共存していくのか――。地元住民や自治体の模索は今後も続く。

■護岸施設整備になお警戒

 「計画がなくなったことを、喜ばずにはいられません」。15日午前10時から広島高裁で開かれた訴訟の進行協議(非公開)と口頭弁論(公開)が終わった後、原告団事務局長の松居秀子さん(65)は広島市内で開いた記者会見でうれしそうに語った。

 この日の進行協議では、高裁が昨春に示した「広島県は埋め立て免許の申請を取り下げる」「原告の住民側は訴えを取り下げる」という提案を双方が受け入れた。一方で、松居さんらは県側が示す県道拡幅や護岸施設設置といった代替案について言及。景観改変には全面的に賛同できないとの立場から「一難去ってまた一難。街の歴史を残すべく、運動を続けたい」と力を込めた。

 「利便性」か「景観の保護」か――。1983年に策定された開発計画をめぐり、意見は分かれた。「橋を架ければ、古い景観が残されていた街並みが失われる」。反対派が計画の撤回を求める運動を展開するなか、歴史的遺産の価値をどうみるかという議論が全国に拡大。景観は「住む人の利益」ととらえる考えも重視されるようになり、開発にあたっては自然や文化との調和を考慮する動きも広がった。

 2009年に一審・広島地裁判決が埋め立て計画の中止を求める原告勝訴の判決を言い渡した際、アニメ映画「崖の上のポニョ」の監督・宮崎駿(はやお)さんと喜びを分かち合った松居さんら原告団。今回の広島県の対応を評価しつつ、湾内の砂浜に護岸施設を整備する代替案については「防災に名を借りた新しい埋め立て計画だ」と警戒する。松居さんは「県の動向をしっかり見ていきたい」としている。