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 長野県軽井沢町でスキーツアーの大型バスが道路脇に転落し、乗客・乗員15人が死亡した事故から、15日で1カ月がたった。現場には花を手向けて、手を合わせる人が相次いで訪れた。事故を起こしたバスには、法政大教授で教育評論家の尾木直樹さんのゼミ生10人が乗車し、4人が亡くなった。この1カ月の思いを、尾木さんに聞いた。

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 1月15日の昼。「みんなが乗っている」と学生から電話がありました。

 まさか、と。1人が亡くなったと聞き、相当な衝撃を受けて現地に赴いた。さらにあと2人亡くなっているとわかった。情報が錯綜(さくそう)どころか、ない。どこの病院にだれがいるか、ツアー会社もわかっていなかった。電話をかけ続け、順番に訪れたが、初日は、昼も夜も曜日も全くわからなくなりました。

 3日後にさらに1人が亡くなって……。入院先の訪問、遺族のサポート。お通夜と告別式を駆け巡るように回り、肉体的にも精神的にも限界を超えていました。

 そんな中、一人のお父さんから弔辞を頼まれました。弔辞を書くのに、なぜゼミに入ってきたのか、書類をめくってみました。「子どもが大好き」「子どもの気持ちがわかる教師になりたい」。そんなことが書かれていた。彼はカナダに留学したりオランダに視察に行ったりしていて、ゼミの志望動機を体現しているんだとわかった。

 「将来ある子たちの夢が突然消された」とよく言われます。表現的にはその通りだが、それぞれの学生を振り返り、夢の内実を知った。素晴らしい人生を送っている4人がいきなり、活躍の場を広げようという時に命を奪われた。この1カ月、怒りはどんどん深くなっています。

 バス会社の問題が次々と明るみに出たが、国土交通省も法令違反を得意げに発表している場合ではないと思う。規制緩和で貸し切りバス会社が増えたのに、国の監査は追いつかない。いずれ必ず起きる事故だったと思うんです。だから、法政大では「事故」と誰も言わない。「事件」と言ってます。

 一番感じるのは、日本社会が命を大事にしなくなっているのではということ。ハンドル一つに40人の命が乗っているという責任感が感じられないバス会社。誰が乗っていたか満足に説明できないツアー会社。それらを見逃してきた行政。競争原理で他社より一歩でも先んじようとする社会になってきている今、命を大事にする、ゆとりを持つ、という原点に戻る必要があるのではないでしょうか。(泗水康信)