"あなたが好き。I said I love you in Japanese. Is it right?"
(日本語であなたが好きって言ったんだけど合ってる?)
"Yeah. That's right. But I think we need to break up"
(合ってるよ。けど、俺たちは別れる必要があると思うんだ。)
ハリーポッターみたいにプロムに行きたい
(ドラマ、ゴシップガールより)
アメリカの高校に通っていた僕は、ついに卒業をあと2ヶ月に控えていた。
アメリカの高校に転入して早3年。思い返せば色々な思いが込み上げてきた。
中2で渡米した時は、英語が全く話せなかった。
言いたいことを言えない、相手が何を言ってるかもわからない。
日本に居た時はグループの中心だったのに、そんな環境がもどかしくて、
肩を落として帰宅していた。
それが、段々英語を話せるようになって自信がついてきた。
初めて一人でスターバックスの注文ができて、
満面の笑みでストロベリーラテを受け取ったのを覚えている。
サッカー部に入ると、人種を問わず色んな友達ができた。
僕のくだらないジョークで笑ってくれて、こっちもウキウキしていた。
アメリカにきてとても辛かったけど、それ以上に日本では経験することができない強烈な経験をしたことが貴重だった。
そんな中で1つだけ僕はどうしてもやり残したことがあった。
それは、プロムにいくこと。
ハリウッド映画のハリーポッターや、テレビドラマなどでお馴染みかもしれないが、
プロムとはダンスパーティみたいなもの。
上の写真はゴシップガールから取ってきたもので、正にあんな感じ。
参加は原則として男女のペア。誰と誰がカップルで行くのか、
という噂はフェイスブックで広がり、元カノや元カレの嫉妬なんかも混じって、
毎年壮大なドラマが繰り広げられる。
プロムは学年ごとで毎年開催されているが、今まで彼女ができなかった僕は、
一回も行くチャンスがなかった。
せっかくアメリカの高校に在学しているのに、プロムに行ったことがないなんて、
そんなもったいないことはしたくなかった。
ハリーポッターみたいな世界を味わってみたかった。
ただ、僕が通う高校は、ただでさえ日本人が少ないのに、日本人の女の子達にはすでに彼がいた。だから、必然的に、プロムに行くには、英語で相手を口説く必要があった。
女子との会話も上手くないのに、しかもそれを英語でするなんて、、、
でも、好きな人とプロムにいきたい!
もう本当にミッションインポッシブルだと思っていた。
これはいけるかもしれない
プロムに行きたいけど、行く相手がいない。
残酷に時は過ぎ、いつの間にかプロムから1ヶ月前になっていた。
大体の人に相手がいた。
そんな中、ある授業で隣の女の子達の会話が聞こえてきた。
「行く相手がいないんだよねー」
どうやら、ジェニファーがプロムに行く相手がいないらしい。
ジェニファーは、2年前に渡米してきた台湾出身の女の子だ。
背が高くて、黒髪がよく似合う外交的な女の子だった。
お互いアジア出身で、ほぼ同時期にアメリカにきたこともあり、良く話していた。
数少ない仲の良い女友達だった。
ジェニファーのその言葉を聞いて、正直、誘おうかなと思った。
ただ迷いがあった。
僕はプロムは絶対に自分の大好きな彼女と行くと決めていたからだ。
ジェニファーのことは友達として良いとは思っていたが、彼女にしたい!と思うほど
好きではなかった。こんな中途半端な気持ちで一緒に行って楽しくないんじゃないか。
でも、やっぱりプロムに行きたいなー。
僕の中で2つの考えがせめぎあったまま、学校にいる間は答えが出なかった。
帰宅後、僕はおもむろパソコンを開いた。
メッセンジャーを立ち上げ、Jenniferという名前を探す。
そう、悩んだ挙句に僕はプロムに行くことを優先したのだった。
周りくどいのはやめよう。直球で行こうと思った。
"Hey, would you go PROM with me?"
"Don't Think But Feel"
さりげなく、ブルースリーの名言を添えて僕はプロムへ誘った。
正直いうと、アメリカだとこの誘い方はクソだ。目も当てられない誘い方だ。
普通だとアメリカ人はプロムへの誘いをメチャクチャ演出する。
僕の中で一番すごいと思ったのは、クラスメートのマイク。
彼は、授業中に先生が「この問題について何か質問ある?」って聞いた時に、
手を上げて「ミッチェルに質問があります」と言った。
(ミッチェルはそのクラスでもピカイチの金髪美女だ。)
そして、バラの花束を鞄から取り出し、ミッチェルのもとに行って、
"Would you go PROM with me?"と聞いたのだ。
クラス中の皆がこれにはびっくりしたが、ミッチェルの"Yes"の一言で彼らに祝福の声をあげた。
一方で、僕はパソコンのチャット。
しかも、良く分からないブルースリーの名言を添えている。
ふざけてるといってもいいかもしれない。
好きではない相手であっても、返事を待っていると、何事も集中できずにソワソワしていた。中々返事がこなくて、自分ってやっぱダメだなとか思い始めた。
そんなとき、パソコンがポロン♪と鳴った。ジェニファーから返事がきたのだ。
"Why not. Thats what I feel"
いいよ。の一言だった。ぶっきらぼうに"Thanks"とだけ返して、僕はその日寝た。
ただ、やっとプロムに行けることの喜びから中々寝付くことができなかった。
大して何も思ってなかったんだけどな
それから、ジェニファーとちょいちょいデートするようになった。
せっかくのプロムへ向けてお互いを知る時間を増やそうとしたわけだ。
「何か食べたいのある?」と聞くたびに、「しゅうまい」と答える彼女が面白かった。本当に台湾人は中華料理が好きだ。
ショッピングモールでウィンドウショッピングすることもあれば、
ドライブで海を見に行ったりした。
プロムまでの1ヶ月間は、いつの間にか普通のカップルみたいになっていた。
ジェニファーと僕は結構かなり気が合うことが分かった。
何気ない話をしていても、無邪気に笑い合えるし、会話していてとても盛り上がる。
そんなジェニファーと時間を重ねるごとに、僕の気持ちにも段々と変化が現れ始めた。最初は格別好きじゃなかった。好きじゃなかったのに、ジェニファーと同じ時間を
過ごすことがとても心地よくなっていった。
最初はデートに行っても、全然ドキドキすることがなかった。
ドキドキしなかったのに、気づいたら一緒にいて、
心の鼓動が止まらなくなっていった。
最初は、プロムに行ければ良いなと思っていた。
それが今は、相手をもっと知りたいと思うようになった。
僕はジェニファーに恋するようになってしまったのだ。大して何も思ってなかったのに。
僕はジェニファーに対する気持ちの変化に正直驚いたが、
この思いをちゃんと告げるかは悩んだ。プロムが終わった1ヶ月後には、
僕は大学受験に向けて、日本に帰国することになっていたからだ。
一方、ジェニファーはアメリカに残る。
仮に上手くいっても、直ぐに遠距離恋愛になってしまう。
「変にいま、この思いを言って、今の関係がギクシャクするのも嫌だしな」
僕は、自分に言い聞かせるように言って自分の気持ちを押さえ込んでいた。
そして、ただ今の時間を楽しむことにした。
プロムってすげーな!
(プロム当日でスーツを着る僕)
ついにプロム当日。長年の夢が叶ったことに僕は朝からテンションが高かった。
プロムが始まる夜の17時がとてつもなく長く感じた。
何度も衣装を着ては、プロムで楽しんでいる自分をイメトレした。
ちなみに、プロムに行く時は皆が正装する。
僕は人生で初めてスーツを着た。
(上の写真。アメリカ人用のスーツなのでちょっとぶかぶか・・・笑)
孫にも衣装とはよくいったものだ。いつもの3割り増しで見えていたと思う。
そんなことをしていると、時刻はジェニファーを迎えにいく時間を指していた。
ジェニファーにすっかり心を奪われた僕は、バラの花束を用意して、ジェニファーを迎えに行った。車から降りて、ジェニファーの家の玄関まで歩く。2階の窓からジェニファーがこっちを見ているのがわかった。玄関のドアベルを押すと、階段を降りてくる音がする。
「やっとこの日がきたね」ドアを開けてジェニファーは笑顔で言った。
いつもよりお洒落をしていてとても可愛かった。
濃い青のドレスがとても似合ってる。
「これ君のために持ってきたよ。」
僕はバラの花束を渡した。
普段しないことだからとても恥ずかしかった。
「いつものあずまじゃないね」と言って、ジェニファーはクスッとハニかんだ。
そこがまた可愛かった。
二人はこれから始まるプロムに目を輝かせて、会場へと向かった。
(ちなみに、アメリカは16歳から車の免許が取れます)
プロムの会場は結婚式場みたいなところだった。駐車場に車を停めて、まるでホワイトハウスみたいな建物にテンションが上がった。他のカップルもそれぞれ幸せな雰囲気を纏いながら会場へ向かって行った。
みんながみんな手を繋いでいた。
「そういうものなんだ」と思った。
僕は勇気を出して、さりげなくジェニファーに手を差し出した。
ジェニファーは最初びっくりしながらも、視線を外に向けて僕の手を握った。
僕が初めて女の子と手を繋いだ瞬間だった。
多分、ジェニファーもそうなんだろう。長い沈黙が流れた。けど、心地の良い沈黙だ。
映画の主人公みたいだ
会場に入るとそこは、テンションが高いアメリカ人がワキャワキャしていた。
女の子はお互いのドレス姿を褒めちぎり、男子は極限までかっこつけていた。
17時半のプロムスタートまでは自由時間だった。
プロムは2部構成になっていて、まず皆で食事をしてから、ダンスパーティが始まる。
僕とジェニファーはどのテーブルで食事をするか考えていた。
出来るだけ仲の良い子たちと食事を食べたいという思惑もあり、
最終的にアジア人が多いグループと一緒になることになった。
食事の時間になり、カップル同士で大テーブルに座り始めた。
しばしご歓談だ。
何気ない会話をしながら、黙々とご飯を食べる。
僕の頭の中はすっかりこの後のダンスパーティのことで占められていた。
(食事の会場)
食事の時間が終わり、ダンスホールが開放された。
踊りたい人は自由にダンスホールで踊れるようになる。
"YEAHUUUU!!"
アメリカ人のテンションがうなぎのぼりだった。一目散に多くの人がダンスホールに駆け出した。
僕もジェニファーと一緒にダンスホールに行った。
凄く広いダンスホールが一瞬にして狭くなった。
(ダンスホール。人でごった返し。)
ついに、ついに、僕は憧れのプロムの地に立った。
感無量だった。
数千回にも及ぶイメトレを実行する時がきたのだ。
僕は前に立つジェニファーの手を引っ張って、僕の方に引き寄せた。
大きく深呼吸しながら、僕はジェニファーの腰に手を添え、
もう片方の手で相手の手を握った。
さっき初めて手を握ったおかげで、スムーズにできた。
ジェニファーは俯いて恥ずかしそうにしながらも、初めてのプロムにドキドキしているようだった。
ダンスホールではジャズが流れていて、周りのカップルは、そのジャズに体を合わせていた。
僕らもその真似をした。
顔が思ったよりも近くて、心のドキドキが天井知らずだった。
それがジェニファーにも伝わったのか、こっちを見て、はにかみながら下を向いた。
どうしたの?って聞くと、
「しゅうまいが無かったのが物足りないなって思って」
と答えた。
いつもの感じで、ついつい笑ってしまった。
逆にリラックスできて、最初はぎこちなかったダンスも、
お互いの息が合うように体を音楽に合わせるになった。
まるで夢のような時間だった。
映画で見たプロムの雰囲気を実際に味わうことができて、自分が映画の主人公になっている錯覚に陥った。
周りのアメリカ人も楽しそうに音楽に体を合わせている。本場のアメリカでこんなダンスパーティを味わうのは中々にない機会だなと改めて感じた。
「ありがとう」とジェニファーに言った。
ジェニファーは聞こえなかったのか、「なんて?」と聞き返した。
もう1度言うのも恥ずかしくて、僕はなんでもないよと答えた。
ジェニファーがじっと僕の目を見つめてくる。
言い直せ、と目で訴えているのがわかる。
僕は、何も答えず、ただ見つめ返した。
ジェニファーの瞳を見ていると、少し茶色っ気なのがわかった。
綺麗だなー、そうおもったとき、何も意識せずにポロっと
「好きだよ」
と言った。
思わず自分の気持ちをジェニファーに告げてしまった。
あっ、しまった!と思った。
告白しないまま日本に帰るつもりだった。
このままいい思い出として終わってほしかった。
ジェニファーの瞳孔が大きく開いた。
体の動きもノリノリだったのが、止まり始めた。
僕は弁解しようとして、口を開いたが、辞めた。このままジェニファーの返事を聞きたいと思った。ジェニファーは僕の視線を逃れることはなかった。そして、僕の目を見つめながら、口を開いた。
“Don’t Think But Feel”
そう言って、ジェニファーは僕の手をギュッと握った。
僕に初めて彼女ができた瞬間だった。
そして、ついに遠距離恋愛となった
ダンスパーティが終わった後、僕はジェニファーと付き合うことになった。ただ、自由に会える期間は1ヶ月だけってことをお互い知っていた。
二人で色々な所に行った。遊園地、登山、海、映画、ボーリング。
残り少ない時間を精一杯楽しもうとした。
どんどん楽しい思い出が増えていった。
ただ、思い出が増えていけば増えていくほど逆に辛くなっていった。
「日本に行っちゃったら、こんなに気軽に会えなくなっちゃうね」
日本へ帰る日が近づくにつれ、ジェニファーが頻繁にこんなことを言うようになった。
「そうだね。でも、Skypeとかあるし、日本にも遊びにこいよ」
僕は毎回そう弱々しく答えることしかできなかった。
あっけないほど旅たちの日はきた。
日本へ帰る前日、僕はジェニファーと会っていた。
二人で色々な思い出を語り合っていた。
その中でも二人のお気に入りはやっぱりプロム。「あの時はドキドキしちゃって、思い出すだけでもドキドキするよ」そう笑いあった後、お互いが口を閉ざした。
「もう行っちゃうんだね」ジェニファーが掠れた声で僕に話しかける
「うん」と僕は答える。
「あっちにいても、たまにスカイプしようね」ジェニファーがこっちを見つめる。
ちょっと目がウルッとしている。
「もちろん」そう答えてジェニファーを見た。
「約束だよ?」と問いかけるジェニファーに僕は優しくキスをした。
そこからジェニファーは大学生、僕は受験生という日々が始まった。
お互いにスカイプで連絡を取ることがあったが、時差があるせいで、
真夜中か早朝に20〜30分程度しか話すことはできなかった。
日増しに受験というプレッシャーが強くなり、
段々僕の中でジェニファーが小さくなっていった。
話すといってもしょせん2次元のパソコン内だ。
実際に会ってる時よりもドキドキすることもなかった。
いつしかあんなに好きだったジェニファーとスカイプすることが重みになっていた。
別れよう。
受験も恋愛もどっちも中途半端になるのが僕は一番嫌だった。
そう決心して、約束の時間にジェニファーにスカイプをかけた。
その日のジェニファーはとてもご機嫌だった。
スカイプが繋がるや否や、笑顔で今日1日で楽しかったことを話し始める。
新しい日本人の友達ができて、どうやら色々日本語を教えてもらったらしい。
「こんなことも教えてもらったんだー」そういって、ジェニファーは、
"あなたが好き。I said I love you in Japanese. Is it right?"
(日本語であなたが好きって言ったんだけど合ってる?)
と言った。
ついにこの時が来たことがとてつもなく嫌だった。
僕は腹をグッと押されるような感覚を味わった。
口を開けるのが重くて、中々言葉を発せない。体の拒否反応を我慢しながら、僕はグッと目線を持ち上げて、ゆっくりとただ力強くその言葉を告げた。
"Yeah. That's right. But I think we need to break up"
(合ってるよ。けど、俺たちは別れる必要があると思うんだ。)
長い沈黙だった。
物音1つせず、僕とジェニファーはただただパソコンを眺めていた。
ジェニファーは何度も口を開けようとして閉じた。
固唾を飲む音だけが密かに聴こえてくる。
「わかってたんだよね。」
ジェニファーの口からポツリと溢れた一言だった。
目をこちらに向けている。
今にでも涙がこぼれ落ちそうだ。
「ごめん」
本当はどれだけ自分がジェニファーのことが好きだったか。
今も嫌いになったわけじゃないけど、受験の時だけはこの関係を辞めたい、とかそんな都合のいいことを言いたかった。
けど、言えない自分がいた。
別れの言葉を自分の中に落とし込もうとジェニファーはずっと下を向いていた。
何もない時間だけが過ぎる。
「それじゃね。」
いつも明るい彼女の声が、、、こんな弱々しくなったのは初めてだった。
「うん、またね」これ以上、彼女にかける言葉は見つからなかった。
ポロン♪
スカイプの切れる音がして、二人の会話に終わりを告げた。
誰もいない部屋の中、僕はただただ虚無感に襲われていた。
僕は初めての彼女と別れることになったのだ。
お互いにコミュニケーションを深めるためのスカイプが、
いつの間にか別れるためのアプリになっていた。
最後に
振り返って僕はこの初恋で色々なことを学べた。
・異文化恋愛でも「相手を知ろう、相手の気持ちになる」って姿勢重要なこと
・すごく好きでもいつまでも続くわけではないこと
・自分のやりたいことを実現するには行動するしかないこと
正直、今でもあの時の僕の選択は正しかったのかな?と思っちゃう時があります。多分誰もが恋を終わらせた後はちょっと思うことだったりするんじゃないかな。でも、あの時は自分が精いっぱい考えて出した答えだった。
多分、恋の終わりかたに正解なんてなくて、自分がどう考えて、その選択に向き合ったのかってことが重要な気がします。
もう大分前の話だけど、この話を思い出しながらなんとなく思いました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。