堀込泰三 - お金,資産運用 10:00 PM
本当はシンプル。人々を投資から遠ざけている5つの神話
多くの人が、「お金持ちでなければ投資はできない」と思っています。そのほかにも、「投資はリスクが大きすぎる」「家を持っているから、それが投資だ」などの根拠のない神話を信じて、基本的なポートフォリオさえ作りもしないのです。でも、いつか退職したいと思っているなら、いずれポートフォリオは必要になります。神話なんかに邪魔されている場合ではありませんよ。
神話1:投資をするにはお金がたくさん必要
投資をするにはお金が必要です。それは間違いないのですが、たくさんのお金は必要ではありません。
投資信託は、安全な選択肢の1つです。投資信託とは、さまざまな投資をひとまとめにしたもの。その1つであるインデックスファンドは、特定のインデックス(S&P 500など)を反映するように作られています。上場信託(ETF)も似たようなものです。これらのファンドには、最低3000ドルから1万ドルの投資を義務付けているものもあります。でも、100ドルから200ドルでも大丈夫なものもたくさんあるので安心してください。
米Lifehackerのライター、Melanie Pinolaはこう書いています。
Charles Schwabのインデックスファンドは、たったの100ドルから始められます。200ドルも出せば、社債ETF(Schwab US Aggregate Bond ETF, SCHZ)と米国株式および国際株式をカバーしたインデックスETFが入手できます。さらに、毎月50ドルの自動投資を設定するだけで、1000ドルまたは3000ドル(またはその他)の最低投資額が免除されるファンドもあります。
投資を始めたいけれど何万ドルも持っていないという人は、小額から始める方法を書いたこちらの記事(英語)をチェックしてください。投資全般についてのもう少し詳しい情報が知りたければ、初心者向けのポートフォリオの作り方(英語)を参考にどうぞ。いずれにしても、お金がたくさんなくても始められるので、神話に騙されないでくださいね。
それから、市場には株式を10ドル未満で売っているような会社もあります。オススメはしませんが、数セント単位の株式なら、1ドルもかけずに投資を始めることができます。つまり、投資を始めるのに、たくさんの現金を持っている必要はないのです。でも、1つの会社や資産に絞って投資するのは賢明ではありません。投資の「ポートフォリオ」(投資しているすべてのもの)は、多様でなければなりません。言い換えると、できるだけたくさんの会社、債券、その他の資産に投資するべきなのです。そのため私たちは、上記のファンドを利用した長期保有戦略しかお勧めしていません。それはともかく、ここで言いたいのは、投資を始めるのに大金は必要ないということです。
神話2:投資はリスクが高すぎる
ギャンブルのようだからという理由で投資をしたがらない人がたくさんいます。確かに、1つの資産に投資することは、非常にリスキーです(それでもギャンブルよりはマシでしょうが)。でも大きな市場への長期投資は、かなりの勝算が見込めます。金融の専門家、Laurie Itkinさんはこのように述べています。
20年間、1枚5ドルの宝くじを毎週買い続けるとします。年間260ドル、20年で5200ドルです。さて、宝くじは当たったでしょうか? そうかもしれません。でも、勝つ確率は極めて低いでしょう。米国株式市場は、平均すると年に約8%の利率が得られます。この3年は好調でしたが、過去に2年ほど、ひどかった時期もありました。たとえば2008年です。でも、対象期間が長ければ長いほど、平均年利率8%を実感できるはずです。
それに、ギャンブルと投資は仕組みがまったく違います。ギャンブルでは負けた人から勝った人にお金が流れているだけですが、投資の目標はお金を成長させること。つまり、誰にも損をさせないでお金を儲けることができるのです。
とはいえ、投資にはある程度のリスクがあります。実際、市場は暴落する可能性があり、あなたの全資産の価値が大幅に下落するかもしれません。でも、暴落しても売らずに持っていれば、いつかは必ず巻き返すことを歴史が証明しています。適切な投資をしていれば、平均利率を得られる可能性が非常に高いのです。市場には常にサイクルがあって、高値があれば低値もあります。でも、浮き沈みは差し迫った破滅ではありません。いずれにしても、投資を越える代案はないのです。
インフレを考えると、投資しないことのほうがリスキーとも言えます。ほとんどの預金口座が、インフレ率よりも低い利率しか得られません。つまり、タンスにしまっておいたほうがマシで、預金は長期的に見てお金を失う行為なのです。
神話3:市場平均を上回ることができる
投資は、ギャンブルほど予測不能ではありません。一方で、市場の頃合いを測って大きな収益を上げられるほど予測可能でもありません。
退屈な「買って忘れる」(長期保有)方式の投資ポートフォリオでは、たくさんのファンドを選んで、あとはそのファンドが成長するのを待つだけです。市場の頃合いを心配する必要はありません。時間がたてば、平均市場利益が得られるはずです。多くのブローカーや金融会社が、市場平均を上回ることができるので儲かるという主張をしていますが、研究でそれは事実でないことが示唆されています。
Vanguard社が、そのような論文を発表しています。2004年から2013年の10年間で長期保有投資戦略とパフォーマンス追求戦略を比較したところ、次のようなことがわかりました。
投資家は、パフォーマンスがトップレベルのアクティブ運用型ファンドに惹かれがちです。そのため多くの人は、パフォーマンス追求アプローチを選んでしまいます。Vanguardのリサーチでは、このような行動が間違っていることがわかりました。過去10年の間、Morningstarのエクイティ・スタイルボックスの全9種において、長期保有戦略のほうがパフォーマンス追求型よりも収益率が高かったのです。
こちらのグラフを見ると、結果は一目瞭然です。
Vanguardも巨大な投資信託会社ですから、上記の結果はにわかには信じがたいかもしれません。しかし、『Journal of Finance』に掲載されたピアレビュー済みの調査では、2076の投資信託を対象に、32年間のパフォーマンスを比較しています。その結果、これらのファンドのベンチマークを上回ったファンドマネジャーの数は、「統計的にゼロと区別がつかない」ほど低かったそうです。
この結果と多くのアクティブ運用型ファンドの手数料が高いことを総合すると、これほど馬鹿げたことはありません。投資はギャンブルほどに予測不能ではありませんが、頃合いを測れるほど予測可能でもありません。古くから言われるように、大事なのは市場での時間であって、市場のタイミングではないのです。
神話4:金はスマートな投資である
経済が不安な人は、代替投資に興味を持ちます。金や貴金属は、そんな人向けの「安全な」投資として販売されています。
「Bankrate」は、このように説明しています。
悪いニュースの兆しがあると、金投資家が増えます。ラジオのニュース番組やトーク番組で金投資のコマーシャルを耳にしないことはほぼありません。ニューヨーク州ロチェスターのファイナンシャルプライニング会社Masiello Retirement SoltionsのMichael Masiello社長は、「それらの多くは、人々の恐怖心につけ込んで話を誇張する拝金主義に過ぎません」と述べています。
もちろん、金やその他の代替投資をすることは間違いではありません。それでも、その収益はインフレとともに上がっていくのであって、稼いでいるとは言えないことを知っておく必要があるでしょう。
一方で、金投資はインフレに対するリスクヘッジになるという主張もあります。金融のエキスパート、J.D. Roth氏は、この話題に関する記事を自身のサイト「Get Rich Slowly」に載せています。金投資に熱心な人による、価格が上がっても金の価値は変わらないという主張に対して、Roth氏はこのように反論しています。
それは事実ですが、長期的に見ると、それ以外のメリットはありません。インフレ中でも価値を保つことが目的であれば、そのようなものはほかにもあります。たとえば、不動産やTIPS(インフレ連動債)、普通預金口座もそうかもしれません。
インフレ対策なら、もっといい選択肢があります。Jeremy Siegel氏は、著書『Stocks for the Long Run』において、一般的な投資の歴史的なパフォーマンスを計算しています。その結果、1926年以降、
- 金の実質利益率(インフレ率を差し引いた利益率)は約1%
- 私(Siegelではなく)の計算では、不動産の実質利益率も約1%
- 債券の利益率は約5%、インフレ率を差し引くと約2.4%
- 株の利益率は年間平均約10%、実質利益率は約6.8%
金投資がひどいと言いたいわけではありません。でも、1つの資産だけに投資しないのが正しいポートフォリオの組み方です。金が唯一の資産だと、稼ぎはほとんどありません。ファイナンシャルアドバイザーのDavid Marotta氏によると、金はポートフォリオの3%未満にしておいたほうがいいそうです。
神話5:マイホームは投資だ
家を持っているから投資家だと思っている人がいます。これは真実ではないことが、このところ明らかにされています(特に2008年の不動産バブル崩壊後)。にもかかわらず、いまだにそのアイデアを手放せない人が多いのです。
イェール大学の経済学者でノーベル賞受賞者でもあるRobert Shiller氏は、実際に計算を行い、この話題に関する議論を呼びました。彼の指摘によると、住宅市場がインフレ率を越えることはほとんどないそうです。「Washington Post」が彼のデータを分析したところ、過去100年の住宅価格は、インフレ率を差し引くと、年間わずか0.3%の複合成長率でしかないことがわかりました。
不動産は金と同じでインフレ対策にはなりますが、本当の投資とは、株と債券のバランスが取れたものを指します。
あまりエキサイティングとは言えませんが、そもそも堅実な投資ポートフォリオとはエキサイティングなものではありません。退屈でバランスが取れていて、安定したものです。それなのに、投資は乱高下を伴う動的なジェットコースターのようなものと一般的には認識されています。
実際に必要なことは、ファンドをいくつか選んで、あとは時に任せるだけ。事実と神話を切り離して考えれば、投資は非常にシンプルなものなのです。
Kristin Wong(原文/訳:堀込泰三)
Illustration by Tara Jacoby.