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バス事故の運転手 1か月前の適性検査で最低評価
2月15日 19時05分

バス事故の運転手 1か月前の適性検査で最低評価
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長野県軽井沢町のバス事故で死亡した運転手が、事故の1か月前、前の会社にいたときに受けた運転適性検査で、5段階の評価で最も低い「特に注意」と診断されていたことが分かりました。運転手はその後、入社したバス会社で適性検査を受けないまま乗務して、今回の事故を起こしており、国土交通省は全国のバス会社に検査の徹底を指示しました。
今回の事故で、バスを運転していた土屋廣運転手(65)は、車体の制御ができないまま、事故の直前に時速96キロで走行して道路下に転落したとみられ、乗客乗員15人が死亡しました。
その後の取材で、土屋運転手が事故のおよそ1か月前の去年12月10日、前のバス会社に在籍していたときに、任意の運転適性検査を受けていたことが分かり、NHKはその診断結果を入手しました。
それによりますと、土屋運転手は9つの検査項目のうち、状況変化への反応をみる「正確さ」や「速さ」など3つの項目で、5段階で最も低い「1」と評価されていたことが分かりました。
コメントでは「誤りの反応が多くありました。突発的な出来事に対する処置を間違いやすい傾向がある」などと警告されています。
また、注意力という検査項目でも「1」と評価され、「全体的に注意力が散漫」だと指摘されています。
結局、9つの検査項目のうち4項目が「1」で、総合的な評価でも5段階で最低の「特に注意」と診断されていました。
検査は任意で行われたことや、直後に土屋運転手が会社を辞めたことなどから、診断結果は会社や本人に手渡されていなかったということです。
土屋運転手はその後、事故を起こしたバス会社に入社し、法令で義務づけられた適性検査を受けないまま乗務して、今回の事故を起こしており、国土交通省は全国のバス会社に検査の徹底を指示しました。

運転適性検査と運転手の診断詳細

運転適性検査は、運転手の適性を総合的に判断するもので、国土交通省がバス会社に対して、国が認定した検査を運転手に受診させることを法令で義務づけています。
適性検査では、運転シミュレーターや測定機器を使うなどして、性格の特性や状況把握の正確さや危険を察知した際の判断、それに注意力や重複した作業を正確に素早くできるかなどを測定するほか、専門家による面談も行います。そのうえで国土交通省はバス会社に対して、診断結果に基づいて運転手に適切に指導するよう求めています。
適性検査の対象となっているのは、事故を起こした運転手のほか、新たに雇った運転手や65歳以上の運転手です。
土屋運転手の場合、去年12月に事故を起こした会社に入社しましたが、会社側は法令で義務づけられた適性検査を受けさせていませんでした。
また、最近3年以内に受診していた場合、適性検査は免除されますが、国土交通省によりますと、土屋運転手は入社前に任意で受けた検査を除いて、3年以内に検査を受けた記録は見つかっていないということです。

土屋運転手が今回受けていた運転適性検査は、速度感覚と焦りの度合い、状況変化に対しての反応、注意力の持続性などの3種類のテストを行い、合わせて9つの項目について5段階で評価しています。
その結果、土屋運転手は、状況変化に対しての反応を見るテストでは、「正確さ」「速さ」「むら」という3つの項目とも、5段階で最も低い「1」と評価されています。コメントでは「『特に注意』です。誤りの反応が多くありました。よく確かめないで行動し、あわてて急ブレーキや急ハンドルを使うことはありませんか。突発的な出来ごとに対する処置を間違いやすい傾向があるので、危険な場面での一か八かの行動は絶対に避けてください。また、反応が遅れがちです。けっして無理をせず控え目な運転をすることが大切です」と警告されています。
また、注意力の持続性などに関するテストでは、どれだけ正確に障害物を通過したかを調べる項目で「1」と評価され、「全体的に注意力が散漫」だと指摘されています。
結局、9つの検査項目のうち4つの項目が「1」で、総合的な評価は5段階で最低の「特に注意」と診断されています。そのうえで、「毎年1時間に約1人が自動車事故で死亡しており、その背後には肉親や関係者などさらに多くの人が苦しんでいるのも事実で、いつ自分自身がその当事者になるかもしれません」と指摘されています。

運転手の運転技能は

バスを運転していた土屋運転手は、去年12月に事故を起こしたバス会社に入社したあと、大型バスを運転する研修は1度受けただけで、4回目の業務で今回の事故を起こしました。
去年12月まで5年間在籍していた前のバス会社では、比較的小型のバスの運転を担当し、冠婚葬祭の送迎など昼間の近距離の運転が中心で、土屋運転手は「大型バスの運転はしない」と話していたということです。
土屋運転手が入社後、一緒に大型バスに乗ったという同僚はNHKの取材に対し、「大型バスもある程度は運転できたが、ハンドルさばきに疑問があったり、進路変更が少し遅れたりすることがあった」と証言していました。
また、会社側も記者会見で、土屋運転手に大型バスの運転に慣れさせるために、一般道ではなく比較的運転しやすい高速道路の運転を担当させていたと話していました。さらに、会社の幹部も「採用担当者は土屋運転手が大型バスの運転に不慣れだという認識があった。スキーバスの仕事をやらせるかどうか、担当者の判断に任せきりだった会社の責任で、申し訳なく思っている」と話していました。
今回の事故では、現場直前の監視カメラに、土屋運転手が運転するバスがセンターラインをはみ出しながら、かなりのスピードで走行する様子が映っていて、事故直前には時速96キロに達していたことが分かっています。
また、警察が事故後に行った車体の検証では、ギアがエンジンブレーキが効かないニュートラルの状態になっていました。
警察は、大型バスの運転に不慣れな土屋運転手がバスを制御できないまま道路下に転落したとみて調べています。

事故を起こした、東京・羽村市にあるバス会社「イーエスピー」の高橋美作社長は、事故から1か月になるのを前にNHKのインタビューに応じました。
この中で高橋社長は、「事故の重大さと責任を痛感している。お亡くなりになられた方、けがをされた方、ご遺族やご家族などに対し、本当に申し訳ないという気持ちでいっぱいです。賠償を含めて、一生をかけて償いを進めていきたい」と改めて謝罪しました。
そのうえで、事故原因について、「第一は弊社の責任だが、それだけで過ぎていっていいのかという思いもある。運転手や会社の管理体制、それに旅行会社とのつながりなどを考えていくと、いろいろなことが複合的に混ざり合い、事故が起きたのかもしれない。こういうことを全体的に考えて、不幸な事故が二度と起きないよう、会社としてできることは何でもしていきたい」と述べました。

専門家「検査をきちんとさせる仕組みを」

交通機関の安全対策に詳しい関西大学の安部誠治教授は、「この診断結果を見るかぎり、運転特性にかなり問題があり、こういう人を運転手として運転させていいのかというほどの結果だ。極めて重要な適性検査を事業者にきちんとやらせる仕組み、やらない場合は厳しい処分を下すという制度にしていかなければならない」と指摘しました。
また、「バス業界はかなり深刻な人手不足で、高齢の運転手が増えているが、会社は仕事を受けるために、検査で多少問題があっても乗務させている現実がある。そういう状況にメスを入れる制度設計が必要だ」と述べました。
そのうえで安部教授は、「適性検査と健康診断の結果のデータを公的な第三者機関に蓄積して、新しく運転手を雇い入れる会社がそのデータを見て判断できるような仕組みが構築できれば、安全性は高まる」と提言しています。

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