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「本はもはや欠陥品だ」――マンガ・小説復権の鍵はアプリにあり!

 2月8日に非常に刺激的なイベントが開催された。「読書チャンネル」を設け本やマンガに関するニュースの配信も始めたSmartNewsと、小学館の「裏サンデー」が出自となり、ネット発のユニークなマンガをアプリで提供する「マンガワン」、そして、KADOKAWAが二次創作も含めた投稿小説を募集する「カクヨム」の仕掛け人たちが、「オンラインサービスと本のプロモーションを考える会」と銘打って持論を展開したのだ。「ラノベすらネットのスピード感からは遅れている」「本はもはや窮屈なメディアだ」といった言葉も飛び出し、会場に詰めかけた出版関係者たちにも強い印象を残した。このイベントのハイライトをお届けしよう。

オンラインサービスと本のプロモーションを考える会 第2回クロストーク
 昨年5月、SmartNewsが「読書チャンネル」を開設するにあたって開かれた同名のイベントの第2回。今回は読書チャンネルのその後の報告と、それを受けてのチャンネル参加社によるディスカッションと交流が行われた。

司会:スマートニュース株式会社メディア事業開発担当 漆原正貴氏
株式会社小学館 裏サンデー編集長 MangaONE編集長 石橋和章氏
株式会社KADOKAWA カドカワBOOKS編集長 カクヨム編集長 萩原猛氏

 イベントではまず、各社の取り組みの現状が紹介されている。SmartNewsの読書チャンネルは現在登録者数約25万人、その後開設されたマンガチャンネルは約15万人に達している。「マンガワン」は、1月末現在約300万ダウンロード、DAUは60万と「ジャンプ+」とランキングトップを争っているという。「カクヨム」は投稿だけできる状態であるにも関わらず既に8000件を超えるエントリーがあり、2月25日からは作品を読むこともできるようになる。

新人作家をどう発掘し育成するのか?

 現在、マンガワンやcomicoなどの投稿型のマンガアプリは、読者からの人気の多さに応じて連載が決まり、読者からの反応を作品に反映させるスタイルを取るものが多い。それは従来のマンガ誌で行われてきた新人賞への応募や持ち込みによる作家の発掘や、編集者が寄り添っての作品作りとは全く異なるものだ。これからの新人の発掘・育成はどうなっていくのだろうか?

石橋:そもそも「新人作家」とはなんだろう、と考えるようになった。マンガで生計を立てていればプロ作家なのか? 同人活動を中心に活動している人も作家だ。プロ、アマチュアの境界が曖昧になっている。もう漫画家を「育てる」という風には捉えられないのではないか?

萩原:そもそも単行本は他の商品と異なり、同一レーベルであれば一律同じ価格で販売される。ベテランだから高い、ということもなく、新人だからといってクオリティを大目にみてもらえるわけでもない。出すからには「完成品」で、育成という考え方とはそもそもそぐわない。

石橋:マンガワンも描きたい人を集めている、という感覚。編集者はそのサポート役。

萩原:カクヨムもそんな「場所」を作っている。機会を与えるので、どんどん「勝手に」出てきてくれれば良い。そのための機能を充実させたり、プロモーションを僕たちは頑張る。

ネット時代の作家は「強い」

これまで発掘した作家を守り育成するのが、編集者の役割という考え方が一般的だった。しかし、ネットで自由に作品が発表し読者とつながることもできるようになり、その役割は大きく変わろうとしている。

石橋:編集者という言葉がそもそも好きではない。僕たちの仕事は「本を作る」ことではなく、作品やアプリをプロデュースしていくこと。編集や校正の技術よりも売ることが大事で、デジタルマーケティングを理解している必要がある。

萩原:作家に対してはプロスポーツ選手にとっての代理人のような存在だと思っている。本を作る、というのは編集者の自己満足の「作業」ではないか。

石橋:デジタル化に伴って、不利な契約によって作家の権利が狭められ、収入が下がってしまうことも。彼らの生活を守るのも僕達の仕事だ。

萩原:とはいえ、投稿型の小説サイトで、ランキング上位に上がってくる人たちは「強い」。ネットではネガティブな感想も容赦なく寄せられるが、それでも心が折れない。新しい進化を遂げた生き物のように思えたりも。

石橋:読者からの評価をくぐり抜けることで、どんどんレベルが上がっていく。彼らはTwitterアカウントを持ち、セルフプロデュースもうまくなっている。それは、私たちとっては扱いづらさもあるが(笑)

大手出版社の中で「作品の力」を取り戻す

本を作るというのは編集者の自己満足のための作業に過ぎないのでは、という指摘には反発する出版関係者も多いはずだ。伝統ある大手出版社の中での先進的な取り組みは、色々な抵抗にぶつかりながら進められている。

石橋:マンガワンの出発点となった「裏サンデー」も、サークル活動のようなものだと会社では捉えられていた。僕も「サンデーの上位概念がマンガワンなんです」と言ったりするものだから、反感も買っていたと思う。イノベーションにはエネルギーが必要だが、確実に仲間は増えてきており、いずれ小学館は出版社から「総合コンテンツ産業」の会社に変わるはず。

萩原:自分は富士見書房出身だが、KADOKAWAによる合併が良いタイミングで行われたと思う。それ以前は、このような取り組みに対しては強い抵抗があった。今は会社の上の方の人ほど新しい取り組みには熱心で、逆に現場の編集部や営業との交渉の方が骨が折れることも。ラノベの編集部でも、本を編集することがゴールだと思っている人は多い。投稿小説は彼らにとっては理解できない、異物のような存在になってしまっている。本はしかしもはや「窮屈過ぎる」。ネットの時代にあって、インフルエンサーが周囲にその魅力を伝えるには本は重たすぎ、コンテンツとしてはもはや「欠陥品」と言える状況になったのではないか。

石橋:我々はジャンプの全盛期を知る世代。逆に若い編集者はいまの出版不況が当たり前になってしまっていて、コンテンツの持つ力を知らない。僕は「もう紙の時代じゃない」と思う。紙はコンテンツの本来持つ力を発揮するには重すぎるメディアだ。

電子書籍にも死角あり

電子書籍が当たり前の存在となり、アプリでマンガを読むスタイルも若い世代を中心に広がりつつある。しかし、そのマネタイズや膨大なカタログの中から、どうやって作品を発見してもらうのか、また作品の多様性をどう担保していくのか、といったビジネス・マーケティング上の課題はまだ山積している。

石橋:マンガワンの運営は黒字。おそらくマンガアプリの中では一番うまくやれていると思うが、電子書籍は一度買えば画質も劣化しないし、買い換えのようなことも起こりにくい。マンガワンでは続きを読むための「ライフ」に対して課金を行ったりしているが、電子書籍の値付けは安すぎないか、と思う事はある。

萩原:カクヨムでもそこはこれからの課題。作品の投稿を促し、本として販売することを基本モデルとしているが、いずれ「本」というパッケージは骨董品になっていくのではないかと考えている。例えば、星新一のショートショートがそうであるように、小説はもっと小分けにして、「5分で楽しめる」コンテンツとして消費してもらう、ということもできるはず。

石橋:ランキングの傾向が媒体によって大きく異なるのにも驚かされている。マンガワンとマンガワンの作品を提供しているSmartNewsでは、ランキングの顔ぶれが全くことなっている。

萩原:多くの投稿小説サイトでは、どれも異世界ファンタジーなど似たような作品ばかりが集まる傾向がある。1つしかないランキングの上位を狙う以上は、そうなってしまうのは避けられない。カクヨムでは場所を作るだけでなく、7つのジャンルを設け、それぞれに応じたデザインを心がけている。これによってジャンル毎に生態系が生まれるはず。

石橋:そうやって集めたコンテンツを、外部の媒体にも積極的に提供していきたい。ただし、その媒体が、自らもオリジナル作品の展開を始めるならば話は別。彼らのオリジナル作品の単なる呼び水として、自分たちの作品が利用されてしまうのは困る。

 現在ほとんどの出版社は、IT企業のサイトに作品を提供しているが、利用されてしまっているだけになっていないか? 彼らの単なるコンテンツ下請けになってしまう前に、例えば音楽業界における「レコチョク」のように、出版社それぞれの垣根を越えて、作品が楽しめるサービスを持つ、といった選択肢もあるのではないか?

 

 2時間にわたるイベントでは、石橋・萩原両氏の強い言葉に大きな拍手が起こる一方、質疑応答の時間には、「投稿小説は完成にほど遠いクオリティのものも多いではないか」といった厳しい意見も飛んだ。いまスマホ、アプリの登場によって「本」と「物語」はアンバンドル(分離)されると言われて久しいが、いよいよそれが現実味を帯び、出版の世界にも大きな波紋が拡がっていることを強く印象づけられるイベントだったと言えるだろう。

取材・文=まつもとあつし

ニュースアプリの利用スタイル

「Smart News」「Yahoo! ニュース」「Gunosy」

comico、LINEマンガをManga ONEを猛追


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