無担保コール翌日物「下がってもゼロ%」、マイナス金利対応に遅れ
2016/02/15 09:09 JST
(ブルームバーグ):市場イールドカーブの代表的な起点金利である無担保コール翌日物は、日本銀行が一部当座預金に対してマイナス金利適用を実際に始める明日になってもマイナス圏に突入しない可能性がある。市場関係者から金融機関のシステム対応が追いついていないとの指摘が出ているためだ。
日銀は1月29日に公表したマイナス金利政策の声明の中で、「当座預金金利のマイナス化によりイールドカーブの起点を引き下げる」と言明した。国債市場では、この日銀によるサプライズ追加緩和を受けて、新発10年物利回りまでが発表から10日足らずでマイナスを付けた。
一方、取引の対象となる期間が1年以下の無担保コール金利はプラス圏で推移し、金利を期間の短い順に並べたイールドカーブの一部にゆがみが出る背景となっている。先週末12日の相場では、取引期間が16日にかかる1週間物から1カ月物が0.001%やゼロ%で取引され、マイナス金利の取引はなかった。
日銀は16日から、銀行などの金融機関が日銀に預けて利息をもらっていた一部の当座預金に0.1%のマイナス金利を課す。日銀の試算によると、対象となる残高は当初、約10兆円に上る見通し。これは、無担保翌日物が中心のコール市場の半分程度に相当する規模だ。
日本よりも前にマイナス金利政策が導入されているユーロ圏のインターバンク市場では、無担保翌日物金利(EONIA)はマイナス0.25%前後。1週間物はマイナス0.2%台、1カ月物や3カ月物はマイナス0.1%台で推移している。
ECBのドラギ総裁はマイナス金利政策に踏み切る1年以上も前から、市場に導入の可能性を伝えていた。一方、日銀の黒田総裁は1月21日の国会答弁で、「マイナス金利を具体的に考えていることはない」と述べていただけに、同発言からわずか約1週間後にマイナス金利政策の導入を表明したことで、市場関係者は不意打ちを食らった形だ。
日本のインターバンク市場で、金融機関同士の短期資金の取引を仲介するセントラル短資総合企画部の佐藤健司係長は、「みんなマイナス金利導入を想定していなかったので、あまりに急な決定に実務面が追いついていない」と言う。金融機関が16日から無担保コール翌日物をマイナス金利で取引を始める可能性については懐疑的で、「トラブルが生じてもいけないので、当面はどんなに下がってもゼロ%近辺での取引ではないか」とみている。
複数の短資会社によると、外国銀行や地方銀行の中にはマイナス金利に対応可能なシステムをすでに構築した金融機関もあるが、取引の下限は0.0001%という銀行も少なくない。翌日物をマイナス金利で取引した場合の決済手続きを昔流の手作業で処理しなければならないと言う。
日銀の準備預金制度の対象となっている金融機関は、日銀当座預金に積み立てることが義務付けられている所要準備を上回る超過準備に関して、今日までは年率0.1%の利息を受け取ることができる。2008年9月のリーマンショックで混乱した国内金融市場への対応策として白川方明前総裁時代に導入された同制度は、金融機関にとって日本で最も安全で安定的に収益が確保できる運用手段の一つとなっていた。
外国銀行は、速水優氏や福井俊彦氏が日銀総裁だった01-06年の量的緩和下のコール市場で、為替取引などで調達した割安な円資金を日銀当座預金に積む代わりにマイナス金利で運用した経緯がある。ただ、当時も国内銀行がマイナス金利で資金を運用したとの報告はなかった。
もっとも、セントラル短資の佐藤氏は、「システム対応が進めば邦銀も取引が可能になる」として、2月分の準備預金の積み期間の半ばに当たる2月末から3月中旬にかけてマイナス金利の取引が出てくるとみている。
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更新日時: 2016/02/15 09:09 JST