大阪市を廃止して五つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」をめぐる住民投票が今月17日に迫っている。賛成が一票でも上回れば、投票率に関係なく政令指定都市・大阪市が消滅することになる。医者が治療法のリスクを患者に説明するように、「大阪市解体」のリスクを住民に説明したい、そう考える学者たちによる説明会が5日大阪市内で開かれた。その報告の最終回。大阪維新の会による強引な「都構想」の進め方は民主主義に反するという指摘が相次いだ。(新聞うずみ火 栗原佳子)
◆ 大阪に内部対立持ち込んだ
社会学者で帝塚山学院大学教授の薬師院仁志さんは
「橋下市長、大阪維新の会は統治機構や役所の仕組みばかり強調するが、実際に生きている人間に対する視点が欠けているのではないか」
と疑問を投げかけた。
「企業や国家、自治体、紙の上でどんな素晴らしい組織図を作っても構成員が内部対立しているのでは何も機能しない。『橋下政治』は同じ大阪市民の間に内部対立を持ち込んだ。以前の大阪は支持政党や思想信条の違いがどうであれ、もっと人情味にあふれた街だった。真の「One Osaka」は役所や行政の形ではなく、人々の心の中で実現すべきものだ」
と唱えた。
民主主義という根本からの問題提起も相次いだ。近畿大学教授の道野真弘さん(商法・会社法)は
「賛否が拮抗している中で、議論を尽くすことなく、勢いだけで市を廃止するという暴挙にでることは民主主義の濫用だ。民主主義は数の論理ではない。大局的見地から時間をかけて議論し、より良い大阪市の形を少しでも多くの人が納得するように示すのが政治の役割だろう」
関西学院大学教授、冨田宏治さんも政治学者の立場から
「問われているのは民主主義。議論、熟議することが大事で、多数決はその結果を確認するための最後の手段。議論をろくにしないで多数決をするというのは非常に乱暴だ」
と、現在進行形の事態に釘をさした。
◆ 日程ありきではなく熟議尽くすべきだった
また冨田さんは、同時に、住民投票に付されている協定書が
「昨年10月、大阪府・市議会が熟議の末に否決したにもかかわらず、ほぼそのままのかたちでゾンビのごとく復活した」ことを「そこに最大のいかがわしさ、胡散臭さがある」と指摘。
「もし協定書を復活させるなら、もっと熟議を尽くすべき。日程ありきであっというまに住民投票へと進んだが、こういうプロセス全体がとことん民主主義に反するものではないか」
と疑問を呈した。(了)
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