橋下徹市長も大阪維新の会も、大阪市を廃止分割するいわゆる「大阪都構想」のマイナス面とリスクについてはほとんど言及しない。医者が治療法のリスクを患者に説明するように、「大阪市解体」のリスクを住民に説明したい、そう考える学者による説明会が5日大阪市内で開かれた。その報告の二回目は「二重行政批判」は間違いという説明を紹介する。(新聞うずみ火 栗原佳子)
甲南大学名誉教授の高寄昇三さん(財政学・行政学)も「大阪市を分割し、権限・財源を大阪府に吸収すれば、大阪市民への生活サービスの低下は避けられない。消防のようなに基幹的サービスがなくなれば災害救助でも大きな支障となる」と警鐘を鳴らす。また、大阪維新の会が「都構想」主張の大きな根拠とする「府と市の二重行政」についても、「制度を変えたらすべて解決するものというものではない」と一蹴した。
同じく「二重行政」について、関西大学教授の鶴田廣巳さん(財政学)は「『二重行政』を声高に主張するのは、大阪における大規模なインフラ開発の権限と財源を大阪府に集中するためにほかならない」とばっさり。
「いまやるべきは都市内分権。住民が都市の自治に参加できるようなガバナンスの仕組みをつくること。都市の解体によって大阪の再生は決して果たせない」と述べ、「これだけ注目されているのだから、本来は学会等で『大阪都構想」が取り上げられるべきだが、荒唐無稽過ぎて取り上げられない。そういうものだと理解してほしい」と付け加えた。
大阪府立大学名誉教授の小林宏至さん(農業経済学)は、大阪維新の会が「二重行政」の具体例とする大阪府立大・大阪市立大について言及。
「橋下氏が自ら立ち上げた『大阪府市新大学構想会議』の2013年1月の『提言』には、両大学は『公立大学の使命である地域貢献について高い評価を得ている』と記述されている」として、両大学が公立大学としての役割を発揮しながら存在してきたことを強調し、「二重行政」批判を一蹴した。
立命館大学教授の平岡和久さん(地方財政学)は、道府県と政令市を調査してきた実例を紹介しながら「多くの場合、『二重行政』は問題になっていない。そもそも政令市を解体する理由にはならない」と断言。「理由にならない理由で大阪市が廃止され、市民は共同体としての大阪を失いバラバラにされたうえに、共同体が持つ大都市行財政権限を失う。その損失は計り知れない」と訴えた。
◆二重システムは先進国の常識
「府県と市の『二重システム』は先進国の常識」だというのは立命館大学教授の村上弘さん(行政学・地方自治論)。人口1000万人程度の大都市圏の中に200万~300万程度の中心都市がある例として、パリやミラノ、シカゴ、台北などの有力都市の例を挙げた。「エンジンが2つから1つになり、2人のパイロットの1人がコックピットから追い出されたら、どうだろうか。行政サービスも下がるが、大阪の力自体も下がっていく」
(続く)
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