和食や日本食の“要”といえば、昆布やかつお節からの「だし」でしょう。煮物や汁物でのだしのうま味がなければ、文字通り“味気ない”ものになります。
だしは、当たり前ですが水から取ります。
「だしを取る」というプロセスを化学的に表現すると、昆布やかつお節という固体から、水という溶媒に溶ける可溶性のグルタミン酸やイノシン酸という成分を選択的に抽出する固-液(こえき)抽出法であるといえます。お茶やコーヒーを入れる操作も水溶媒抽出という分離プロセスです。
ものを溶かす溶媒の種類によって溶ける成分も変わってきます。
有機化合物を抽出する実験などでは、エーテルやヘキサンなどの有機溶媒がよく用いられます。また、食品のホップエキスの抽出やコーヒー豆からの脱カフェイン抽出などには超臨界二酸化炭素の利用が有名です。
そこで一つの疑問が生まれます。だしは水からしか取れないのか? 水以外の溶媒で“だし的”なものが取れないのか?
食品からの抽出に使える溶媒は限られています。最も入手しやすいものはアルコール(エタノール)でしょう。アルコール度数25%の焼酎、40%のウォッカなどを抽出溶媒として使うと、結局半分以上が水なので、結局水抽出物も含まれることになります。できるだけ、ほぼ100%に近いアルコールを使うことで水からのだしとの差別化が図れるはずです。
ということで、本研究の目的は、エタノールからだしを取るです。やってみましょう!
だしの出そうなもので、水分をあまり含んでいなさそうな食材を10種を準備。
まず、和食だしの基本、昆布。
そして、かつお節。
シイタケ。
にぼし。
ホタテ。
ビーフジャーキー。
ミックスナッツ。
ゆでた卵黄。
乾燥エビ。
天津甘栗。
実験用の純度の高いエタノールはもちろん食用には使えませんので、市販されていてアルコール度数が最も高いお酒は、ポーランドのウォッカ「スピリタス」でしょう。アルコール度数が96%あります。
密閉ビン内に、食材約5 gに対してスピリタス50 mLを入れ、アルコールが揮発しないように、冷蔵庫で2日間おいておきます。
昆布のだしのL-グルタミン酸、かつお節のイノシン酸のエタノールへの溶解度は、水よりも小さいことがわかっています。既存の味の成分は、エタノールでは抽出されにくいですが、梅酒でわかるように香り成分などは水抽出とはちょっと違ったものが取れるでしょう。
つづく。