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閑話 暗部の終わりと温泉運営
【とある国の諜報員達が体験したちょっと恐い話/這い寄る粘液からは逃げられない】
[時間軸:???]
太陽がゆっくりと山脈の狭間に沈み始め、もう少しで夜がやって来る逢魔時。
空には飛行型モンスター達が奇声を発しながら飛び交い、獲物を見つければ舞い降りて鋭い爪や毒の嘴を突き立てて肉を抉り、大量の血を地上に降らす。
大地には荒野や森林を駆ける獣型や爬虫類型といったモンスターの咆哮や断末魔が響き、鋭い爪の生えた腕の一振り、あるいは鋭牙を用いた噛みつきなどによって互いの血肉を削っていく。
そうして世界に点々と生じる血と臓物の臭気が立ち昇る場所には、喰う者と喰われる者の姿があった。
強力で凶暴な夜行性のモンスターが本格的に活動し始め、熾烈な生存競争が今日も始まったのだ。
しかしここ――シュテルンベルト王国王都≪オウスヴェル≫はそんな自然に対し、空からの脅威には【魔法】や【魔法薬】などを使って、地上からの脅威には周囲に高く頑丈極まりない城壁を築く事で対抗していた。
そうする事によって夜になれば城壁近くを放浪する事もある外敵も、侵入する事は過去一度もできてはいない。
長い年月をかけて築き上げられた城壁によって、今宵も国民は安全と平和が保障されていた。
そんな王都には【異界の賢者】が考案・開発した魔晶街灯が道路に一定間隔で設置されている。
流石に昼間の様にはいかないが、魔晶街灯の明かりによって周囲の様子は夜目の利かない人間でも見える為、本来ならば就寝するような時間でも人々の営みは続いていた。
とはいえ、魔晶街灯などによる明かりも完全に夜闇を無くせるモノではない。
酒場など夜という時間帯でこそ活気に満ちる場所ならば、店が設置した照明具と魔晶街灯の明かりだけでヒトが昼間より集まるには十分だが、しかしやはり昼間と比べてヒトが居なくなる場所というのは非常に多い。
それは仕方の無い事なのだが、つまり悪事を働きやすい環境が王都の至る所で自然と出来上がっていた。むしろ下手に明るい場所があるだけに、暗い場所はより暗くなっている。
だから夜が近付けば自然と家路につく者は増え、外を出歩くヒトの総数は昼間に比べれば少なくなっている。
そしてヒトが少ない、複雑に入り組んでいるので不慣れな者だとほぼ確実に迷ってしまう薄暗い路地裏を、一人の旅人が歩いていた。
長年の使用によってかやや草臥れているフード付き外套を革鎧の上から着込み、腰には護身用だろう短剣を二本下げ、着替えや携帯食糧、鍋やテントなどの野営道具が詰め込まれた大型の背嚢を軽々と背負う、凡庸な容姿の小柄な中年男性である。
長年の旅で日焼けして色が抜けたのだろう茶髪は頭皮がうっすらと見えてしまう程細く薄く、そよ風に吹かれてなびくと何処か哀愁を誘う。
荒れた肌には長年の苦労を訴えるように無数の傷跡が刻まれ、身体の動きは年齢によるものか億劫そうだ。
やや垂れた薄緑色の瞳の下には、薄らとくまもできている。
「あ~全く、やれやれ。今日の仕事もきつかったぁ、肩が凝る」
一般的な旅人の姿をした中年男性は、暗く狭い道を抜け、角を何回か曲がった後、離れてはいるがやっと見えてきた目的地――宿屋【山羊の拠り所】の看板を見て、ホッと息を吐き出した。
その姿は本当に疲れ果てた様子で、少しでも早く休みたいのだろうと推察できる。
中年男性の目的地である【山羊の拠り所】は、王都では一般的な煉瓦造りの二階建て宿屋だ。
一階の半分は宿の食堂兼酒場になっているのだが、宿屋の立地的に予め知らないと辿り着くのが困難なので新規の客はやや少ない。
しかし元冒険者だったという美人女将によって作られる料理は安い、量が多い、美味しい、の三拍子が揃っている。
しかも女将の子で若く可愛い看板娘の姉妹が居るとあって、数がそれほど多くないとはいえほぼ毎日常連客によって全席埋まる、近所で評判の店だ。
宿の二階には小さいながらもゆったりと寛げる落ち着いた装飾が施された部屋が八部屋ほど用意されている。
ちょっと珍しい事に簡易ながら個別にシャワーが取り付けられているので、旅の疲れが落しやすいと好評だ。
その分平均よりも料金はやや高いのだが、シャワーなどの設備からすれば安い部類となっている。
ちなみに現在、宿に泊まる手続きをするにしては些か遅い時間なのだが、事前に予約しているので中年男性が今日は満室なので泊まれない、なんて事にはならない。
宿につけば女将と看板娘達が笑顔で出迎え、中年男性の泊まる部屋に設置された柔らかいベッドは彼を優しく受け入れるだろう。
だんだんと近づくにつれ宿屋の一階の食堂から中年男性の下まで漂ってくる、様々な料理の美味そうな匂いと酒の香り。
僅かだが聞こえるのは酒で酔った男達の陽気な笑い声と、食器が当たる甲高い音。
それ等に食欲は激しく刺激され、疲れた中年男性の身体が、栄養を寄こせと腹を鳴らして訴え始めた。
(あぁー、宿についたら、まず飯だな、うん。それで、アッツアツの焼き鳥を一気に喰う。口に広がるのは焼けた肉と野菜と塩の味で、そんでちょっと辛い酒……たまんねぇな)
中年男性はもう少しで味わえるだろう酒と料理を想像し、間抜けな笑みを浮かべながら宿屋に向けて歩む速度を速めようとして、しかし立ち止った。
立ち止ったのは中年男性の前に、ヒト一人がようやく通れる程度の路地陰から二人の若者が出てきて進行方向を塞いだからだ。
出てきた二人の衣服は王都で暮らす一般人のそれと大差ないモノだったが、しかし濃い血の臭いが服と肉体に染み込んでいる事から、ただの一般人ではなかった。
多少の血の臭いならば、酔った末の喧嘩などによって付着する事もあるだろう。
現れた若者達はそう何着も衣服を購入できるほど裕福そうには見えず、その汚れ具合から代えは無いか、少ないのだろう。洗濯しつつ、長年着回しているに違いない。
それに怪我をしても治療するにはそれなりの金額が必要になるので、余裕のあるヒトでない限りは多少の怪我なら自然治癒に任せる事が多い。
だから血気盛んな年頃ならば、衣服や肉体に血の臭いが多少しても驚く事ではない。
だが二人が纏う血の臭いは余りに濃すぎた。
喧嘩や事故による怪我によって流した血が染み込んだ、なんて段階は大きく超している。
モンスターを何十体も殺したか、あるいは同じ数のヒトを殺めたか。
そのどちらにせよ、二人が生物の殺し方をよく知っていると言う事は染みついた血の臭いだけでなく、自然と行っている足運びや身体の動かし方、あるいは手に持つ刃渡り二十センチほどのダガーと、小振りだが頑丈な造りの手斧を扱う様子から容易に推察できた。
(多少はやる。けど、足の動きがどちらもぎこちない。冒険者か傭兵をやっていたが、怪我して引退、気性が荒くて職に就けず、犯罪に手を染めた、って感じかねぇ)
中年男性が癖で行っていた二人の考察を終えた時、ダガーを持つ男がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。
「はーい、止まれおっさん」
手に持つダガーを素早く左右に振り、威圧をかける。
馬鹿にしたような口調だが、その目は油断なく中年男性の動きを見つめていた。不自然な動きを見せれば、迷わずダガーで刺しにくるだろう。
そしてダガーの男の横に立っているトマホークを肩に担いだ男も、笑いながら口を開いた。
「ちょーっとコッチ来てくんないっすかね? じゃないとちょいと痛い目にあうっすよ?」
「そうそう、ちょっと貧しい俺達に恵んでくれればいいからさ。取りあえず腰の短剣くれないっすかねー?」
「といって、全部貰えるもんは貰うんですけどね」
『ギャハハハハ』
――不愉快極まりない、下卑た笑い声だ。
と中年男性は内心でそう思いながら目の前の二人を冷めた目で見つつ、自分の思いが伝わるように深いため息を吐き出した。
「ハァァァァァァ……」
ありありと、無駄に貴重な時間を消費させられて不快極まりない、と言いたげである。
【追剥】
二人は比較的治安の良い王都では珍しいが、しかし居ない事もない種類の存在だった。
彼等は持つ者から物資を略奪する、犯罪者である。
と言っても、この二人はまだ小物の部類だ。
国の中心である王都だとしても関係ないとばかりにヒトを殺し、財を奪うような極めて厄介で頭のネジを無くしたような輩ではない。
彼等は確かに荷物を奪うのだが、姑息で多少の悪知恵が働き、流石にこのような場所でヒトを殺してしまえばどうなるかを考えられる程度の知性は持っている。
その為に言葉で脅し、状況で脅し、武器で脅し、人数差で脅す。
それで獲物が屈すれば良し、屈しないのなら手足を軽く傷つけて逃走、あるいは殴り倒して物を盗る。
国軍に追われればどうしようもないので、ギリギリで殺しまではしない。
それが彼等のやり方だ。
今は落ちぶれてしまっているが、中年男性の読み通り、かつては彼等も冒険者として夢見ながら旅していた。だが仕事中に大怪我を負い、引退してからはこうして日々の生計を立てている。
引退しても挫けず真面目に働いていればもっと違う未来があったのかもしれないが、彼等はそれをしなかった。
そこそこの才能があり、悪運があり、高くはないが低くもない、というレベルの戦闘系【職業】を有していたからだ。
怪我で本領は発揮できないとはいえ、それでも一般市民相手ならば有用だった。
そして犯罪に手を染めれば、普通に働くよりかは確かに楽に金を稼げてしまい、彼等はそれで味を占めた。
そしてそれが故に、ある日彼等の死神に遭遇してしまうという結果に導いたのだから皮肉な事だろう。
「最近の若いもんときたら、まだ健康な肉体を持つというのに、こんな下らない事をするとは情けない。全く、情けない」
中年男性の前に居る二人からすれば、この行動はただの小遣い稼ぎ程度にしか思っていない。今まで何度も繰り返してきた手順であり、ある程度慣れてしまっていたからだ。
例え武装していようとも、自分達なら中年男性程度は一捻りできる、と思っている。
だから、中年男性の態度に怒りを覚えた。獲物に舐められて逆上しないほど彼等の気は長くなく、それは相手も同じであった。
「あぁ? 何言っ――ゲピュオ」
ダガーを持つ男が、突然奇妙な声を上げ、前のめりに倒れた。
まるで支えを失って崩れ落ちた建造物のような有様だったので、石か何かでぶつけたのだろう、ダガーの男の頭からは血が流れ出す。
口からは吐瀉物を勢いよく地面に撒き散らし、痛みを和らげようと本能から両腕を腹部に巻きつけ、震えながら悶絶している。
顔や服が吐瀉物で汚れていくが、そんな事を気にする事すらできていない。
「だから、実験体には丁度いい」
少々特異な戦技によって赤い燐光を宿した中年男性の拳はダガーの男の腹部に炸裂し、ただの一撃でダガーの男を無力化した。
――戦技【毒侵拳】
そもそものステータス差やレベル差などによって通ったダメージ量は甚大であり、それだけで行動不能となるのは十分だっただろう。だが攻撃対象に状態異常【毒】を付与する【毒侵拳】は、一際強く体内からダガーの男を苦しめる。
許容値を大幅に超えた激痛によって地に倒れたダガーの男は身体全体から脂汗を流し、空気を求めるようにパクパクと喘ぐ。顔からは血の気が引いて真っ青になり、虚ろな目は忙しなく動き、声無き悲鳴を上げ、悶絶しながらも意識はギリギリのところで保たれていた。
それは怪我をして万全でないとはいえ、鍛えられた彼自身の肉体強度が関係していたのだが、この場合は気を失っていた方が幸運だったに違いない。
失神しそうなほどの激痛を感じながら少なくない時間を過ごし、トドメとしてボールを全力で蹴るような攻撃を頭部に受けて完全に意識が消し飛ぶまで、彼の意識は確かにあったのだから。
せめて一撃で沈んでいれば、その後の激痛を感じる事もなかっただろうに。
ダガーの男はまだ死んではいないが、ビクンビクンと痙攣する様は直ぐには動けそうになかった。
「……へ? ――アガピョ」
相棒に何が起きたのか理解できなかったトマホークの男は、一瞬間抜け面を晒した後、ダガーの男と同じく攻撃を受けた。
中年男性が両手首につけているバングルに仕込んでいた暗器の一つ――掌に収まる長さの鉄針が、戦技によって高速で投擲されたのだ。
赤い燐光を宿した鉄針が命中した下顎骨は砕け、尖端から分泌される紫色の毒液がトマホークの男の身体を内部から侵す。
急速に回る毒素によって今度は意識が消えた事も自覚しないまま、グニャリと全身の骨が無くなったかのような動きで地面に倒れた。
小物だったとはいえ一瞬で武装した敵を無力化した中年男性は、意識を失った二人を路地裏の片隅にまで運び、その懐を物色する。
目当ての財布を取り出したが、財布には大した額は入っていない。銅貨銅板が殆どで、銀貨はたったの一枚だけだ。
しけている。
それに多少の苛立ちを覚えつつ、中年男性は最初の目的である宿屋に歩みを進めた。
さほど歩く事もなく宿に到着し、簡単な手続きを済ませ、食堂の空いていた椅子に座って荷物を足元に下ろし、さっそく晩飯を注文した。
注文を取りに来たのは二人いる看板娘の片割れである、妹のクルルだった。歳は十四と若く、天真爛漫な笑顔が可愛らしい。ちょこちょこと歩く様は小動物を彷彿とさせ、大人びた魅力を持つ姉のミラールとの対比がより引き立っていた。
「こんばんは、イースさん。ご注文は?」
「とりあえず、焼き鳥の塩二人前、生ジョッキ大、あとは本日のオススメと、シーザーサラダ」
「はーい、他には?」
素早く注文を注文書に書き、小首を傾げながら他に無いか訊くクルルに、中年男性――イースは微笑を浮かべ、しかし目は笑わずにクルルに言った。
「そうだな、じゃあ、今外で寝ちまってる連れが二人いるんだけど、そいつ等の分は部屋に運んでくれないか? もちろん料理は、肉を野菜で包んだロールキャベツを頼むよ」
「……はーい、分かりました。それじゃ、ちょっと待っててくださいね。キチンと調理しますから」
「ああ、任せるよ」
可愛らしく笑うクルルを見てイースは今度こそ本当に微笑み、少しでも早く料理が来ないかと思いながら待ち続けた。
~p(= 3 =)p~
飯を満足するまで食べた後、イースは自分が泊る部屋に鍵を使って入る。
中央に設置されているのは白いシーツがかけられたシングルベッド、その脇には物を入れる為の鍵付き収納箱があり、出窓には花瓶に活けられた色鮮やかな花、天井から吊り下げられたカンテラ型マジックアイテム、その他細々とした家具や装飾品のある部屋だ。
入口のすぐ横にはシャワールームが設置されていたが、イースはそれを過ぎてベッドの傍に背中の荷物を下ろし、そして壁に掛けられた小さな絵画の前に立った。
絵画は青い小川と佇む白ワンピースの少女が描かれたモノで、確かによく描けてはいるのだが、高価な品ではない。
これは貧乏な【画家】が小遣い稼ぎの為に製作したものであり、あくまでも部屋の雰囲気を演出するだけの小道具だ。
しかしこの絵画の裏には、とある秘密が隠されている。
「えーっと、番号は……」
絵画の裏にある壁には、目立たないように細工されている小さい金属板が埋め込まれていた。0~9までの数字が刻まれた金属板は、イースによって決められた数字が押されていく。
十桁の番号が全て押されると、部屋に変化が起きた。
金属板のすぐ横の壁の一部が左右にスライドし、下に降りる秘密の螺旋階段がその姿を露わしたのだ。
部屋は二階にあるのだから一階に続く階段かと思えば、明らかに一階よりも下、地下に続いていくほど深い階段である。
壁には光源としてカンテラが幾つか吊り下げられているので、視界はそれほど悪くない。
「さーてと、今回の報告は気が進まないなぁ……」
その螺旋階段を、イースは下りていく。
踏み抜き防止用の鉄板が仕込まれたブーツが木製の階段を踏みしめる。
そこで普通ならば木が軋み、足音が鳴るだろう。
だが、イースは無音で階段を居り続けた。呼吸音すら耳を澄ましても聞こえてくる事はない。
それはイースが特殊な訓練を受けた人間である事の証明であり、実際にイースは他国から王国に潜入している諜報員の一人である。
そういった事情から今回イースがここに来たのも、秘密の拠点であるここに居る自分の上司に定期報告をしに来たからだった。
そして階段の終点に至り、すぐ目の前にある扉。
この先にはイースが所属する組織が王国内での本部としている、王都の地下に張り巡らされた下水道などの一部を独自に改良・改造して造られた防音性の極めて高い地下室が広がっている。
これはもちろん違法だが、そもそも他国の諜報員がそんな事を気にする筈もない。
そしてその存在が発覚すると裁判無しの問答無用で投獄か、あるいは処刑されてしまうので、この部屋に入るには壁を壊すなどの力技を除き、先程イースが下りてきた螺旋階段を使うか、地下道の一画に隠された脱出路からしか入れないようになっていた。
「失礼します、隊長」
三回のノックの後、返事を待たずにドアノブを回して中に入ると、そこは整理されてはいるが整頓されていないというやや矛盾している部屋が広がっていた。
中央には会議用の巨大なテーブルが置かれ、その上には様々な秘密書類が置かれている。書類は丸められている物もあれば、無造作に広げたままの物もあった。
部屋の右側の壁には捕虜を入れておく為の牢屋が設置され、現在も実際に二人ほど入れられていた。
入れられているのは先程イース達に絡んできた若者だ。彼等が牢屋にいるのは食事の時に、クルルとのやり取りで二人を地下の牢屋に入れるように頼んでいたからに他ならない。
こうして捕虜となった彼等は、これからイース達が調合する新しい毒が生物にどう作用するか、解毒する薬の適量は一体どの程度なのか、などを調べる為の実験体として使い潰される予定である。
牢屋には鉄柵の代わりに、魔法によって強化された特殊ガラスが嵌め込まれている。
ガラスにはコチラからはアチラが見えるが、アチラからはコチラは見えないようにする為のマジックミラー加工が施されていた。
なので簡単な治療を施され、やっと動けるようになってきている二人が現在の状況を全く分からず、慌てふためいている様がイースからもよく分かった。
左の壁には個人用のテーブルとイスが幾つか並べられ、仮眠室に通じる扉が設置されている。
普段なら何人かそこで寝ているのだが、今日はどうやら全員出払っていて居ないらしい。
部屋に居るのは、イース含めたったの二人だけだった。
最後に、扉の真正面であり部屋の最奥である場所にはここを取り仕切る隊長用の机と椅子があり、既に本人が座っていた。
椅子に座るのはイースの上司であり、心底尊敬している狐虎人族の偉丈夫。その名はファルグ・フォルク・タイード。
遥か昔に東方からやって来た四尾の狐人と、それを打倒し嫁に迎えた虎人の血を受け継ぐ家門の末席に名を連ね、生来の異能と高い身体能力を混ぜ合わせた独特の戦闘能力を誇る古強者であった。
イースよりも僅かに年上ながら、その見た目は若々しいモノである。
「遅かったな、連絡を聞こうか」
「ハッ」
黄色の体毛と狐の耳、細く鋭いがどこか優しさのある双眸、精悍な虎の容姿、筋骨隆々の巨躯を包むのはピシッと引き締まった黄色と白色を基調とした軍服。
何処の国の所属かは分からないよう独自に改造された軍服はファルグにとても似合っており、すぐ脇に置かれた分厚いサーベルがより一層その魅力を引き立てる。
イース程度ならば瞬き一つの間に首を斬り落とせる彼は、その報告を受けて苦渋の面を見せた。
「やはり黒い使徒鬼……か」
「はい、彼奴が来てから、消えた裏の人間は数知れず。犯人を断定する証拠という証拠もありませんが、ほぼ間違いないかと」
「そう、だな……」
現在イース達諜報員を悩ませるタネは、ごく最近やってきて、王都の話題を独り占めしているとある鬼人の事だった。
圧倒的な武力を闘技場で見せつけ、王女に雇われて護衛しながら城下町を放浪している姿は何度も目撃されている。
ただ、これだけならば特に問題はない。
イース達からすれば収集すべき情報が増えただけで、直接的な害はないのだから。
だが、鬼人が現れてからしばらくして、イース達のような王国に潜り込んでいる諜報員が、他国の者も含め、次々と謎の失踪を繰り返していた。
状況などは色々と異なるが、共通していつの間にか居なくなっている。イース達の組織にも、行方不明者が出ているほどだ。
もしかしたら、ここに来ていない者の中には既に居なくなっている者も居るかもしれない。
そしてその原因は探れば探る程、その影をちらつかせるのが件の鬼人だった。
今回イースが行っていた仕事も、全てそれ関係の情報を収集する為だった。
ちなみに情報収集は仕事柄し慣れているのだが、もしかしたら自分も、と思えば思うほどイースは精神的にも肉体的にも累積されていく疲労が普段以上のモノとなっていた。
「一旦、本国まで撤退した方がいいのかもしれないな。だが、そうなるとまずは……」
眉間に皺を寄せるほど悩んだ末、ファルグが今後の方針を口に出した。
正体がハッキリとしない敵に狙われ、危険度が増したので本国に帰る。
それだけを聞けば臆病風に吹かれたと思われるかもしれないが、王国での仕事の実に九割を消化しているファルグ達からすれば、そろそろ報告にかこつけて本国に帰ってもいい頃合だった。
しかしそうなると、色々とやらなければならない事は多い。
「そうですね、流石にこんなのと戦いたくは……ん?」
上司であるファルグの意見に同意するイースだが、小さいながら奇妙な音を聞いた気がした。
……ズルリ、ズルリ。まるで粘液が這うような音である。
「ん? どうした、イース」
イースの行動に不審を覚え、思案を一時止めて顔を上げたファルグは訝しむ。
頭の狐耳が、疑問でピコピコと動く。優しく訪いかける虎の顔は、まるでヌイグルミのようだった。
「いえ、何か変な音がしませんでしたか?」
「そうか? 別に私は……いや、ちょっと待て」
一時は否定しかけたファルグにも、その音は届いた。
……ズルリ、ズルリ。粘液が這うような音である。
何処となく不快感を抱かせる音に、ファルグの眉間には皺が寄り、警戒心からか鋭い牙がチラホラと見え始めた。
現在、この部屋にはイースとファルグの二人だけしかいない。
一応隣の牢屋には実験体を放り込んでいるが、防音材によって互いの音や振動は吸収されているので、何か聞こえるはずも無い。
だというのに、部屋で聞こえた奇妙な音。
明らかな異変である。
それを理解すると同時に、部屋の温度が一気に下がったような重苦しい空気に満ちた。常日頃から公表できないような暗い場所で戦いを繰り広げてきた二人の警戒心は、一瞬で最大値にまで跳ね上がる。
……ズルリ、ズルリ。粘液が這う音がする。
「なにか、いるな」
ファルグが椅子から立ち上がり、愛用のサーベルを鞘から抜いた。
黄色い剣身は部屋を照らす光を反射し、キラリと輝く。持ち主と共に歴戦を乗り越えた業物のサーベルは、獲物を求めるかのように鳴動を始める。
「蟲、でしょうか。どこかしらから入り込んだとか……」
「いや、それはない。魔法薬で蟲の類は入れないようにしているし、魔蟲の類も殆ど入る事はできないはずだ。……それならまだよかったのだがな、これは、もっと性質が悪いぞ」
懐から毒濡れの短剣と毒を注入する鉄針を取り出し、周囲を警戒するイースの意見をファルグは却下した。
獣人として高い索敵能力と戦いで培った経験から、正体はハッキリとしないながらもファルグは既に蟲の類ではなく、もっと厄介な存在だと看破していたのだ。
僅かな油断もなく身構える二人の視線は何かが隠れられそうな物陰に自然と向かい、僅かな物音も逃すまいと耳を澄ませ、鼻をひくつかせて臭いを嗅ぐ。
鋭い獣人の感覚器官を使って正体不明の気配を探るが、しかし結局何も分からない。
ただ二人に走る悪寒だけは変わらず、警戒心がより一層強くなる。
ズルリ、ズルリ。粘液が這い寄るような音が聞こえる。
「これは、何だ。一体、何だ?」
ファルグのうなじが粟立つ。
近づいてくる危険な何かを感じ取って、身体が自然と反応を示すのだ。狐耳は正体不明の何かに震え、虎の顔は牙を剥き出しにしてグルルと唸り声を上げた。
――ズルリ、ズルリ。また粘液が這い寄る音が、ハッキリと聞こえる。
今までよりも、ずっと近くで。
そして部屋を照らす照明が、急に点滅し始めた。それに驚いて慌てて周囲を見回す二人は、明暗が激しく切り換わる部屋でそれを見た。
「……隊長、あれ」
そこに至って、ようやくイースがその異変を発見した。
目に見える異変が起きていたのは、二人が居る部屋からではなかった。
震える指先が、異変の原因に向けられる。
「見つけ……あれはゾンビスネイル、ではない? 似ているが、違うようだな」
ファルグは周囲の警戒を怠る事なく、イースが指差す方向を見た。
実験体として拉致した若人二人が入れられ、現状を全く理解できずに暴れまわり、声は聞こえないが確かに何かを叫んでいた、牢屋。
そこで、異変が静かに始まっていた。
『パラ・ベ・ラム・パラ・ベ・ラム』
牢屋からの音は本来なら聞こえないはずだった。
だがしかし二人は確かに奇妙で奇怪な音を聞き、それの赤い眼球が二人を捉える。
声音と視線だけで、二人の精神が汚染されるような悪寒が走った。
この世界には“腐肉蝸牛”というモンスターが存在する。
密林地帯から砂漠地帯、果ては高原地帯と生息域は幅広く、生活環境や種類によって大きく異なるが基本的に青銅以上の硬度を誇る殻を背負った【陸貝】系の中でも、とりわけ凶悪で特殊な部類のモンスターだ。
ゾンビスネイルは自前の殻を成長に合わせて生成していくのではなく、やがて腐る動物の死体に巣食いそれを殻とする、という特徴を持っている。
その為ゾンビやスケルトンなどが発生しやすい墓地や戦場跡などでよく目撃され、殻とする死体の腐食具合によっては悪質な病原菌を撒き散らす事も多い。
過去には町一つがゾンビスネイルの撒き散らす流行り病によって滅んでしまった事もあるくらいだ。
なので駆除依頼は非常に不人気なのだが、急を要する強制任務として扱われ、即座に討伐されている。
不人気なのは命知らずの冒険者や傭兵達も、治療法が見つかっていないか、見つからないかもしれない病気になるのは御免と言う訳だ。
しかもその性質上、強制的に討伐に赴かねばならない可能性もあるので毛嫌いされている。
そんな依頼が張り出されれば、頭の回る者は一時姿を眩ませる事もある、と言えば多少は脅威を理解しやすいかもしれない。
そして何より、病気を撒き散らすという特性だけでも厄介なのだが、殻にする死体が亜竜種や巨人種など巨躯を誇る存在になれば、ゾンビスネイルの本体である軟体部も巨大化する。
しかも殻が生前有していた特性の一部――人外の怪力や、亜竜のブレスなど――を極低確率ながら引き継ぐ事もあり、厄介さは個体個体で大幅に異なるが、最大で【災害指定個体】とされる事も過去にはあった。
牢屋に入っていたのは、その亜種か上位種とでもいうような何かだった。
まるで絞った雑巾のようになった実験体二名の死体を殻にしているのは、普通のゾンビスネイルと変わりない。
だがつい先ほどまで生きていた人間を殻とするのは、少々疑問が残る。
ゾンビスネイルは、死体という殻を得た時からゾンビスネイルという存在になる。
殻を得るまでの間は、“蛞蝓”形態で様々な場所を徘徊するものだ。
ならばこの異音はゾンビスネイルの本体が這っていた音であり、死体を得てゾンビスネイルとなった。そう考えられない事もないが、まずそれはあり得ない。
部屋の場所が場所だけに、特にスライムなど小さな隙間から這いずってくる類のモンスターに対しての対策は万全だ。
複数仕掛けられたそれ等は、殻を得る前のゾンビスネイルに突破される程温くない。
だから、外から這入って来た、と言う可能性はほぼ皆無と言っていいだろう。
「もしや、最初から寄生、していたのか?」
外からゾンビスネイルの本体が来たのでないとするならば、内側――既に二人が本体に寄生されていた、と言う事になってくる。
そうだと考えれば亜種か上位種だという可能性が高くなり、生理的嫌悪を引き出す現在の姿形も頷ける。
「――なんと、気色の悪い」
イースはあまりの不快感で顔を歪めた。
捻じれながらも天を向いている頭部の、本来ならば眼球があるはずの場所から飛び出し、うねうねと蠢く無数の黒い触手。目がイソギンチャクの様になっている、とイメージすれば分かりやすいだろうか。
それだけで十分気持ち悪いのだが、顎関節が外れるほど開かれた口からは大量の粘液が流れ出し、溢れ出ている粘液の先端には拳くらいの大きさの赤い眼球が形成される。
出来上がったばかりの眼球がギョロギョロと周囲を見回す様には怖気が走り、イース達は気持ち悪さで微かに震えた。
それに気を取れられていると、肉殻の胴体中央が内部から弾ける。まるで小さな爆発が起きたかのようで、周囲に飛び散るのは赤い肉片。
ガラスの一部が赤に染まる。
血の噴水が噴き出す孔からは、新しく黒く太い触手が一本飛び出した。恐らくは胸が弾ける原因になったのだろう触手の先端には、もう一つの眼球が新しく形成されていく。
忙しなく周囲を探る二つの眼球が、マジックミラー加工が施されたガラス越しだと言うのに、しかりと二人を見つめていた。少なくとも、イースはそう感じた。
そして軟体部にできた大小無数の口が、空気を振動させる。
『パラ・ベ・ラム・パラ・ベ・ラム』
そうしてゾンビスネイルのような何かが奇妙な音を発し、ガラスに張り付いた。
張り付くとゾンビスネイルの軟体部の底面が見えるようになったのだが、そこには縦に割れた巨大な口があり、その縁には小さく鋭利な牙が無数に生え揃い、鑢のようにザラザラとした長い舌がある。
今まで体験した事の無い視覚的衝撃に動く事が出来ていなかった二人だが、ピシリ、と音を立てて亀裂が走るガラスを見て我に返った。
正体不明の何かと同じ部屋に居るなど、流石に暗い世界を住処とする二人と言えど、許容できる物ではない。
「逃げるぞッ!! イースは【錬金油】を撒いて火を付けろッ、私は重要物品と脱出経路を確保する!!」
「りょ、了解!!」
二人が居る部屋には、組織が集めた情報の多くが保管されている。
王国の情報を持ち帰る事を第一の任務としている為これを奪われる事は避けたいが、非常事態にはほぼ全て燃やして灰にする事は事前に決まっていた。
半分以上は既にコピーされ、別の場所に保管されているのでここにある書類が全て燃えたとしても損害は軽微だ、という事も躊躇わない理由の一つになっている。
命令されるまま、イースはファルグよりも自分の近くにある瓶に入れられた【錬金油】を躊躇なく周囲に振り撒き、指先に火を灯したが、その動きを止める事となる。
いや、正確に言えば、強制的に止められた。
「か……身体、が」
指先に火を灯した状態で、イースは石像のように固まった。
動けていないが、必死に動こうとしているのだと僅かに歪む顔を見れば理解できる。
『パラ・ベ・ラム・パラ・ベ・ラム』
それは対象の動きを強制的に停止させる【硬直】と呼ばれ、【石化】の劣化版とも言える状態異常が発生したからだった。
【硬直】状態のイースは内心で抵抗すらできなかった事に悔しさを覚えつつ、ガラスが砕かれるまでただ見ている事しかできなかった。
「逃げ、てください。構わず、燃やしてください!」
近づいてくるゾンビスネイルのような何かはもう目の前だ。
首を動かす事すら遅々として進まない状態では、とてもではないが逃げられそうにない。
ならばせめて、炎によって失態を清算しなければならない。とでも言いたげなイースであるが、そんな彼の後方に立つファルグは、イースよりも悲惨な事になっていた。
「――ッ。――――ッ!!」
「早く、早くッ。逃げて下さい!」
拠点に侵入してきた粘液は、二人が発見したゾンビスネイルのような何かだけではなかった。
イースよりも鋭敏な感覚を持つファルグですらすぐ傍に潜んでいたそれに気がつく事ができず、死角から襲いかかられて呆気なく拘束されていた。
ファルグの虎口に、大量の粘液が侵入していく。
無数の眼球と無数の口を持つ粘液を吐き出そうと、当然ファルグも反撃を試みた。
だが粘液によって四肢はきつく拘束され、異常な程の弾力と耐久力によって牙を全く受け付けないそれに対し、満足な抵抗すらできていないのが現状だ。
限界にまで見開かれた目からは涙が溢れ、その瞳には恐怖と憎悪の念がせめぎ合いながら燃えている。
だがゾンビスネイルのような何かの軟体部である粘液は、それを嘲笑うかのようにどんどんその内部に侵入していった。
呼吸すらままならなくなったファルグが白眼となって失神するのに、さほど時間は必要なかった。
「隊……長?」
背後から僅かに聞こえていた音が完全に止み、一時の静寂が訪れる。
だがイースの目の前に達してしまったそれが、奇声を発しながらイースの身体を取り込み始めた。
『パラ・ベ・ラム・パラ・ベ・ラム』
「嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ」
既に【硬直】は解けていた。
さほど持続するタイプの状態異常ではないからだが、今のイースには最早関係無い。
ファルグ同様、その身体は軟体部となっている粘液によって包まれていく。
何とか抜け出そうと悪足掻きで暴れた際、無数にある口の一つに生えた牙に腕を引っ掛けて血が流れるが、そんな事は気にする暇もなかった。
「誰か、誰かたすげグボゴォォォォォォ……」
イースの身体が完全に取り込まれるまで、僅か十秒。
標的の居なくなった部屋で、それは声を上げた。
『パラ・ベ・ラム・パラ・ベ・ラム』
もしかしたら、後ろ暗い事をした者の背後にそれは、這い寄ってくるのかもしれない。
■ З ■
「――ハッ!!」
悪夢の中で惨たらしく死に、イースはベッドから飛び起きた。
周囲を見回せば、【山羊の拠り所】の一室である。
それを理解するのに数秒を要し、溢れ出た冷や汗と寝汗が全身をグチャグチャに濡らしていた。
「ハッハッハッハッハ……ふぅーはぁー。……夢、か」
小刻みな呼吸と、破裂しそうになる程拍動する心臓を諌めるように胸に手を当て、息を大きく吐き出す。
そうして落ち着いた後、汗でべたつく服の不快感を取り除くため、シャワーを浴びようとベッドから降りたイースはふと小首を傾げた。
「ん? こんな傷、あったか?」
まるで何かで引っ掻かれたような三本傷が、右腕にあった。
既に治りかけで、特に痛みもないが、赤くなっているそれはいつどこで負ったのか、イースの記憶にはなかった。
それを不思議に思いながら服を脱ぎ、狭い浴室に入ってシャワーを浴びていると、それもすぐに忘れてしまう。
「あー、温水は癒されるなぁ……」
不快感はシャワーから流れる温水によって流れ落ち、心地よさがイースを包む。
頭から温水を被り、途切れなく続く水音だけを聞いていると、不意に、変な音が混じった気がした。
何かを言っているような、そうでないような。
本当に一瞬の事だったので、どうせ空耳だからどうでもいいかと、イースは傷と同じくすぐにその事を忘れてしまう。
『パラ・ベ・ラム』
イースの耳からニョロリと黒い何かが出て、直ぐに中へと引っ込んだ。
それに気がつくはずもなく、イースの入浴は続く。
這い寄る粘液の恐怖は、まだ終わらない。
【そうだ、温泉に行こう:エルフ達の噂話】
[時間軸:???]
≪クーデルン大森林≫
古くからエルフ達が暮らし、つい最近には人間との戦争も勃発した大森林は、既に戦争の傷跡を感じさせないほどの自然を取り戻していた。
大気は澄み、森全体が清純な自然魔力で満ちている。
そして一時期はとある理由から減少していたが、同じくとある理由から以前と同じかそれ以上にまで増えた精霊が漂う大森林の中は、その恩恵によって様々な変化が起き始めていた。
精霊は交感能力が高くないと知覚する事すらできないが、それでも精霊が居るだけで自然はより豊かなモノになり、そこで暮らすモンスターなどの平均レベルは上がっている。
もしかしたら徐々に広がっている広大な大森林の中には、今まで居なかった種が増えているかもしれない。
そんな大森林にある、大樹と共生しているエルフの里。
柵で囲われた外縁の入り口に、旅装束のやや老いたハイエルフが一人、帰って来た。
「……懐かしいな。ここは本当に、変わっていない」
ハイエルフの名は、シュベルス・フェーラという。
閉塞的で排他的なエルフの中では珍しく、外へと自らの意思で出向いた変わり者である。
森の中で一生を終える事も少なくないエルフは、犯罪を犯すなど特別な事情が無い限りは森の奥に引きこもっているのが常である。
それはエルフという種族が樹木の生い茂る場所を好むと言うのもあるが、長命種であるが故に短命な生物――その代表は人間や獣人など――と関われば不幸になる事を知っているからだ。
もし人間を愛すれば、愛した者が老い衰え、死ぬ様を見届ける事になる。
それは他の家族や友人達にも言えることであり、そしてそれは逃れる事ができない現実だ。
だからエルフは森の中で同じ長命種の同族と暮らし、病気や怪我が原因で死んでいく。ちなみに老衰となった例は殆どない。
それ以外に森を出ない理由としては、単純にエルフという種族が見目麗しいが故に奴隷商や悪徳貴族に狙われ易くて危険だから、と言う事も上げられる。
そしてエルフの上位種であるハイエルフともなれば尚更だ。
外でエルフではなくハイエルフだと正体が露見でもすれば、延命効果があるとされる生血を求め、国家元首クラスの権力者が動き出す事もあるだろう。
そして捕まれば、延々と血を抜かれながら生かされる、という結末を迎える事になる。
そんな生など、考えただけでゾッとする。
だが変わり者のシュベルスは、外の世界が危険で溢れていると知りつつも、長年胸の奥底に秘めた衝動を抑える事ができなかった。
幼少の頃から絶える事無く続いた我慢は限界に達し、森の外へ出て行く事を選択したのだった。
それが今から約二百年前の事である。
しかしそう思い立っても、簡単にはいかなかった。
シュベルスはエルフの中でも重要な役目を果たす家系の次男であると同時に、里でも個体数が非常に少ないハイエルフの一人である。
その為里では次代の担い手の一人と目され、それに応えるだけの能力があった。
矢を射れば四百メルトル先の小さな標的すら簡単に射ぬき、剣を持てばハインドベアーすら単身で斬り殺す。
書物や日々の生活によって蓄えた膨大な知識で多くの同胞を導き、敵には苛烈だが身内には非常に優しい性格なので人望も厚い。
神に捧げる舞踊やエルフ族に伝わる楽器も人並み以上に達者で、何より精霊に好かれていた。
その為、森を出ていく時には激しい争いがあったのは言うまでもないだろう。
シュベルスからすれば、長年内に秘めていた願いの為に。
エルフの里からすれば、里の重要人物を失う訳にはいかない為に。
そう言った事情から何とか説得しようとエルフ達は試みたが、まるで金属のような光沢と硬度を誇る金甲樹のように、シュベルスの心は一切変わらなかった。
結果として、仕方なく一部のエルフだけが所持する事を許されている樹剣を用いた決闘にまで発展した。
その時戦ったのはシュベルス本人と、その実父ベイカルだった。
始まった本気の親子喧嘩は熾烈を極め、戦う二人の戦闘力の高さ故に決闘場には深い傷跡が生じた。
荒れ狂う精霊術の破壊は大地を砕き、射ち交わされる無数の矢は岩さえ穿ち、それを覆い尽くす程の植物による生命爆発。
ハイエルフ同士の空中戦にも発達したその戦いは、数時間にも及んだ程である。
激戦の末に決着はついた訳だが、両者とも大怪我を負い、何かが違っていればどちらかが命を落としていただろう。
だが幸いにも死者は出ず、勝利したのは当然シュベルスである。
そして大森林を出る際シュベルスは“ラインフォール”という姓を剥奪され、一族から縁切りに等しい別れ方をして外へと出た。
だからシュベルス自身、もう二度とこの大森林に帰ってくる事はないと思っていたし、戻ってくるつもりもなかった。
外で始めた行商はシュベルスの優れた商才によって順調に成長し、今では数ヵ国を跨って商売する程の大規模な老舗商会となっている。シュベルスの意思一つで大規模な金が動き、金銭面での不自由は何一つしていない。
そしてエルフほどではないが長命種の美人な年下の嫁をもらい、百二十年ほど前に男の子が二人できた。子達はハイエルフではなかったが非常に優秀で、既に成人し、兄弟仲は良好なので協力し合いながら商会の若頭として活躍している。
しかも自慢の子達は可愛らしい嫁――商会を狙う輩かどうかは入念に調査済み。結果は潔白であり、子を心から愛している――を貰い、子も産まれていた。シュベルスからすれば、可愛くて堪らない孫である。
今のシュベルスは心の底から幸せだと言える為、大森林を出た事に後悔はない。
正しい選択だったと思っている。
しかし先の戦争が、彼の心に揺らぎを齎した。
せめて、生家がどうなっているのか知りたくなったのだ。
もし父や兄、親族が死んでしまっていたのならば、墓前に花を手向けたい。そう思ったシュベルスは暫くの間だけ妻と息子夫婦に事業を任せ、ここまで帰って来たのだった。
「どうやら里自体には被害はないようだが……さて、しかしどうしたものか。誰か居ないだろうか。ここまで来たが、なかなかに近づき難い」
なぜ帰って来たのだ、と罵倒されるだろうか。
森捨て人が、と蔑まされるだろうか。
話したくもない、と疎まれるだろうか。
不安は尽きないが、それも甘んじて受けるべきだろう。
シュベルスはそう思いながら周囲を見回していると、それほど間を置かず、見知ったハイエルフが数名のエルフを引き連れ、大樹の上から階段を使って降りてくるのが見えた。
やって来るハイエルフは、今年で三百十五歳を迎えるシュベルスよりもさらに年上のハイエルフである。
ハイエルフであるが故にとても品のある容姿であり、顎に蓄えた髭は立派で、曲がらずにピンと伸びた背中と腰は大樹を彷彿とさせる。
その姿は三百四十年も生きているなど全く感じさせない力強さがあり、纏う雰囲気は樹海のように奥深く、全てを包み込んでしまいそうな温かさを持っている。
やってきた老ハイエルフの名はエッセバ・フェールオ・ラインフォール。
正真正銘、シュベルスの実の兄である。
「よく帰ってきたな、シュベルス」
「お久しぶりです、兄上。ただ帰って来た、と言う事ではありません。先の戦争で里がどうなったのか見に来ただけなのですから。用が済めば、すぐに帰ります。その方が、里にもよいでしょうしな」
「そう急ぐ事もないのだが……しかし、変わらず健やかなようで安心した。出て行った時はどうなるか不安だったのだが、どうやら杞憂だったようだな」
「相変わらず兄上は心配症ですな。里を出た者の事など、忘れればよかったのに」
「そう言うな。たった一人の弟を心配して何が悪い。しかし、もうそれ程になるか。……この二百年で、様々な事があったモノだ。それで、シュベルスよ。父上は病で祖神様の下へ召されたのだが、遺言を預かっている。聞くか?」
過去を懐かしみ、慈しむような笑みから一変して、真面目な顔となったエッセバの問いかけに、シュベルスも改まって頷いた。
「父上が……兄上、ぜひお願いします」
「うむ。では――『我が子シュベルスよ、親としてはお前の意思を尊重したいとは思っていた。だが氏族の長として、お前を里外に出す訳にはいかなかった。子一人の自由すら守ってやれぬ、不甲斐ない父を許せ、とは言わぬ。ただ、掟によってラインフォールを名乗る事は許可できぬが、外で何かあれば、いつでも戻ってきて欲しい。エッセバにはお前と、居るであろうお前の家族を守るように頼んである。だからどうか健やかに、祖神様と世界樹の加護があらん事を願う』――と言っていた。あの父が、申し訳そうな顔をしてな」
「そう……ですか。あの、父上が……そう言ってくれて、いたのですね」
久しぶりの肉親と会話して何処か浮ついていた心境で、初めて聞いた父の本音を聞いて、シュベルスは年甲斐もなく咽び泣いた。
二人の父ベイカルは自他共に厳しい、規律を重んじるハイエルフだった。
長い月日で擦れた記憶の中の父は滅多に笑わず、常に氏族を纏める長として考え、行動していた。
そんな父が、そう思っていてくれた。
父を倒して里を出た事を恨まれているかもしれない、血が繋がっている事を疎んじられているかもしれない、などと思っていたシュベルスにとって、エッセバが語った遺言は長年の間に累積した思いの全てを解消するモノだった。
ダムが決壊するか如く、積み重ねた年月の間に溜まった涙がシュベルスの意思とは関係なく流れ続ける。
「これこれ、泣くな泣くな。歳をとっても、お前は相変わらず泣き虫だな」
そうして、慈愛に満ちた笑みを浮かながらシュベルスの頭を優しく撫でるエッセバに、シュベルスは気恥ずかしさから顔を赤く染め、苦笑した。
エッセバからすれば里を出ようと、年老いようと、今もシュベルスは可愛い弟に変わりない事が分かってしまったからだ。
いい歳したハイエルフなのに、情けない。そう思い、変わらず涙を流しながら、シュベルスは笑みを浮かべた。
「……父上に、孫や曾孫を会わせる事ができればよかった、と後悔してしまいますよ、それを聞くと」
「ほう、子も孫も居るのか。ならば今度連れてくるとよい、歓迎しよう。父上の為に、墓参りもするべきだろうな」
「そうですね、里を出た者としてはどうかと思いますが、一度家族を連れて帰ってこようと思います」
今更里に定住するつもりは無いシュベルスだが、愛妻と自慢の子、そして可愛い孫を祖父の墓参りという名目でエルフの里に連れてくるのは、せめてもの親孝行だ、と思った。
この世に父が既に居なくとも、どんな孫や曾孫なのか、見せてあげたくなったのだ。
エルフの里については子守唄代わりに語っていたので子達も興味を持ち、いつか行きたいと言っていたので、丁度いいとも思っている。
「その時が今から待ち遠しいな。さて、色々と落ち着いて語らいたいが、お前を連れていきたい場所がある。墓参りも先に一度行ってみるといい。だがその前に、お前に私の娘を紹介せねばならぬからな」
微笑んだままのエッセバが、傍に控えていたエルフの中で最も見目麗しい女エルフを横に並ばせた。
見た目は十代後半から二十代前半と若く、中性的な顔立ちで、青みがかった銀髪は腰まで伸びている。傷一つないキメ細やかな肌は処女雪のように白く、知性の光を宿した碧眼は一点の曇りもなく澄んでいた。
半透明の素材を使い、肩や背中が露出しつつも動き易さを重視したデザインの衣服は彼女が【サーラの巫女】を担う踊り手である、と言う事の証明だ。
そこまで見て理解して、だがシュベルスは青銀色の金属で造られた花の髪飾りに違和感を覚えた。
髪飾りの装飾があまりにも精巧すぎる物だったからだ。
ミスラルを材料としているのはハイエルフであるシュベルスからすれば一目瞭然だが、エルフにはここまで精巧な物を作る技術は、残念ながら無い。
戦に必要な剣や弓矢、日常生活に使用する包丁や鍋などは直せるが、まるでドワーフが作ったような芸術品のような髪飾りが何故ここにあるのか、外を知るシュベルスだからこそ理解できなかった。
それに護衛エルフの中に少数だが混じっている女エルフ達もペンダントや指輪など差異はあるが、繊細な装飾品を持っている事には驚いた。
シュベルスの疑問は、見れば見るほど深くなっていた。
そして疑問に答えが出る前に、彼女――メイル・フェールオ・ラインフォールは、シュベルスに美しい笑みを見せ、頭を下げた。
「初めまして、シュベルス叔父様。メイル・フェールオ・ラインフォールと申します。父様や叔父様同様、ハイエルフの一人ですので、以後お見知り置き下さい」
華麗な笑みと、正式な挨拶の作法。
様々な国と商談を交わしているシュベルスから見ても、高い完成度を誇る姿に思わず関心した。
そして理解する。彼女は自分の姪なのだと。ゆっくりと背中から広がる透き通る青銀の翅は、間違いなくハイエルフの証だった。
「こちらこそ初めまして、メイル殿。ただ、様は要らぬよ。ラインフォールを名乗れぬ私には、叔父、と呼んでくれるだけで十分過ぎる」
「そうでしょうか? なら、叔父さん、とお呼びしてもいいでしょうか? ただその代わり、私の事はメイル、と呼び捨てでお願いします」
「ああ、それが丁度いい。よろしく頼むよ、メイル。……しかし流石兄上の子、まさかハイエルフだとはな」
「いえ、まだ私など未熟者。父様の名に恥じぬよう、精進していきます」
「うむ、ますます将来が楽しみだ」
シュベルスはメイルの向上心溢れる姿勢に感心していると、その横から何だか悪巧みしてそうな笑みを浮かべるエッセバが話に割り込んだ。
「そうだな、メイル。またアポ朗殿に助けられたりでもすれば、良い女と思われるのが遠のくやもしれぬからな。日々精進せい」
「もう、父様はすぐそう言って」
やや赤くなった頬をぷくりと膨らませ、メイルがエッセバを見上げながら睨む。
それを笑いながら受け流すエッセバとは対照的に、全ての事情を理解できないシュベルスは小首を傾げた。
エッセバが言ったアポ朗殿、とは誰なのか、分からなかったのだ。
そしてシュベルスが何か言いたそうにしているのを見たエッセバは、シュベルスの肩に腕を回し、里の実家に向かうよう促しながら耳元で囁いた。
「お前を連れて行きたい、という場所に行けば先程私が言ったアポ朗殿が誰なのか、すぐに分かる。そしてメイル達の髪飾りなども、な」
再び悪巧みしているような笑みを浮かべる兄に、弟は何処となく不安を感じながら、二百年ぶりの故郷へと帰って来たのだった。
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大樹の根元にある父の墓参りを終えて、荷物を実家の屋敷に置いたシュベルスはエッセバ達と共にとある林道を歩いていた。
比較的最近造られたらしき林道は山方面に続いているようで、徐々にだが傾斜がきつくなっていく。
歩き慣れない者がいれば速度は大幅に低下するのだろうが、今回は歩き慣れた者しかいないので、かなり早いペースで一行は進んで行った。
シュベルスと共にいる同行者の数はシュベルスを含め二十名と大所帯で、モンスター対策として最低限の武装――武器はミスラルの弓矢か短剣、防具はミスラルで所々を補強した革鎧――はしているが、緊張感は特にない。
襲われる可能性は低いけど、何かあったら困るから一応用意はしておこう、とでも言うような雰囲気だ。
久しぶりに生まれ育った森を歩くシュベルスにとって、この辺りには大森林の生態系の中でも上位に位置するハインドベアーが生息していたような記憶があるだけに、それが不思議でならなかった。
(なぜ皆こんなにも気を抜いている? それに何かを楽しみにしているような、浮ついた様子なのは何故だ。予めモンスターを狩り尽くしているのか?)
それに何故か、代えの衣服や下着、身体を拭う為の長布などを入れた袋を全員が持っている。
かくいうシュベルスもエッセバから同じような袋を持たされ、肩に担いでいた。
最初は川にでも行くのかと思ったが進んでいく方面に川は流れていないはずなので、二百年の間に地形が変化していない限りはその可能性も低かった。
考えれば考えるほど、何処に向かっているのか分からなくなる。
一切教えられていないシュベルスは道中で何度もエッセバに尋ねたが、しかし。
「何処に行くのですか、兄上」
「秘密、にしていた方が面白いから、秘密だ」
悪巧みしたような笑みにそう言い添えるだけだったので、途中からはシュベルスも聞きだすのを諦め、黙々と後に続いた。
それがどれほどの時間続いただろうか。
最初は気のせいかと思っていたが、林道を進めば進むほど、次第に大森林中に広がっている精霊達の気配がより濃くなっていった。
ハイエルフであるシュベルスには語りかけてくる精霊の声が聞こえ、姿も見る事ができた。だがこの先に何があるのかについては、予めエッセバに口止めされているのだろう、微笑むだけで教えてはもらえない。
再度訪いかけるが、またも秘密と言われた。
エッセバの対応にいい加減苛立ちを覚え始めたシュベルスだったが、しかし唐突に途切れた樹木の境にて、それを見た。
簡潔に表現するならば、≪秘境にある要塞≫だった。
森の奥地に集落がある。これはまだいいだろう。エルフの里も、それと同じようなものである。
そして外敵に対する備えは当然だ。そうしないとモンスターに襲われて喰われてしまうだろう。
だが目の前のそれは、普通とは備えの桁が違っていた。
周囲に張り巡らされた外敵を阻む防衛兵器は目立つものだけでも外縁部から、無数の逆茂木、逆茂木を避けて通るルートに隠されたリリウム、空堀と水掘という二種の環濠、地面から屹立した高さ八メルトル横幅三百メルトルはあるだろう巨大な岩壁、そして岩壁の上にやや外にはみ出した木造の何かが設置されている、となっている。
シュベルスは岩壁の上に設置されているそれが何なのかは分からなかったが、それは藉車と呼ばれる物で、城壁に取りついた敵兵の頭上から木石や熱湯を落とす為に考案された代物だった。
車輪が取り付けられているので簡単に動かせるそれは、矢などを防ぎながら下方の敵を比較的安全に屠れる為、防衛戦の時に役立つ。仮に壊されても残骸を落してしまえばそのまま敵を攻撃できるので、無駄が無い。
正直、エルフの里もそれなり以上に防衛力はあるが、こことは比べるべくもない。
何気に逆茂木の一つ一つにまでエンチャントが施されているなど、どれほどの手間をかけたのか正確に測る事は困難だった。
「ほら、シュベルス。ぼさっとしてないで、さっさと行くぞ」
驚きから立ち止って見ていたシュベルスを置いて、エッセバ達は既に歩み始めていた。
今まで歩いてきた林道はここで一旦途切れ、そこから要塞までの距離は百数十メルトルほど。それだけ離れていて要塞の姿が見えたのは林道と要塞の間にある木が全て伐採され、見晴らしが非常に良かったからだ。
ただ木が無いからと言って緑が無い訳でなく、ポッカリと空いた空間は小さいながらも草原となっている。そして恐らくこの草原はあちこちに仕掛けられたトラップを隠す役割を担っているのだろう。
シュベルスの耳元で、下手に草原を歩かない方がいいよ、と精霊達が優しく囁いているからだ。
そんな草原を真っすぐ貫くように、林道から要塞の正門まで石畳が敷かれている。
石畳のほぼ全てが同じ大きさの正方形によって形成されている事に気付き、シュベルスは目を見張った。
王都などではよく見られる石畳も、ここまで同じ形の石を使った物は早々見られるものではない。
(これを見ただけでも、要塞を造った者達の技術が窺えるな。それに、徹底的だ)
石畳だけでも驚いたが、注目すべきなのはそれだけではない。
途中にある二つの堀には分厚い板の橋が架けられ、荷物を乗せた馬車が数台乗っても壊れそうになかった。
これにはどうやら二種類のエンチャントを施しているらしく、この橋は一種のマジックアイテムとなっていた。
逆茂木もそうだったが、橋にまでわざわざ高度な技量を要求するエンチャントを施すとは驚きを通り越して呆れそうだった。
しかもよくよく細部まで見ると、防衛時には爆発する事で敵を阻み、攻撃するようになっているらしい。
橋に至るまで敵を徹底的に殺す事を目的としている事に、商人であるシュベルスでさえ恐怖を抱いた。
ここを攻め落とそうとするのなら、一体どれほどの戦力を用意し、どれほどの損耗を覚悟しなければならないのか、分からない。
そこまで観察して、シュベルスは視線を下から前に向けた。
すると丁度、巨大な正門も今は解放されているので中の建造物を見る事ができた。
(あれは……また珍しい様式の建物だな)
見えた建造物はこの辺りではあまり見ない建築様式だと、一目で分かるモノだった。
煉瓦を使用している風ではなく、また木だけを材料にしている訳ではない。木と土と紙と、煉瓦のようで違う何かによって造られていた。
シュベルスが二百年の外界生活で収集した知識の中だと、東方にある島国で見た屋敷が一番近いだろうか。ただ平民が暮らしているような質素なモノではなく、貴族のような特権階級の者たちが暮らしていた、立派な造りのモノである。
色々と考えながら、小走りで横に並んだシュベルスの反応に満足したらしいエッセバは、ここが何なのかやや自慢げに説明し始める。
「どうだ、凄いだろう?」
「ええ、凄いですよ、本当に」
「ここは≪パラベラ温泉郷≫と言って、最近仲良くなった鬼達が運営している温泉施設だ」
なるほど、とそれを聞いてシュベルスは疑問の大半に合点がいった。
ここが温泉施設だとすれば、一行が持つ袋に入れられた代えの服や下着の説明がつく。
川ではなく、温泉だったか。その発想が無かった自分を、シュベルスは老いたな、と感じた。
目元を抑え、ため息を吐き出す。
確かに近づくにつれて奥の方で立ち昇る湯気がうっすらと視認でき、周囲に漂っている独特の匂いは温泉がある場所ではよく嗅いでいたモノに違いない。
それに要塞の中には他のエルフ達の姿がチラホラ見受けられ、建物から伝わってくる大勢のヒトの気配と、漏れ聞こえる笑い声は、他と変わりないモノだ。
ただ鬼が運営している、という部分に引っかからない事もないが、先の戦争でエルフ達は【鬼】種と共に戦ったらしいので、その繋がりに違いない。
ヒトのように高い知性を持つ鬼は入浴を好む者も多いので、恐らくは鬼人級の首魁が存在しているのだろう。
脅威と言えば脅威だが、仲良くしているのならば特に問題は無いか。
シュベルスはそう判断し、続いた説明に固まった。
「ここの従業員は小鬼や人間、獣人など様々居るのだが、鬼達の長――アポ朗殿が色々な事を実験的にやっているから、日々新しい驚きがあって、今一番エルフ達の関心が高い場所だな」
隣で説明するエッセバに、シュベルスは驚いて顔を向けた。
ゴブリンが働いている。そして同じ場所で人間が、獣人が働いている。
それは変だ、と無言で訴えていた。
ゴブリンは基本的に本能に従順で、馬鹿だ。強盗の手駒などには使えるが、些細な気配りが必要な接客などできるはずが無い。
人間の従業員はまだ分かる。経験を積ませれば十分使えるだろうし、予算さえあれば奴隷で数は補える事は可能だ。だがゴブリン達と一緒に働けるかと言えば、疑問は残る。
命令に絶対服従するゴブリン達でなければ他の従業員がどうなるか分からないし、獣人も大体人間と同じ理由が上げられた。
「そんな馬鹿な」
二百年という長い間、外の世界で暮らしていたからこそ、シュベルスの反応は正常なモノである。
いや、森に籠っているエルフだとて、普通はシュベルスと同じ反応を示すだろう。
だが、周囲に居る者の中でシュベルスと同じ反応をしている者は一人も居ない。
当然の事、とでも言いたげに受け入れている。
「まあ、行ってみれば全てが分かるさ。ただゴブリンだからと言って、侮るなよ。ここのは、長から末端まで、ちと特別だからな」
首を傾げるシュベルスを促して、一行は正門の前に到着する。
両脇の岩壁が突出して“凹”のような形状の正門は、前後に門がある二重構造になっていた。第一の門と第二の門の間は約五メルトル。それは岩壁の厚みと殆ど同じであり、敵を殺す為だろう、門と門の間の天井には木石や熱湯などを浴びせる為の大穴が開けられている。
第一の門が壊されても、第二の門が壊れる前に多くの敵兵を屠れそうだった。
「御苦労様」
門を潜る寸前、エッセバが岩壁の上を見上げながら軽く手を上げ、声を上げた。
それにシュベルスはつられて顔を上げると、岩壁の上で、弓矢で武装した数名のダークエルフ達が周囲を警戒していた。チラチラと視線を寄こすが、エッセバの姿を見ると問題は無いと判断したのか、その意識の大半は再び周囲に向けられる。
巧妙にマジックアイテムのマントや障害物で隠蔽され、他の事に気をとられていたシュベルスはその時になってようやく気がついたのだった。
「いらっしゃいませ。今日もお楽しみ下さい」
恐らくは集団の長だろう壮年のダークエルフが、会釈しながらエッセバの言葉に反応した。
外の暮らしで以前ほど偏見は無いとはいえ、やはりダークエルフには忌避感があり、歓迎の言葉の返答は軽く会釈するだけに留めて門を潜り抜ける。
そして二重の正門を潜り抜けて直ぐ、一行は武装を正門横に設置された小さな検問所で渡した。武器を持ち込んで暴れられれば厄介だからだろう。ここで武装を渡しておかないと、何かあった時に問題になるらしい。
それは納得できるが、受け取ったのは人間の女性と、雌のホブゴブリンだった。
外から来た者が暴れれば彼女達が真っ先に殺されそうなものだが、他に男の戦闘要員が見受けられないので、もしかしたら二人は強いのかもしれない。何となく、騎士とメイジ系に見える。
などとシュベルスが考えていた間に、武装を渡した一行は書類にサラサラとサインをしていく。サインを終えると番号が書かれた金属プレートを手渡された。
帰りにこれを提示すれば、武装が戻ってくる仕組みだ。
そうした細々とした手続きを終えて、ようやく活気に満ちた温泉街に一行は足を踏み入れた。
「今はまだここにやって来るのは里のエルフだけだから客は少ないが、それでも、利用者の数は多い。毎日入り浸りになっている者も多い」
中央通りであろう正門から伸びる道の奥には、先程見た屋敷がある。
そして中央通りの左右には屋敷ではなく、この辺りでは一般的な造りの店が立ち並んでいた。
金槌が描かれた看板を下げ、武具や細々とした装飾品を売っている店がある。
店頭に並んでいるのは様々な金属によって造られた髪飾りや指輪などであり、奥には実用重視や観賞用の様々な武具が並べられていた。
店員は愛嬌の良い猫系の獣人である女と、如何にも頑固職人といった姿をしたドワーフの老人。
そこでは恋人なのだろう若いエルフの男女が仲良く商品を見て、笑い、店員に何か質問して、最後にはミスラルと緑色の金属で造られた揃いの指輪を買って行った。
フォークとナイフが描かれた看板を下げ、簡単な料理を提供している店がある。
そこそこの広さがある店舗は満席で、老若男女のエルフ達が料理に舌鼓を打っていた。
客の注文を聞いて回っているのは猫妖精達で、二足歩行するネコがチョコチョコと動く様は可愛らしい。
その他にも様々な店が展開され、それを物珍しげに観察しながら、一行は中央の屋敷の玄関に到着した。
「一先ず温泉に入ってから、他の店を回るとしよう。ここの一番の見どころは、やはり温泉だからな」
そうシュベルスに説明しながら、エッセバは慣れた様子で屋敷の扉を開けた。
カラカラと小さく音を立てて横にスライドする様はドアが一般的なこの辺りでは珍しい。
これも久しぶりだな、と思いながらついつい普段の癖で土足で上がろうとしたが、即座に注意された。
「ここから先は、靴を脱いで入れ」
「おっと、確かにそうでしたな。久しぶりなので、忘れていましたよ。手間取らせて申し訳ない、兄上」
土足で上がろうとしていた事を注意され、シュベルスは謝りながら、靴を脱いで屋敷に上がった。
靴は玄関の横にある大きな靴箱に入れられる。
「しかし、立派なものですな」
屋敷の内装もやはりこの辺りでは見かけない独特なモノで、しかし不思議と落ち着ける何かがあった。
木製の床は軋んで不快な音を出す事は無く、記憶にある屋敷ではやや冷たかったはずだが、ここでは温かさが伝わってくる。
「ほうほう、ほう」
ここに来て静かに高まっているシュベルスは、好奇心から忙しなく周囲を見回し始めた。
そうしていると、一行が玄関正面にあるカウンターに向かって動き始めたので、やや遅れながら付いていき。
そしてカウンターの中に営業スマイルを使いこなすゴブリンが本当にいたので驚いた。
シュベルスからすれば、それは芋虫が言葉を発した、と同じくらい衝撃的なモノだった。
「いらっしゃいませー。ご予約されているエッセバ様御一行ですね。料金は既に頂いているので、これをつけて下さいね。はい、ゆっくりと堪能して下さい」
シュベルスが驚いている間、他の皆は愛想良く笑っているゴブリンから赤い玉が嵌め込まれた糸のブレスレットを受け取っていく。
ブレスレットを受け取った者から、エッセバ達に軽く会釈し、思い思いに行動を開始した。
「さてと、早く入ろうぜ」
「今日は何してもらおうかなぁ。この間のやってみると、肌が滑々になったのよね」
「あ、じゃあ今日はそれ、やってもらおうかしら」
ブレスレットを装着し、男は青い布が吊り下げられた通路に、女は赤い布が吊り下げられた通路に入っていった。
布にはどちらもヘンテコなマークが白い糸で縫いつけられているが、それが温泉を示しているのだと何となく分かる。
護衛役のエルフ達もここに到着した時点で一応の仕事が終わり、後は自由行動となっているので、まったりと温泉を楽しむ気満々だった。
「……はぁ、驚き過ぎて、身が持たんぞ」
短い間に驚き過ぎて、やや草臥れた様子のシュベルスだった。
そして気がつけばシュベルスはブレスレットを右手首に装着し、男達が入って行った通路の中を歩いていた。
ちなみにそんな横で、小声でこんなやり取りが交わされていた。
「あ~、エッセバ様。外の人連れてきちゃ駄目じゃないですか。禁則事項にキッチリ書いてますよ? 守ってもらわないと、困ります」
「すまんな。しかし二百年ぶりに帰って来た弟でな、ここを自慢してやろうと思ってな」
「駄目ですよ、規則は規則なんですから。入れたら、僕が怒られます」
「それは大丈夫だ。アポ朗殿に直接連絡して、酒樽十で特例を認めてもらっとる」
「え? 本当ですか? 少しお待ちを……あの……エッセバ様が……ええ、はい、はい。分かりました。……本当みたいですね。じゃ、大丈夫ですね」
「それでは、ブレスレットを貰おうか」
「はい、どうぞ。あとそちらの方の湯着はサービスしときますので、どうぞ使ってください。では、お楽しみください」
■ ■ ■
「あ~……。確かにこれは、兄上が自慢したいのも頷ける」
屋敷の通路の先にあった脱衣所で衣服を脱ぎ、湯着と呼ばれる薄い生地の衣服に着替えたシュベルスは、一番広い混浴の浴場にある白濁とした湯に浸かりながら横に居るエッセバに語りかけた。
「そうだろう、そうだろう。毎日入りに来るくらい、ここは気に入っているからな。帰って来た弟に、自慢したくもなるさ」
シュベルスと同じハーフパンツタイプの湯着に着替えたエッセバは、非常に自慢げだ。
手元には木桶に入れられたエルフ酒の瓶とお猪口。それをチビチビと飲みながら、二人は語る。
「しかし、本当に色々とやっているんですね、ここは。他で見たモノもあれば、初めてのモノもある」
「そうだな、本当に、色々とやっているよ。個人的には、雷精石とミスラルを利用した電気風呂がお勧めだ。ピリピリして最初は慣れないかもしれないが、あのキュッと筋肉が引き締まる感覚は止められん。ハマるな」
「確かに、あれには驚かされました。使用してる材料が材料だけに、なんと勿体ない、と思ったものですが、あの独特の感覚は今まで体験した事もありませんでした。まあ、あの加減を出すには、それ相応の時間と手間が必要でしょうな。強過ぎれば、癒される前に死にますし」
「まあ、試さない方が無難だろう。危険だし、費用がかかり過ぎるしな。電気風呂の他には、打たせ湯、サウナ辺りもいいな。サウナの後の水風呂は、キュッと引き締まって気持ちがいい」
水風呂の水は水精石で出した水だから、よりいいぞ。とエッセバはエルフ酒を飲み、陽気に笑った。
「確かに、先程試しましたが、あれはいいですね。水精石で出した水は精霊達の力が宿っていますから、エルフにとっては最高だ。ただ、特に驚いたのは噴流式泡温泉、ですね。あれ、どうやってるんですか?」
噴流式泡温泉。
壁や底にある小さな穴から噴き出す細かく小さな泡が入浴者の身体を刺激する、≪パラベラ温泉郷≫に複数設計された温泉の中でも高い人気を誇るモノである。
詳しい構造は訪いかけられたエッセバも知らない事だが、電気風呂と似たような考えで設計され、これには風精石が使用されていた。
ブクブクと泡が全身を刺激するその感覚に、老若男女問わず、虜になる者は多い。
「それは知らん。コチラが教えてほしいくらいだ」
「流石に兄上でも知りませんか、残念です。……そう言えば、温泉以外のサービスも面白いですな。ビッグコッコの温泉卵なんてありますし、それを温泉に入りながら堪能できるなんて驚きですよ」
「まあ、確かにな。そうだな、個人的なオススメのサービスと言えば、森の恵みから造られたアロマオイルを用いたオイルマッサージ、というのがあるぞ。あれは身体中の疲れが揉み落とされるようで、至福の時だな。特にドリアーヌ嬢にやってもらった時は、思わず昇天してしまいそうだった。思い出しただけでも、久方ぶりにいきり起ちそうだ」
「鼻の下が伸びているぞ、ムッツリ兄上」
「はっはっは、お前が言うな、ムッツリ弟。だが仕方あるまい。そちらに関しては、種族的にアチラが上手だからな、勝てんよ。彼女にかかれば枯れた者でさえ復活するし、女衆達もやってもらうと美肌うんぬんと好評で、こぞってドリアーヌ嬢を指名している。だからドリアーヌ嬢のマッサージはなかなか受けられないが、その他の者のマッサージも悪くは無いから試すといいだろう。ドリアーヌ嬢ほどではないが、彼女達もメキメキと上達している」
「そんなに凄いのですか?」
「恐らくエルフの人口問題も、多少はこれで改善するだろう、というくらいには凄い。場合によっては、そういった欲望を刺激する為のマッサージも受けられる。ただあれを試したグラーバの奴は、抑えきれずに夫人と一晩中楽しんだようだ。一晩中ねちっこく攻められたらしくてな、夫人は立つ事もできんかったらしい」
グラーバはハイエルフではないがそれに近い能力を持つ壮年のエルフであり、エッセバと同じ【円卓会議】に参加する権利を持つ者――つまりは氏族長の一人である。
里でも有数の戦士であり愛妻家でもある、エルフにしては欲が強い彼は、自分に合わせれば妻の負担が大き過ぎる、などと言って、夜では淡泊な者として仲間内では知られていた。
愛し過ぎて本番に弱いヘタレ、とも言われているが、それはさて置き。
そんな彼が、妻が立てなくなるほど愛した。
大昔だが、幼少の頃を互いに知る者として、シュベルスは納得したように頷く。
「なるほど、そうですね。エルフは基本的に、淡泊ですからね。あえてそうした刺激を与える事で、促すと言う訳ですか」
「そうだ。先の戦争で減った人口を増やすには、ドリアーヌ嬢達のマッサージが、案外良い手段なのだよ。もっとも、純粋に気持ちいいからだがな」
お猪口から酒が無くなり、交互に注いでいく。
久しぶりの兄弟の語らいはゆったりまったりと続き、今まで離れていた時間を埋めるように、途切れない。
そうしてどれ程の間温泉を堪能しただろうか。そろそろ上がるか、という頃合になって、意を決し、シュベルスはエッセバに訊いた。
「兄上、アポ朗殿、という方には会えますか?」
「今は、居らん。外に出ているそうだ」
「そう、ですか」
気合いを入れたのに空振りで、ガクリ、とあからさまに落ち込むシュベルスを見て、エッセバは苦笑しながらその肩を叩いた。
「そう気落ちするな、連絡手段はある。そこからは、お前の交渉次第だ」
だが取りあえず今は飲め。グイッと、飲め。
そう言って、エルフ酒を注ぐ。
トプトプと、音が鳴る。
限界ギリギリにまで入れられた酒に、いつの間にか日が沈み、夜空に輝いていた星月の光が反射した。月星の光に混じる魔力を吸収して、普段以上に味を深めていくエルフ酒。
それをグイッと一口で飲むシュベルスは、必ずまだ会わぬアポ朗殿と良好な関係を築くのだ、と誓いを立てる。
主な理由としては、またここの温泉に来たいからだ。
本来なら外部の者となったシュベルスがここの存在を知る事はできないのだが、エッセバが交渉し、特別に認められたからこそ浸かる事ができている。
だが大森林から出ると特例も終わり、以後このままだと入る事はできず、また、ここの存在を洩らすと暗殺されてしまうので、対等な取引関係となる事をシュベルスは目標としたのだった。
そうして数日の滞在期間中、日々拡張される温泉や、新しいサービスが生まれる≪パラベラ温泉郷≫に足繁く兄弟で通い、里帰りを終えたシュベルスは、帰りを待っていた家族の前でこう言った。
「そうだ、皆で温泉に行こう」
すっかり温泉中毒者となったシュベルスの行動は速かった。
老舗商会≪緑矢星郷≫会長が、手土産こさえて来るまで後■■日。

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