トヨタ自動車がスズキと提携すれば、傘下のダイハツ工業とともに、軽自動車主力二社と協業することになる。国内軽市場では消耗戦が続いてきたが、三社で世界戦略の小型車開発も期待できる。
かつて米ゼネラル・モーターズ(GM)と手を組み、最近は独フォルクスワーゲン(VW)と提携解消して話題となったスズキだが、トヨタとの縁は深い。
トヨタグループ創始者、豊田佐吉とスズキ創業者の鈴木道雄はともに静岡・遠州出身で、同年代に織機の会社を起こしている。一九七五年、スズキが当時の新排ガス規制をクリアできず経営危機にひんすると、トヨタはエンジンを提供して苦境から救った。その頃、スズキ社長になった鈴木修氏(現会長)は「自力で再建できる道を」と奮起し、軽自動車「アルト」の成功につなげた。
それだけにスズキがVWと提携解消を決めると、「次はいよいよトヨタか」との臆測は広がった。スズキの持つインドでの圧倒的なシェアは、トヨタにも魅力だ。ただ、提携には大きなネックがあった。トヨタが50%超の株を持ち、軽市場でスズキが激しくシェアを競うダイハツの存在だ。
そこでトヨタはダイハツを完全子会社化して、軽以外の新興国向け小型車開発に振り向ける構想を描き始めたようだ。ダイハツの軽増産に敏感なスズキに、提携をのみやすくする地ならしとみえる。
スズキ、ダイハツも、国内販売の消耗戦に疲れ切っている。軽市場にはホンダや日産自動車も参入し、競争は激化するばかり。だが昨年春に軽自動車税が増税されると、好調だった販売にブレーキがかかり、ディーラーには売れ残った新古車が積み上がっている。縮小する国内市場で、日本独自の規格の軽でお互いをつぶし合う経営には限界がみえてきた。
普通車にこだわってきたトヨタにとっては、軽が国内市場で幅を利かせてきた流れを変える好機ともいえる。「オールジャパンで、世界に通用する小型車規格に開発を集中するべきだ」というのがトヨタの基本姿勢だ。
長年、軽市場を引っ張ってきたスズキがこの姿勢にどこまで付き合うかが、提携実現の焦点となろう。スズキは軽を軸にした小型車開発でインド市場で成功を収めている。両社が軽の経験を軽んじることなく、環境技術とのベストミックスで世界に打って出るのも一手だろう。国内の過当競争の悪循環から逃れるためにも。
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