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ENGEIグランドスラムとテレビというウソ

テレビ お笑い

www.meg2.net

お笑いというやつは…何て語りだすと非常に偉そうな感じですけれども、演者と客は健全な関係性でないといけないと思うんですよ。具体的に言うとタイトルの話になるんですけど、ENGEIグランドスラムの客は訓練されすぎじゃないですかね。

フジテレビで放送してたネタ番組で笑いの演出が過剰で「健全な関係性がなかった」そうで。

確かにわかるけれど違うなぁ、と。
同意できる部分もあるけれど、同意できない部分も多い。



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笑う男

僕が言う「健全な関係」という表現についてだけど、例えば明らかに面白い漫才が行われているにも関わらず客席で一切笑いが起きないのは異常じゃないですか。芸人は面白いネタを作り、客は笑いどころで思いっきり笑うことで場が作り上げられていくべきなんですよね。だからそこに異質なものが入るべきじゃないんですよ。

んー、ここが致命的に違う。

基本的にネタ番組の観客というのは客であって客ではない。
あれはセットの一部であり演出でしかない“観客風”の存在。
「健全な関係性」なんて一切無いのがテレビのバラエティ番組。


たとえばテロップにしろワイプにしろ「あんなものを映すなウザい」という声がある。

しかしテロップやワイプによって笑いが増幅することがあるのは否定できない。
アメトーーークやロンハー、そしてモヤさまだって演出なしでは成立してない。

オーバーな笑いにも誘い笑いの効果は間違いなくあって、だから吉本新喜劇には過剰なくらい笑う笑い屋のおばはんが客席にいる。
アメリカのコメディではわざわざ観客の笑い声が足される。
あれは面白いから笑うのではなく率先して笑うことで笑いやすくする、あるいはここが笑う部分だと教えてあげる目印の効果になってる。
だから演出的な観客の笑いというのは「健全な関係性」ではない。

よゐこ濱口がやってる「笑う男」だってなにも面白くなくても延々相手が笑ってると笑えてくる。
志村けんと柄本明のコントで、柄本明が笑いのツボに入ってしまい、延々笑ってると釣られて志村も笑ってしまう、なんてよく見た光景。

演出の虚実

テレビ番組というコンテンツパッケージは、テロップやワイプやSEや編集などの映像演出やあるいは背景セットや番組構成、そして観客の配置に至るまで全てが演出に含まれる。

かつて上岡龍太郎師匠が「お笑い番組でテロップを出すのは笑いの感覚を鈍くするし、お笑いで笑わせているのではなく演出で笑わせているのだからよくない」という話をしていたけれど、今やそれが普通になってしまった。
テレビ番組は演出が必須なんですよ。

演者→テレビの向こう側
演出→演者と視聴者の間
視聴者→テレビのこちら側

テレビの笑いにおいて演出というフィルターを介さないコンテンツはなく、視聴者が番組に対し健全さを求めることがおかしい。

健全な関係性というならこういう

演者→テレビの向こう
視聴者→テレビのこちら側

この二つしかない。
一番健全ですけど、こんなものはまずないしウケづらいですよ、今や。
わかりやすい笑いに慣れてしまっているんだから。

だからENGEIグランドスラムに何か言うなら「観客の笑いが過剰演出だ」指摘だけが正しいのではないかな、と。
健全そうに見える(見せている)番組はあっても実際に健全な関係性の番組はない。

メタ

www.fujitv.co.jp

ところでENGEIグランドスラム。
なかなか面白かった。
特に村上ショージをキャスティングしたのがとてもいい感じ。

ショージ登場。
まず足を怪我して「残念ながら足を怪我して面白いことが言えない」と不条理な言い訳を延々言う。
その後紙切りを披露...するかと思いきや突然タクシーに乗った経験談の漫談を話し始め、突然紙切りを始める、また漫談を始める。
しかし最終的には、紙切りもネタも途中で放り投げ、紙もグチャグチャに丸めて終わる。
村上ショージが長い芸歴の果てにたどり着いたメタ展開の漫談。
これをあの時間帯の特番で流せるようになったんだからフジテレビの迷走ぶりがよくわかるし、反対に言えば深夜でやるようなものをやってしまうんだからこれはこれで面白い。

オリラジの不条理ダンス

そしてオリラジはカニエウエストの「POWER」で入場し、いつもの武勇伝を披露。
そして終わったかと思ったらそこからオリジナルラップ&ダンスを披露。
ダンサーが登場しDTMで踊りまくる。

お笑いというのは条理と不条理。
この舞台はかなり異常で、冒頭の武勇伝が条理に位置する。
"いつもの""お馴染みの"武勇伝を条理(普通、ノーマル)として、そこから突然ラップとダンスを延々と披露し続ける(異常、不条理)。観客は「一体何を見せられてるのか?」と考えるから踊りもラップも一切面白くないのに面白いと感じる。

これが面白くない人は武勇伝を「条理」と捉えない。
笑いは条理と不条理の振れ幅で発生するため。

このネタって爆笑問題の検索ちゃんネタ祭りでも披露してましたけれど、年に数回見たくなるので時々やってほしい。


他にバカリズムも03も観れたので満足感ありましたけどね。
友近より椿鬼奴と鳥居みゆきでシュールに持っていっても破壊力が増した気がしなくもないですけど、最近のネタ番組の中ではかなりいいメンツだったのではないかなと。
(fadeout……)

蛇足:テレビ

※ここからは余談です

テレビについて何かしら語る方は、一度この上岡龍太郎師匠を見ておくと視点が変わる。
芸人をテレビに出すな、テレビとラジオの違い。
そしてテレビが映す事実と、真実は異なる。

上岡師匠は

見る側が、これは虚なんか実なんか……
せやからね、テレビは全部ウソやと思てください
まず信用する言う立場を離れんことには客は真実見極められん

と言い切る。
先見というか、ここで語られてることって本質的な話なので昔の映像だろうが色あせていない。
今のテレビを見てれば、上岡師匠が引退したのもよくわかる。


上岡師匠の本、読みたいんだけど電子書籍にならんかなぁ……。

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