ドバイからの帰国便で機内上映してたけど、ちゃんと大きなスクリーンで観たかったので我慢していた『オデッセイ』、IMAX 3Dで観てきました(ちなみにそのときは『ザ・ウォーク』と『ヴィジット』を観た)。
▲「リドリー・スコット監督作品」の位置が気になる……。
【監督】リドリー・スコット
【主演】マット・デイモン
【出演】ジェシカ・チャステイン
ケイト・マーラ
マイケル・ペーニャ
【よくわかる あ・ら・す・じ】
NASAの火星探索隊メンバーのひとり、マーク・ワトニー(マット・デイモン)。火星にひとり取り残されちゃって食料も水もない。救出がくるまであと4年。というか俺が生きてること、地球の連中、気づいてないっぽいんだけど。やばいどうする!?
注意:記事の終わりにネタバレ感想があります。白字なので、通常は見えないようになっています。
- 嬉しい宇宙映画の隆盛
- 前途多難・孤立無援・絶体絶命に植物学(ホントの科学じゃない?)で立ち向かう
- めげない心と宇宙飛行士の適正
- 映画を彩る80's ディスコ
- Is there life on Mars?
- IMDbのおもしろかった『オデッセイ』トリビアをいくつか訳すよ
- かっこいいポスター別バージョン
- 【警告!】ネタバレ感想(白文字反転)
- おまけ
嬉しい宇宙映画の隆盛
おもしろかったです。『インターステラー』『ゼロ・グラビティ』と傑作がつづいた宇宙SFものの系譜に連なる一本だと思いました。逆境に際してへこたれないポジティブな主人公像が話題だけど、あんまりくよくよしたりしないところは、リドリー・スコットのいい意味での大雑把さ(笑)とも相性が良かったんだなと思います。
▲「密造酒作り放題だぜ」
前途多難・孤立無援・絶体絶命に植物学(ホントの科学じゃない?)で立ち向かう
「ひとり火星に取り残されて食料も尽きていく。水もない。エネルギーもやばい。地球と交信もできない」
このシチュエーションをいかに克服していくか、そこが一番の見所でした。植物学者という専門を活かして、宇宙の果てで絶体絶命の状況にいどむ。でもそこに悲壮感はなく、知恵を絞って残された機材や環境を最大限活用する姿は、めちゃくちゃ頼もしく、かっこよかったです。またガムテープとか、何十年も前の機材とか、しょぼい道具でしのいでいくアイディア勝負な展開って、個人的にすごく好きなんですよね(『冒険野郎マクガイバー』みたいな)。特殊機材使っちゃう007なんかはそこがいまいち。ちなみに原作だと、マークは植物学だけではなく、メカニックとしての資格だか学位も持っているらしいです。
めげない心と宇宙飛行士の適正
他のレビューを読むと主人公だけでなく、大半の登場人物が見せるポジティブさにフォーカスがあたっていることが多いんだけど、それは必ずしもこの作品の哲学やメッセージ性の反映というだけではなく、宇宙飛行士に一般的に必要とされる適正とも関係しているんだろうな、と思いました。
以前読んだ話では、宇宙飛行士として選抜されるには、悲観的状況にあっても、冷静に、最善のタスクをこなせるような素養が重視されるそうで、これってまさに主人公マークそのものですよね。困難に直面しても悲観せずに最善手を探す、という彼の姿勢に宇宙飛行士のタフネスがよく表れています。
▲「4年間ひとりきり? 引きこもり生活サイコー!」
ちなみに、ちょっと脱線するけど、それ以外の適正でいえば、家族持ちの人が好まれるみたいです。妻子持ちだと最後まで「どうしても帰りたい」とがんばるけど、独身者は「ああもういいや」とあきらめてしまうんだそうで(泣)。ま、マークは独身だったみたいだけど(ベタベタした家族愛的展開がなかったのもこの映画のいいところ)。
あと面白いのは虫歯。今ちょっと調べたら、次のような理由でしっかりと治療しなければならないのだそうで。
船外活動をするとき宇宙服の中は約0.3気圧に減圧されています。宇宙飛行士はその減圧環境で作業をします。古い治療でその後虫歯が進行して歯に空洞ができていると、周囲の減圧に従って空洞の中の空気が膨張し歯を内側から圧迫するため痛みが生じる場合があります。やがて空洞の中の空気は詰め物の隙間から抜け、周囲の圧力と同じになります。
船外活動を終了して1気圧の船内に戻ると、虫歯でできた空洞の中は約0.3気圧に減圧されているため、虫歯が押し込められるような痛みが生じる場合があります。
このように圧力差が異なる環境で作業をするときに、生体の密閉空間は思わぬ症状を引き起こすことがあるのです。
「ただ単に虫歯治療するような設備がないからでは?」と思っていたんだけど、意外と深い理由があったんですね。
映画を彩る80's ディスコ
もう一点、ジェシカ・チャスティン演じる探索ミッションのキャプテン、メリッサが残していった音楽ファイルが80'sディスコばかりで、主人公がそれに辟易しつつも、作品を明るく盛り上げているのがこの映画の特徴というか、売りでもあります。”Hot Stuff”とかね。でも実際のところ、文句をいいつつもマークはすごく救われたと思うんだよなぁ。たとえば静謐なクラシック曲しかなかったら、孤独に耐えられないと思う……。そういうのは『2001年 宇宙の旅』だけでいい!w
▲「マークを置いていくことに決めたわ。彼には内緒よ」「キャプテン、聞こえてます」
Is there life on Mars?
とあるシーンで先日他界したデビッド・ボウイの曲がかかって、とても好きなミュージシャンだったので心に染みるものがありました。「ボウイ自身は亡くなる前にこの映画を観る機会があっただろうか?」とか考えた。そうだったらいいな。
彼の曲がかかるという話はどこかで読んでいたんだけど、てっきり”Life on Mars”だと思ってたので、そうではなかったことにはかなりびっくりしました。でもあのシーンでは、わりとセンチメンタルな曲調の”Life on Mars"よりも、あっていたと思います。どの曲かは実際に映画で確認してもらいたいですね。”Life on Mars”もすごくすごく好きな曲だけど、曲のテーマからしても、ちょっとこの映画の雰囲気にはあわなかったかも。すくなくともあのシーンでは違和感あったかな。
と、その死からひと月ほどたったボウイをふたたび悼む気持ちになった映画でもありました。
ギークが思わずにやにやしちゃう科学こそ正義!な胸熱展開と、エンタメに徹したわかりやすさが両立していて、宇宙SFものが好きな人にはぜひお勧めしたい一本ですよ。観ると元気になる。あと、いつかロケットの打ち上げを見たいなー!とあらためて思いました。
▲リプリー「感染した彼を地球に連れかえるなんてわたしが絶対許さない!」……あ、違う映画だった
ちょいケチつけるなら、なんでロンドンのトラファルガースクウェアだけなんだ!?ってとこかな。あとは邦題の『オデッセイ』。意味としては、苦難の旅路とか、長い冒険とか、そういうニュアンスなので間違いではないんだけど、語感としてあわないなぁと思います。原作の和訳では『火星の人』なんですね。そのままでいいと思うけど。
IMDbのおもしろかった『オデッセイ』トリビアをいくつか訳すよ
- 赤土の火星を撮影したのはヨルダンのワディ・ラム。世界遺産。行ってみたい!
- 原作者Andy Weirはこの作品をブログで趣味として無料公開していた。その後Kindleで発売。
- マークがどのように方向を測ったのか? 原作では火星の衛星フォボスの軌道を観測して方角を知った。
- 「マーク」はラテン語”Marcus”の英語名。その意味は「火星の(人)」。
- 映画の全米公開4日前(2015年9月28日)、NASAは火星の表面に流れる塩水の存在を発表した。
【警告】以下のトリビアは、ストーリーには触れていないけど多少のネタバレ含みます
- 火星の気圧であれば、外気にさらされても1分間程度生きていられるのは科学的に正しい。巷間信じられているように、瞬間的に身体の内部から爆発するわけではない。
- さまざまな成長過程のジャガイモを撮影するため、スタジオにジャガイモ畑を作った。
- 宇宙船ヘルメスからベックが宇宙空間へ一歩を踏み出す際、彼の身を案じたベスが"In space..."とだけ声をかける。これはリドリー・スコット自身の名作『エイリアン』のキャッチコピー"In space, no one can hear you"を意識した台詞。
- 『ロード・オブ・ザ・リング』にちなんだ救出ミッション「プロジェクト・エルロンド」について説明するのはショーン・ビーン。いうまでもなく、LOTRではボロミアを演じた。
かっこいいポスター別バージョン
でも「OCTOBER 2」の文字を見るにつけ、洋画の公開タイミングもっと早くしてくれよ……と思ってしまう。
【警告!】ネタバレ感想(白文字反転)
最大の見所は、上にあげたようにジャガイモ畑を作って地球と交信をするところまでだったと思う。そのあとの救出劇は、おまけとはいわないが、予定調和でもあり、落ち着くべきところに落ち着いたな、と感じます。それでもとくにダレることもなく、140分という長尺を飽きずに観せてくれるのだから、文句はありません。
共演者では女性陣の好演が多くて、好きな女優さんが出ていました。宇宙船のハンサム・クルーは影が薄かったな(笑)。ケイト・マーラの姿に『ハウス・オブ・カード』の続きが観たいなーと思いました。シーズン1までしか観てないんですよね。
あとは良くも悪くも中国の台頭というか、存在感を感じますね。まぁ、かなり薄っぺらい登場の仕方ではあるのだけど、しばらく前なら当然ソ連/ロシアだっただろうな、と。
IMAX3Dで観たけど通常スクリーンでもよかったかも、というのが正直なところ。なにせ『ゼロ・グラビティ』をすでに観ていたので、インパクトは薄いですね。これは『オデッセイ』のせいというよりも、大半のシーンがわりと地味なシチュエーションだという点が大きいんだけど。砂漠を背景におっさん一人が大写しになってる映画だからね!
『インターステラー』『ゼロ・グラビティ』の系譜に連なると書いたものの、このなかでは3番手ではあると思います。けど、とても楽しめた作品には間違いないです。宇宙SFもの、大好き。
おまけ
思わず笑ってしまった、ネットのディカプリオいじり画像。オリジナルのキャッチコピー"BRING HIM HOME"をもじってる。や、ぼくはけっこう好きですよプリオ。イニャリトゥと撮った『ザ・レヴナント』でオスカー穫れるかな? これも楽しみにしている一本です。