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【社説】

週のはじめに考える 人工知能は恋をする?

 人工知能(AI)が大活躍です。囲碁ではプロ棋士を破り、車の運転も認められました。チョコを交換するようなパートナーになっていくのでしょうか。

 米グーグルの開発したAI「アルファ碁」が、プロ棋士に連勝したことが先月、発表されました。

 思い返せば、米IBMの「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオンに勝ち越したのが一九九七年。当時、盤面の広さから将棋や囲碁は難しいといわれました。

 予想以上に強くなったのは、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる技術が生まれたからです。大量のデータの中から「特徴」を探し出し、応用することができるようになりました。

◆ゲームには強いAI

 例を挙げると、AIに大量の動物の写真の中からネコの写真を選び出させます。ネコを知りませんから、最初は間違いを繰り返します。そのうち、ネコと他の動物の違い、つまり「特徴」を見つけ出します。初めて見るネコの写真に「特徴」があれば、ネコだと判断するようになります。

 アルファ碁は、大量のプロの棋譜を学習し、どこに打つのがいいのかを判断できるそうです。プロ棋士の持つ直感とか、大局観とかを手にしたのかもしれません。

 どうも人間の方が分が悪いようです。なぜでしょうか。

 AIは大量のデータを処理するのが得意です。ルールがはっきりしていて、データに基づいて最適なものを選んでいくチェスや囲碁は、その能力が最大限に発揮できるのです。

 人間としては「現実社会ではそうはいかないよ」と言いたいところですが、野村総研が昨年十二月、英オックスフォード大学のオズボーン准教授らとの共同研究として、日本の労働人口の49%の職種が十〜二十年後までにロボットやAIと置き換えることが可能だという研究報告を発表しました。

◆ホワイトカラーも代替

 対象とした六百一職種のうち、代替可能性が高いのは、一般事務員、医療事務員、行政事務員、経理事務員などのいわゆるホワイトカラーの仕事です。給食調理人、自動車組立工、測量士、タクシー運転手など、技術や資格が必要な職業も含まれています。

 代替が難しいのは、医師、教員、芸術家などです。ネイルアーティスト、バーテンダー、ツアーコンダクター、ソムリエといった片仮名の職業も入っています。創造的な仕事や社会性が必要な仕事は置き換えが難しいのです。

 オズボーン准教授は「ネイルアーティストの仕事のうち、爪に絵を描くことはロボットでもできるようになる。でも、お客の一人一人の好みを察して、デザインを提案するのはAIには難しい」と説明しました。

 実際、十日には米道路交通安全局(NHTSA)が、自動運転車に搭載されるAIについて「運転手とみなすのが妥当」との見解を出したことが報道されました。

 医師の仕事は残りますが、診断は別です。米IBMのAI「ワトソン」は、画像データなどから、医師よりも正確に診断することを目指しています。データをAIが調べ、医師が患者に説明する日が来そうです。過去の膨大な判例の知識が必要な弁護士や、大量のデータの分析をする公認会計士でも、AIは賢いアシスタントになりそうです。

 記者も人ごとではありません。米国のAP通信はすでに、中小企業の決算記事などをAIに書かせています。(企業や政府の)発表通りに記事を書くのならAIで十分。AIにできないのは質問をすることとか。耳の痛い話です。

 この分野は今、米国が先行しています。しかし、AIだけでできることは限られています。AIを組み込んだロボットも必要です。そこは日本の出番です。

 すでに、ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」は銀行やホテルの受付にもいます。二〇二〇年の東京五輪までには、英語、中国語などの外国語を話すロボットが「おもてなし」の最前線で活躍しているかもしれません。

◆最後に決めるのは人間

 もちろん、未来がばら色とは限りません。職が奪われると心配する人もいます。AIの調子がおかしくなったとき、人間が修理できるのかも不安です。でも、どう利用するのかを決めるのは、AIではなく、人間です。時間をかけて議論していけばいいでしょう。

 日本人にとって、ロボットは鉄腕アトムの時代から親しみのある存在です。バレンタインデーにチョコレートを贈りたくなるようなロボットが現れるといいですね。逆に、AIはいつか、人に恋をするようになるでしょうか。実は専門家でも意見が割れています。進歩が楽しみですね。

 

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