プレミアリーグは14日、レスター・シティとアーセナルによる上位対決が行われる。首位レスター・シティがマンチェスター・シティを破った前節に続いて、アーセナルという強敵と対戦する。
この対決には、世界中のファンが熱視線を注ぐ。『GOAL』UK版のジム・ナイトもそんな一人だ。子供の頃からの熱狂的なレスターファンなのだ。
レスターの今季の躍進は、現代サッカーにおけるおとぎ話と言ってもいい。その夢のような時間を楽しむ生粋のレスターファンに、愛するクラブと一人のサムライ、そしてアーセナル戦について熱くつづってもらった。
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フィルバート・ストリートで初めて見たレスターの試合が、アーセナルとの対戦だった。ホームで2点のビハインドを背負ったが、そこから試合を振り出しに戻して気合いを見せた。それが90分のことだったが、話はそこで終わらなかった。デニス・ベルカンプがハットトリックを完成させてしまったんだ。元名選手の解説者アラン・ハンセンは、「これまで見た中で最高のハットトリック」だと言っていた。
ところが、レスターもそのまま話を終えるつもりはなかった。何より、ホームのファンがうなり声を挙げてチームの背中を推し続けていた。そして96分、スティーブ・ウォルシュがまたも同点とするゴールを決めた。かの有名なドローゲームの誕生だった。
しびれた。自分のしたいことは、「オレのチーム」の試合を見ることしかなくなった。
それから、レスターを追い続けた。ディビジョンなんて、関係ない。イングランドの3部リーグである、リーグ1まで落ちたこともあった。その間、意気上がることも、ときには心がはりさけそうな時間も同居していた。
近年の出来事なら、チャンピオンシップのプレーオフ準決勝には今でもうなされる。ワトフォード相手のビカレージ・ロードでのアウェーでの一戦だ。2-2だった試合で終了間際、レスターはPKを得た。PKスポットに進み出たのは、アンソニー・ノカートだった。このMFはPKを蹴り、そして外した。直後、反撃を食らって、逆サイドのゴールネットが揺れた。オレの目からは涙があふれ、この記憶は決して消えないだろうと思った。
話したように、レスターとの生活には、良い思い出と悪いそれとが同居している。次のシーズン、レスターはチャンピオンシップで王者になった。文句なしのプレミア復帰だった。
近年のクラブの復活に、タイからやって来た新オーナーは大きな役割を果たしたと思う。今になってみれば、クラウディオ・ラニエリの招へいもその大いなる決断の一つだった。当時はファン――自分自身も含めて――もメディアも、大部分が疑いの目を投げかけていたけれど。
キングパワー・スタジアムにやって来る前から、岡崎慎司はレスター・シティのターゲットとして認識されていた。岡崎がアジアカップに出場している2015年1月から、レスターは獲得を試みていた。実現までは半年待つことになった。だがそれもまた、ナイジェル・ピアソンの下での奇跡的盛り返しにより、プレミアリーグに残留できたからこそ可能なことだった。
29歳のサムライは、先発の地位を確保するまで時間がかかった。だが、この数試合の戦いぶりは、レスターファンを非常に勇気づけている。そのエネルギッシュなプレースタイルは、レスターのプレー哲学に完璧にフィットしている。プレッシングこそがプレーの基盤であり、選手たちには前線からの守備が求められている。
岡崎もゴールを奪っているが、それほど騒がれないのはジェイミー・バーディーとリヤド・マレズがすごすぎるからだ。まだ必ずしも先発に定着しきれていないということは、岡崎にはプレミアリーグに完璧に適応するためにすべきことが残っているということだ。だが、2トップのパートナーをしっかりと見て仕事をして、また学び続ければ、30代に入ろうがまだまだ成長できる。
昨年の1月に大金をはたいて獲得したアンドレイ・クラマリッチをレンタルに出したのは、ラニエリ監督からの岡崎への信頼の証だ。バーディーやマレズ、ヌゴロ・カンテやダニー・ドリンクウォーターのような「替えの効かない」選手だとは言えないかもしれない。だが、間違いなく「価値ある選手」とファンにはみられている。
もしレスターが優勝したら、街はとんでもない騒ぎになるだろう。歴史的には地域のライバル、ノッティンガム・フォレストの影に隠れる時間の方が長かったチームだ。トップクラブに拾われなかった選手たちでリーグ制覇したならば、信じられないような成果だと言っていい。来季のヨーロッパの大会に出場できるトップ4で終わることだけでも、クラブ史上最高のシーズンになったと言うことができる。
奇跡の旅路は、まだ続いている。マンチェスター・シティを打ち破って、次はアーセナルとの対戦だ。今季唯一、レスターにホームで土をつけたプレミアクラブだ。
アーセナル戦は、哲学のぶつかり合いでもある。アーセナルはプレミアリーグの中でも、特にボールポゼッションをチームの重要な基盤とする。レスターは現在、イングランドで最も効果的なカウンターを繰り出すチームだ。レスターとすれば、相手がボールを保持を試みようとするのは「どうぞ、どうぞ」という好都合な話。果敢なプレスでボールを奪い、素早く攻撃に切り替えて裏を突ける。
我が初恋のレスターが、こんなシーズンを迎えるなんて、想像もできなかった。トップクラブとの資金力の差は、大きな溝となって横たわっているのに…。
たとえタイトル獲得が高すぎる目標だったと思い知らされることになったとしても、世界中のレスターファンはクラブを誇りに思い続けるだろう。チームに投げかけられた疑いの声を黙らせ、そのプレースタイルで中立的なサッカーファンを引き付けた。
オレたちはレスターだ。恐れなんて、みじんもない。プレミアリーグ制覇だって、きっと不可能じゃない。
文/ジム・ナイト