邦楽のアンダーグラウンドシーンに迫る

邦楽というとJ-POPを普通は想像します。ですが、そこから何歩か横にずれ、陽の目に当たらない音楽に触れてみましょう。そこには、耳の肥えたリスナー向けの痒いところに手の届く音楽が溢れています。
大手動画共有サイト「ニコニコ動画」では動画の内容を表すタグが設けられています。
そのタグに非常に興味深いものを発見しました。そのタグとは「邦楽アンダーグラウンドシーンツアー」です。何とも素晴らしい響きではありませんか。
このタグの元に含まれている音楽は、ジャパノイズ、前衛音楽、プログレ、パンク、劇音楽などのジャンル、他にはパフォーマンス面でアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出すものやあまりにユニークなもの狂気を孕んでいるものがありました。
このタグを見つけたのが今回この記事を書くきっかけでした。

パンクロックは外せない

邦楽アンダーグラウンドといえばやはりパンクロック・ハードコアではないかと思います。
日本のパンクバンドといえば、と聞かれて普通の一般的なリスナーは「ブルーハーツ」や「175R」、「ガガガSP」などのメロパンク、青春パンクを答えるでしょう。しかし、モノホンのパンクは反骨精神あってのものです。
この手のパンクで有名どころといえば、町田町蔵の「INU」でしょうか。それから、遠藤ミチロウの「スターリン」なんかも有名です。
INUの代表曲といえば「メシ喰うな!」ですよね。パンクっていうよりニューウェーブの裏で発足したムーブメントであるノーウェーブのそれに近い印象もあります。ただならぬ雰囲気というか言葉では表現できない凄さを持っています。
スターリンといえば、過激なパフォーマンスでも注目され、ライブハウスを破壊し出入禁止になったりと話題に事欠かないバンドでした。しかし、中心人物遠藤ミチロウは案外冷静な性格の人のようで不思議です。彼らの「Stop Jap」は名曲ですね。
また「じゃがたら」も初期は凶悪なパフォーマンスが話題を呼びました。しかし、ボーカルの江戸アケミは、客はそのパフォーマンスが目当てであって音楽を聴きにきているのではないんじゃないか?と疑問を持ち始めたのが路線変更のきっかけとも噂されています。
また、1980年代ジャパコアシーンでは「G.I.S.M」や「鉄アレイ」など過激なバンドが多数登場しました。
また、もっと時代を遡ると「村八分」などのアングラバンドとも出会うことができます。

アングラ扱いを受けるプログレたち

プログレッシブロックの一部をアンダーグラウンドに含む場合がたまにあります。
アヴァンギャルド音楽ばかりがアンダーグラウンドと密接に関わりのあるように思われがちですが、そもそもプログレとアヴァンギャルドも境界線はかなり曖昧なのです。
それではプログレ界のアングラを紹介していましょう。
『ティポグラフィカ』というバンドの音楽はアヴァンギャルドや実験音楽寄りのプログレだと思います。その音楽を一聴しただけでもものすごさを体感しますが、楽譜上でも一捻りあり変拍子にしか聴こえないのに無理やり4拍子の楽譜に書き起こしてみたりするのでもはや変態的ともいえます。ティポグラフィカはジャズバンドと括られる場合もありますが、私はプログレの要素が強いと思い今回はここに入れさせていただきました。
また、日本のプログレ界では有名なドラマー吉田達也の関連グループもかなり独特の味を持っています。
彼は『ルインズ』や『大山脈X』など数多くのバンドで活躍してきましたが、個人的に一番好きなのは『高円寺百景』です。高円寺百景はフランスのプログレバンド『MAGMA』のようなズール系プログレを演奏します。
また、吉田達也と津山篤によるユニット『赤天』はかなりアヴァンギャルド成分が強いです。日曜品を楽器にしたりタイトルがふざけてたりとアングラ感はマックスといえるでしょう。
吉田達也は最近、『Vampillia』というダークで耽美な雰囲気を持つバンドで活躍しています。

これぞアングラな前衛音楽

前項でプログレとアヴァンギャルドは近いと申しましたが、そんなアヴァンギャルドについても書いておきましょう。
日本には『ボアダムス』や『非常階段』などアヴァンギャルドやそれに近いところにある実験音楽、ノイズを発信するアーティストがアンダーグラウンドシーンに数多く存在しています。
そしてそんな、邦楽アンダーグラウンドシーンで忘れてはいけないのが、ライブハウス兼喫茶店の「吉祥寺マイナー」でしょう。
灰野敬二をはじめとする前衛的でアングラ感の強いアーティストたちが活躍していた場所でもあります。
そんな個性派アーティストたちの中に工藤冬里という人物がいます。
彼女は実験音楽ユニット『Maher Shalal Hash Baz(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)』の中心人物でもありました。
マヘル・シャラル・ハシュ・バズではローファイでエクスペリメンタルなどこか深みのある独特な世界観をみせましたが、工藤冬里関連のユニットで一押しなのが『天皇』です。
天皇は工藤冬里と大村礼子によるユニットで、ノイズに近いというかほぼノイズに等しい音楽を作ります。ですが、おそらく皆さんが想像するようなノイズミュージックとは全く違います。アルバム『Noise』からもわかるように天皇はうるさく激しいノイズではなく、幻想的で懐かしさのある音楽を作り出すのです。このアルバムは私の所持しているコレクションの中でも五本の指に入るくらい気に入っている品で、数え切れないほど再生しました。

昭和アングラ演劇の音楽

音楽という分野から離れて、アンダーグラウンドを考えると他に思い付くものは何でしょうか。
ファッション?アート?それらももちろん正解ですが、演劇という名の道を避けて通ることはできないでしょう。
現在でアングラ演劇といえば、「ゴキブリコンビナート」や「月蝕歌劇団」などが有名な団体です。では、オールタイムでこれを見ていった場合はどうでしょう。やはり寺山修司の演劇がナンバーワンかと思います。では、本題に戻り音楽のお話をしましょう。寺山修司作品の中の音楽についてです。
彼が才能を見出した一人にJ.A.シーザーという音楽家がいます。
J.A.シーザーはほとんどの寺山修司作品の音楽を担当しています。プログレッシブロックから童謡のようなものまで幅広く作曲していますが、その多くが日本的なおどろおどろしさを帯びています。最近『青少年のためのJ.A.シーザー入門』という傑作選のようなアルバムも出しているので彼の作品に触れるのは容易でしょう。他にも彼に関する書籍が復刻されたり、彼を中心に過去の寺山修司作品が再演されたりと今熱い人物でもあります。
また、アニメ「少女革命ウテナ」のテーマソング『絶対運命黙示録』の作曲も手掛けており、J.A.シーザーと聞くとこちらを思い浮かべる人も多いです。
彼のバラエティ豊かな作品の中でも演劇「身毒丸」の劇中に使用された『慈悲心鳥』はファンの中でも評価が高く、また彼の音楽の魅力がこれでもかと詰まっている楽曲ですので、是非ご賞味ください。

まとめ

近年ではインターネットの普及によりアンダーグラウンドシーンと日常との境目がかなり近くなってきたように思います。
これはいいことでもあり、悪いことでもあると思います。アングラは最低限には普及してほしい気持ちもあるのですが、あまり普及し過ぎて明るみに出てしまえば、それはもうアングラとは違う何かに変わってしまうのです。もしかしたら、アングラは変わってしまった何かに成り遂げ、アングラに取って代わる別の何かが世に密かに台頭し始めるかもしれません。私は始め、デスメタルが一番激しい音楽かと思っていました。ですが、その後グラインドコアを知りデスメタルより激しい世界があったんだと感心しました。デスメタルがグラインドコアより劣っているとは思っていませんが、このことから上には上があり、先には先があるのだと感じました。
一体、アンダーグラウンドの先には何が待ち構えているのでしょうか。

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