国が直接投資にこだわる理由
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に、株式への直接投資を認めるかどうかが議論になっている。
GPIFは約32兆円の国内株を持ち、国内市場の7.6%を占める「大投資家」である。これまで、GPIFは外部の金融機関に委託し、株式を取得してきた。だがこれからは、GPIFが株式を直接保有し、企業の株主総会において議決権を持てるようにしよう、というのだ。
GPIFを所管する厚労省は、「外部への委託に比べて運用コストを削減できる」として解禁したがっているが、「国による民間企業支配の恐れがある」という反対意見も強い。
GPIFの運用資産規模は約130兆円。「クジラ」とも呼ばれるこの莫大な年金マネーの運用を許されるためには、GPIFはどう変わる必要があるのか。そもそも、国はなぜ、直接投資にこだわっているのか。
130兆円というGPIFの運用資産規模は、確かに大きい。しかし実は、公的年金のシステムの中におけるGPIFの役割は、決して大きくない。
公的年金における「負債」とは、将来の年金給付額。一方の「資産」は、現在のGPIFの運用資産残高と、将来の保険料収入・国庫負担金の合計である。負債は資産によって賄われるので、当然、この二つの金額は見合うようになっている。
公表されている公的年金のバランスシートから試算すると、負債額は1660兆円。その負債のうちの9割以上は、将来の保険料収入と国庫負担によって賄われる。GPIFの資産運用によって賄われるのは、わずか8%程度である。
つまり、GPIFが運用をいくら頑張っても、ほとんど意味がないのだ。さらにわかりやすく言えば、GPIFが130兆円もの運用資産を持っていること自体が、無意味である。